「あやはべる、くせはべる」
『Esナジェーナ』第8号(2004年11月)掲載
─「特集・神話」参加作品─
一あかおなりみかみの
まふらてゝ おわちやむ
やれ ゑけ
又 おとおなりみかみの
又 あやはへる なりよわちへ
又 くせはへる なりよわちへ
(おもろさうし十三巻九六五)
神などと思わざれども守りたき男の子のあれば飛ばむかわれも
開戦の朝の旅立ち渚には空の艀の次々揚がる
さりげなくあらねばならず海にては稀なるヒトも五彩の蝶も
いも
押し遣れば逝ってしまいそう その背中妹なるは細き腕にて支う
気づかれたらおしまいなればひょろ長き蝶の舌にてくれる口づけ
ゆ
海の向こうに戦いありて離陸する機体 されども征かず兄らは
四海よりわれらを分かちいつからかそこにジュゴンと珊瑚のうみが
かみんちゅ
神女の歌は終わりぬ背後にて男ばかりが立ち上がる刻
つ
蝶となり従いてゆきたし戦なき今は異国の兵士のために
〜(前略)〜
又 世こと まは 世さうせ まは
ゑけりあんし
又 しま ゑれい 国 ゑれい
おなりあんし
又 しまも まは 国も まは
ゑけりあんし
又 うみちへ ゑれ おかちへ ゑれ
おなりあんし
又 うみちへ まは おかちへ まは
ゑけりあんし
又 たま ゑれい つしや ゑれ
おなりあんし
又 しなわにな やひきやにな
ゑけりあんし
(おもろさうし十四巻九九八)
世事に疎き箱入り娘のふりをして政治はいやとけんもほろろに
血と汗に幾たび濡れて乾きたる島いりませぬ、国いりませぬ
小さくても歯ごたえのあるものばかり 海ぶどうきらい、みみがーきらい
ぎょく
望みしは愛ならずしてとりどりの玉に宿れる妙なる力
ようよ
神いまだ降らざる野の苫屋にて妹は兄に漸う撓う
賜りし宝珠に映る海の果て神州と誰か呼びし国あり
*
泰平の世に犇ける生者死者こぞりてぞニライカナイを目指す
あやはべる く はべる
早船の水脈に後れて海つ路を辿りゆく 綾 蝶、奇せ蝶
引用は外間守善『南島の神歌』(中公文庫・1994年刊)による。
・「地球図」 / 「明日」 / 「街角の定型論」 / 「運ばれゆくもの」 / 「蠢」 / 「描かれざりし絵」 / 「季のめぐり」 /
「名無しの刑」 / 「戻る日」 / 「初雪以前」 / 「ひとでなし」 / 「転生祈願」 / 「僕の実験」 / 「撮影禁ズ」 /
「水辺の街にて」 / 「話ぎらい」 / 「箱の中身」 / 「ペンは強いか」 /
「うそ童心」 / 「遠い地平」 / 「バスケットケース」 /
「けるかも」 /
目次 / 歌集『風見町通信』より
/ 『アンドロイドK』の時代 / 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ
/ 短歌作品(2008年以降) /
一首鑑賞 /
新作の部屋(休止中)
/ うみねこ壁新聞
/ 作者紹介