「遠い地平」
       『遊子』第14号(2007年8月)掲載



  
宇宙には宇宙の摂理いつにても星は塵より生まれて育つ

   硬貨一枚落とせば地上世界へと向けて開きぬレンズのふたが

   ゆくりなく踏みあと途絶ゆ生え抜きにあらざる芝のひとところにて

   この先に駅ある限り粛々と風のみならず人も通える

   非はないと暗に主張す読みさしの本はだらりとひもを垂らして

   知恵もまた力もなくてナメクジの角は押される前に引っ込む

   目に悪い液晶画面の隅っこに言葉を抛るゴミ箱がある

   捨てておけいずれ切り身となる前のどの金目にもありし尾頭

   いまだ通たるには遠くとりあえず生にこだわる魚も酒も

   叩かれるまでは鳴かない木琴の頑なにしてバチにて打たる

   思考停止したる男の胸元に上下繰り返さるるダンベル

   つつがなくこの両腕が夜の部も同じあいつを殺して終わる

   馬の目に大空の青溢れむか生きたるままに目こそ射抜かば
     
あした
   その朝家居にありて剥き出しの膝はひとまず手でぽんと打つ

   枝々に雪、国のため懸けられしままの他人の命いくつか


   「地球図」「明日」「街角の定型論」「運ばれゆくもの」「蠢」「あやはべる、くせはべる」
   「描かれざりし絵」「季のめぐり」「名無しの刑」「戻る日」「初雪以前」「ひとでなし」「転生祈願」
   「僕の実験」「撮影禁ズ」「水辺の街にて」「話ぎらい」「箱の中身」「ペンは強いか」 / 「うそ童心」 /
   「バスケットケース」 / 「けるかも」
   目次歌集『風見町通信』より『アンドロイドK』の時代『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ / 短歌作品(2008年以降)
   
一首鑑賞 / 新作の部屋(休止中) / うみねこ壁新聞作者紹介