「居酒屋しろねこ亭」
『遊子』第7号(2000年4月)掲載
お近づきのしるしにひとつ、肴なら言い訳と絶望がいま旬
お早めにおいで下さい今ならまだ注文は多くありませぬから
その日まで狂わぬように生かしおく使命天より帯びて天子は
みんなみ
信じ切ってみたくて僕ら 南 の島に集えり飛ぶ船に乗り
はくみょう
未踏なる地に放たれて弾むがに霧中に紛れゆきし白猫
愛づるほどに輝くという蝶ひとつ玻璃うすき深き壜に生け捕る
手ずからに神は授くる獣には火を罪知らぬ子らには罪を
地に光あまねき朝に人知れず狂い始めていたる日時計
死者たちの黒き怒りも籠められしひとつひとつの花火の終わり
おとな
訪える人なき寒き病棟に真夜いく百のつぶやきは充ち
蝉時雨生けとし生けるものなべて死に絶えし私ひとりの朝に
誰も知らないうちに始まるどちらかが勝つまでは誰も死なない戦争
戻り来る者誰もなきその道の向こう僕ではない僕がいる
誰モガミナシアワセニナレル 声ひそめ君にだけばれるようにつく嘘
信じ切れない過去止まり木に語るとき胸の高さになづむ盃
・「爆心紀行」 / 「犬帰る」 / 「生誕前夜」 / 「未来史稿」 / 「ひかりの季節」 / 「やさしい神」 / 「どん」 / 「青髭公異聞」 /
「第五間氷期まで」 / 「不自然淘汰説」 / 「見えぬ声、聞こえぬ言葉」 / 「木々起立」 / 「花の綺想曲」 / 「ある帰郷」 / 「はつゆめ枕」 /
「僕らの時代」
目次
/ 歌集『風見町通信』より
/ 『アンドロイドK』の時代 / 歌集以後発表の新作 / 一首鑑賞 / 新作の部屋(休止中) / うみねこ壁新聞
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作者紹介