「青髭公異聞」
『遊子』第9号(2002年5月)掲載
昔からそう決まってる うまそうなヤツは必ず最後に食べる
母なる手なべてうるわし食うよりも食わすため彼ら花芽をむしり
おのが影ほどろに霞む刈られたる髪の穂先のはらはらと散り
はこ ひいな
ひとつずつ筺に眠れる雛の髪 やがてひとすじ白きも混じり
息のあるうちに根こそぎ集めたる頭髪をかつら店にて捌く
悪しき精何ごとか闇に囁けるその間しずもりいたる夜蝉
ひそけくも終車発ちたり後尾より魔女の耳もつひとりを降ろし
し
網戸ごしにしみ入る風は机上へとあまた羽虫の屍を運びくる
地上このごろ騒がしければ目を閉じて眠るオオサンショウウオ泥に
キット
屹度世界ハモウオワリデス 朝ごとに水鏡水と光を集め
風はかく密かに生まる若きらの肌にまとえる一糸を乱し
子らの指あまた寄りきて夕まぐれピアノの蓋をこじ開けむとす
どの血にも忘れられたる父祖ありて名のみ記されいたる点鬼簿
おくか
朧夜の森の奥処に掘り出だす昔美しかりし手の骨
青髭ダト知ッテイマシタ。ワタシダケガ知ッテイテ、ワタシシアワセデシタ。
・「居酒屋しろねこ亭」
/ 「爆心紀行」 / 「生誕前夜」 / 「未来史稿」 / 「ひかりの季節」 / 「やさしい神」 / 「どん」 /
「第五間氷期まで」 / 「不自然淘汰説」 / 「見えぬ声、聞こえぬ言葉」 / 「木々起立」 / 「花の綺想曲」 / 「ある帰郷」 /
「はつゆめ枕」 / 「僕らの時代」
目次 / 歌集『風見町通信』より
/ 『アンドロイドK』の時代 / 歌集以後発表の新作 / 一首鑑賞 / 新作の部屋(休止中) /
うみねこ壁新聞
/ 作者紹介