一日本に於ける武勇伝説の考察 |
義 経 伝 説 |
義 経 文 学(判官物) |
1武勇伝説の語義と本質
緒言 ヘルデンザーゲと武勇伝説 武勇伝説の二大別 2日本に於ける武勇伝説の展開
3日本武勇伝説上の中心人物
二 義経文学の概説 1 義経文学渉猟と鑑別 2 近古の義経文学 3 近世の義経文学
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1 義経伝説の四要素
@時・人・所・事 A義経伝説の中枢人物 1九郎判官義経 2武蔵坊弁慶 3静御前と佐藤忠信 4その他の人物 四天王 鈴木重家及び金売吉次 常陸坊海尊附残夢仙人 梶原景時 牛若丸時代に属する伝説
3 全集団としての義経伝説
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1 文学として現れた義経伝説
叙事詩的作品としての義経伝説 劇文学としての義経伝説 小説としての義経伝説 義経文学の佳作 2 義経伝説の集成としての
3 義経伝説の擬成としての
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2001.11.29 佐藤弘弥
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これは二十年前の原稿で全く御恥ずかしいものである。観方も若くて浅いし、資料の蒐集穿鑿も十分でなく、取扱の方法も意に満たぬ節々が随分と多い。原文の文章など、今閲ると稚気の脱けきらぬところだらけで、我ながら笑止の感を禁じ得ぬものがある。本書の出版は実はもうずっと以前から先輩や友人や書肆やに屡々慫慂せられたのであったが、部分的には多少筆を加えて、国語と国文学・日本文学聯講・岩波講座等に発表したことはあるけれども、全体としては如何にも梓氏を煩すだけの勇気と自身とがなく、閑暇を獲てもう一度すっかり書き改めてからと言い言いするうち、いつか二昔にもなってしまった。が、その後こうした研究も出ぬようであるし、又自身は公私多忙の上、殊に今は他の研究で手一杯であり、今後も恐らく本稿を新に整頓し直す時間は到底許されそうもないので、一には貧しいものながら、後の志を同じくする人々の為に徒労を省きたく、そして多少でもこの方面の学の建設に際しての礎石の一部にはなるように思われるし、自身としてもこのまま筐底に葬り去るのは身勝手か知らぬが流石に■(奚+隹)助といった念いがあり、それに今となっては、寧ろ曽ての稚愚な自分の姿をこうして留めて置いて、ふりかえって眺めても見たい心持も加わり、そうなると、却って気易さも出て来て、思いきって上木する気になった。唯、何分にも大正の初、謂わば明治末期と言ってよい頃の稿本なので、原文は当時通行の文語体で、余りに隔世の感があり過ぎる。読者並びに出版書肆の迷惑を考え、明治書院と相談してこれだけは口語体に書き改めることにしたが、怱忙の間の走筆であるから、推敲足らず、点綴の拙劣さから、時折原文の姿態が想測せられて、読者を破顔に誘うところがあるかも知れないことを御詫せねばならぬ。体裁や内容はなるべく原の姿を遺すことに留意した。そして明白な過誤は正し、又読み物として説明が不十分と思われる箇所で気づいたところは適当に補刪した。各伝説の項目中、〔解釈〕は稿本には〔意義〕として置いたのを、改めてみたのであるが、厳密には〔本拠〕や〔成長〕などの解明も〔解釈〕の一部であるべきであるけれども、それら特殊の項目を立てる方が妥当と思われるものは別に独立させて取扱い、従って〔解釈〕と言っても略々原の〔意義〕(Bedeutung)といったほどの意味で、それをもっと自由にしたというに過ぎない。これらはまだ私の一提案というだけで、自分でも満足ではない。それから稿本作成後の新資料や新説等は、〔補〕として随処に挿入して置いた。特に本篇第二部の「『義経記』と『義経物語』」は岩波講座に発表した拙稿『義経記』中の第四章に僅かに筆削を施して添加したものである。なほ『義経記』に関する部分は本書と重複する点もあるが、本書に言い及ばぬ点も含んでいるから、同稿をも併読していただくことを御願いしたい。
本稿の校正は本年八月末から始まり、歳末を前にして漸く校了した。何となく気ぜわしい中に、小さいけれど永い間の何がなし厄介な妙な荷物を肩から下ろして、ほっとした気持ちである。それが判官義経が腰越で抑留された時から今年は恰も七百五十年に当たるのも、偶然ながら彼義経の所謂「将又先世の業因を感ずるか」とでも言おうか。そしてその校正を急ぎつつある間、東都の劇壇では毎月義経物が上演され続けた。九月には東劇に『ひらがな盛衰記』の「逆櫓」、十月には歌舞伎座に「菊畑」の豪華版、十一月には同座に極付の『勧進帳』と、直接義経には関係は無いが復『盛衰記』の「源太勘当」、それに大歌舞伎以外でも、十月の新宿歌舞伎座には三升座の新作『カムイ岩』、十一月は九段の軍人会館で国性劇の『栗橋の静』の再演と、判官劇の繁昌はさながら文化・文政期の再現とも言いたいくらいである。やはり義経は千古に生きている。――国民の中に、大衆の間に。そしてそれは正史の義経としてよりは、伝説として、文学として。本書の印行もかくて全く無意味のものではないであろう。
昭和九年十二月
著者識
2001.11.29
2002.3.25 Hsato