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「ひかりの季節」
          『歌壇』2001年10月号掲載



   どの季節もいずれは替わることわりの白々と花咲けば知らるる

   散り敷ける地上よりしばし目を上げて良夜残んの花を見ており
       このした          うれ
   虚ろなす木下闇にさみどりの梢は光の雫を垂らす
                   
   高層の窓にはるけき富士が嶺に瞬けば逆さ睫毛は刺さり

   一機高みを過ぎゆきて日の降りくれば灼くる若人たちの手の甲
  さか
   離るほどに視野に入りくるもの多く かくて空にはあらむ神の目
           はたて      は
   はろばろと霧の涯に屹立す美しき水晶の街として首都
                     ほそ       うず
   緑雨とう雨街路樹の葉に射して繊きすきまを埋めゆくなり
        お
   ひとつ事了えし人々きのうとは違う涼しき場所へと帰る

   駐輪場はつかに傾ぐ気配してそこより朝のひかり萌し来ぬ

   すすきの穂こぞりて北へ靡くとも暖かき風とばかり信じぬ
  にびいろ         こうこん
   鈍色の客車ひとつら黄昏を地下隧道に入りて出で来ず


   「居酒屋しろねこ亭」「爆心紀行」 「犬帰る」「生誕前夜」「未来史稿」 「やさしい神」「どん」「青髭公異聞」
   「第五間氷期まで」「不自然淘汰説」 「見えぬ声、聞こえぬ言葉」「木々起立」「花の綺想曲」「ある帰郷」「はつゆめ枕」
   「僕らの時代」
   目次 歌集『風見町通信』より 『アンドロイドK』の時代歌集以後発表の新作一首鑑賞 / 新作の部屋(休止中) うみねこ壁新聞
   
作者紹介