「季のめぐり」
『日月』VOL.77(2005年1月)掲載
しらうおは祈りつつ食うきみたちがいつまでも魚でありますように
長々しき口上終えし小男が見せたりまこと蛇呑む術を
赤玉は吊られたるまま赤組の負けと決まりしのちに割れたり
タンク山より見やれば街に無名なる夕の灯りは次第に点る
名にし負う色魔たりしも住みおらむ老いて見目よき異類を娶り
プールサイドに影を投げ出す閃光にふつと想われニキビは潰れ
主義持たぬ左党たるもの泡沫の下なる辛き液を飲み干す
さ
晩夏光すがしき朝に見放くれば空に抜糸ののちの傷痕
しっぽりと月の光に濡れながら聴く湖の幽かな満ち干
くた
いちじ く
黄金より泥になりたし 裏庭にその身を腐しゆける無花果
突っ立ちておるもの誰も案山子にて筒袖の暗き内部は見せず
とうろう まなこ
晩秋の枝に縋れる蟷螂の瞼なき両の眼も枯れる
お
生きたままではかわいそう やわらかき部位は指にてしずかに圧さむ
曖昧な光を帯びて亡き子らが下りてくる午後のサンルームより
ブラインド壊れて下りぬ部屋のなか音のみにして牡丹雪降る
如何ともしがたき彼我の温度差にガラス窓拭けども拭けども曇る
冬蝶は羽をたたみつ忘れえぬ病の記憶持つものの辺に
遺志なるは違えがたなく 暁闇の卓にひとりが墨磨りはじむ
世はなべて丸く収まる手袋の内と外とを裏返したら
あ も
未だ人跡あらぬ地表に天降りきて、のち億年を守りいたるとぞ
・「地球図」 / 「明日」 / 「街角の定型論」 / 「運ばれゆくもの」 / 「蠢」 / 「あやはべる、くせはべる」 /
「描かれざりし絵」 / 「名無しの刑」 / 「戻る日」 / 「初雪以前」 / 「ひとでなし」 / 「転生祈願」 / 「僕の実験」 /
「撮影禁ズ」 / 「水辺の街にて」 / 「話ぎらい」 / 「箱の中身」 / 「ペンは強いか」 /
「うそ童心」 / 「遠い地平」 /
「バスケットケース」 / 「けるかも」 /
目次 / 歌集『風見町通信』より
/ 『アンドロイドK』の時代 / 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ
/ 短歌作品(2008年以降) /
一首鑑賞 /
新作の部屋(休止中)
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/ 作者紹介