「転生祈願」
       『現代短歌雁』第61号(2005年12月)掲載



   雲あらぬ青天井こそさみしけれ風に逆らう者のみがいて

   飛び去りしのちなる白きまぼろしの像としてあり希望も鳥も
                                まなこ
   光あれ、と再び聞けば易々と開く民らの病める眼も

   もう沈みそうな笹舟急がせて川のうわべを滑りゆく水

   かつてかくありし歳々日めくりの真下小さき屑籠置かる
                                   ねが
   使い捨ての身を厭いいていつの日か弊履たらむと冀うスリッパ

   徳高き王戴ける僕らゆえ元より断たむ舌禍筆禍も

   溺るるも心地よからむ春の海死してのち身ははじめて浮かぶ

   うしろより刺す夢覚めし夜の床に背筋さやけく反らすタチウオ
             ウ ニ          ふ さ
   海底に肥えゆく海胆らおのが身に相応う穴へと殻ごと移り

   ひりひりと海辺に熱き陽を浴びて生き餌たるべく蚯蚓はうごく

   釣るためのテグス届かぬ深海の魚にもありて結ぶくちびる


   「地球図」「明日」「街角の定型論」「運ばれゆくもの」「蠢」「あやはべる、くせはべる」
   「描かれざりし絵」「季のめぐり」「名無しの刑」「戻る日」「初雪以前」「ひとでなし」「僕の実験」
   「撮影禁ズ」「水辺の街にて」「話ぎらい」「箱の中身」「ペンは強いか」「うそ童心」 / 「遠い地平」 /
   
「バスケットケース」 / 「けるかも」
  
目次歌集『風見町通信』より『アンドロイドK』の時代『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ / 短歌作品(2008年以降)
   
一首鑑賞新作の部屋(休止中)うみねこ壁新聞作者紹介