「名無しの刑」
『遊子』第12号(2005年2月)掲載
贖罪の日々終えたれば今日からはみんなと同じ 生きてゆかねば
出立の朝のときめき 穢れなき他人の手にて門は開けられ
足の裏よごすでもなく浮き世では靴で地面を踏みつけにする
顔という顔仰向かせ神々が空の重さで潰しにかかる
胸板の薄きを腕に抱きながら弥生卯月はふるえて過ごす
おの
真水にて清められたる手とともに忘れゆく己がなしたる罪も
しる
日記から誤字だけが転げ出してくるあの日記せし筆跡のまま
言わされしことのいくつか歴として残れり嘘もまして真も
恨ムナラ自分ヲ恨メ ふり返るしかない過去に降るそぞろ雨
念入りに打ちつけたりきハンマーの柄には五つの指紋を残し
僕だけのものとしてある真相が身の内深く粉を吹き始む
く
それもあるいは無実の証し積年の悔いがにじみ来眉間の皺に
とき
季は初夏 重きに過ぎるお仕着せは脱ぎ捨て西へ西へと下る
いつかまた森へ行きましょうわが内より出でたる全き魔物に曳かれ
正当な理由ならある 深淵を跳び越えて明日は自在に生きる
・「地球図」 / 「明日」 / 「街角の定型論」 / 「運ばれゆくもの」 / 「蠢」 / 「あやはべる、くせはべる」 /
「描かれざりし絵」 / 「季のめぐり」 / 「戻る日」 / 「初雪以前」 / 「ひとでなし」 / 「転生祈願」 / 「僕の実験」 /
「撮影禁ズ」 / 「水辺の街にて」 / 「話ぎらい」 / 「箱の中身」 / 「ペンは強いか」 /
「うそ童心」 / 「遠い地平」 /
「バスケットケース」 / 「けるかも」 /
目次 / 歌集『風見町通信』より
/ 『アンドロイドK』の時代 / 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ
/ 短歌作品(2008年以降) /
一首鑑賞 /
新作の部屋(休止中)
/ うみねこ壁新聞
/ 作者紹介