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「TOKIOの噂」
             『遊子』第5号(1998年5月)掲載



   糸垂らしつつ釈迦牟尼はつれづれを海よりも深き奈落眺めおり

   数珠つながりに尾根をはずれる年甲斐もなく手をつないだハイカーたちが
              いくさば
   公園となりたる古き戦場は先にいたいけなるを立たせて

   十二階に議事粛々と運ばれて蒼天ふかく逸れてゆく理路

   午後、いずこなりとも知れず情薄き声のみにして泣く赤子あり

   人数分のクラス新聞刷りそこね焼却炉にくべている老教諭

   喧噪の街に盲導犬はぐれ昼の終わりを待ちているなり

   問い返せば使徒ら声音を弾ませてつぎつぎに真実を繰り出してくる

   身の内に水あるゆえかくるめきて風の子らには釣れぬヨーヨー
                          こわ
   時代越え生きぬきし流しの歌手ありき強き心を切り売りにして

   口ごもる目病み男に「ねえ、わたしきれいっ?」と風邪引き女が迫る
                                    ろくぼく
   意地っ張りのコロボックルを乗せたまま真夜校庭に眠る肋木

   おじさんは少女が好きでそこだけが少し大人の腿をまさぐる

   ビル街に地底人出てきて一斉にビル解体を始める月下

   ひと夜限りの海彦ら海に漕ぎ出でて夜明けちっぽけな魚を釣り上ぐ


   「うみねこ癲狂院」 「とむらい抄」 「さよなら天使」「ZONE」 「癒されぢごく」
    「始めの海へ」 「血のマーメイド」 「ビョーキ天国」「あすなろ短歌教室」
   「アンドロイドK」
   目次 歌集『風見町通信』より 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ 短歌作品(2003〜07年)短歌作品(2008年以降)
  
  一首鑑賞 / 新作の部屋(休止中) うみねこ壁新聞 作者紹介