「僕の実験」
       『遊子』第13号(2006年5月)掲載



   本当は見つけてほしい枝に降る雨にふんぞり返るしゃくとり

   世の中が乾いてくればひび割れるこんな分厚い唇でさえ
                                   
   あつ
   使い途はあとから決める瀟洒たるシャーレ、ビーカーなども蒐めて

   九分九厘本気であるが目の色で比べられたら兎に負ける

   薬剤が生死を分かつ世に生きて仁あれかしとこぼす藪医者

   さりげなく目を見て量る人柄も生きた兎であるかどうかも

   死に方が大事らしいと偉人伝「野口英世」に教えられたり

   言うなれば終わりがすべて研究棟地下ラボにあまた標本並ぶ

   実験は遊びならねばやってみるまではいかなる結果もありうる
                     
 から
   しかるべく用意されたる情けには鹹き涙ですぐに報いつ
                          

   言いわけの大ッ嫌いな僕のため懺悔は小さき窓を隔てて
                                       
 ひ と
   地球以外の星を見ていた星だけしか見えないプラネタリウムで他人と

   彼女はもう存在しないやるべきこと僕より先にやってしまって

   誰にでもひとつ天賦の才ありて忘れたころに錆びて見つかる

   よろこんで食われてやろうこのままじゃ来世はきっと植物だから


   「地球図」「明日」「街角の定型論」「運ばれゆくもの」「蠢」「あやはべる、くせはべる」
   「描かれざりし絵」「季のめぐり」「名無しの刑」「戻る日」「初雪以前」「ひとでなし」「転生祈願」
   「僕の実験」「撮影禁ズ」「水辺の街にて」「話ぎらい」「箱の中身」「ペンは強いか」「うそ童心」 /
    
「遠い地平」  / 「バスケットケース」 / 「けるかも」
   目次歌集『風見町通信』より『アンドロイドK』の時代『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ / 短歌作品(2008年以降)
   
一首鑑賞新作の部屋(休止中)うみねこ壁新聞作者紹介