「血のマーメイド」
『遊子』第3号(1996年12月)掲載
うつ
夕暮れの雨に紫陽花のいろ遷り忘れえがたきことより忘る
ひび
憎悪さえ韻きとなして肉厚き十指に揉まれいたるピッコロ
南棟に異国の少女棲みいてその鳴らすうみほおずきなる知らず
銀幕に虚像どうしがすれ違うただの行きずりなるはずもなく
愛にはまだなりきらぬから陽の射している側にのみくれる頬ずり
見上ぐればビルより高きあの空は日の移ろいを人に知らさぬ
ひとひ
犇めきて街にさまよう一日果てまだ膨らみっ放しの胸が
歩むものみな人にして人拒むための横顔誰もふたつ持つ
真夜ひそと芽吹くたやすく信じたりしない心に憧るる樹は
出会うべくして出会いたる僕らゆえこんなにも作り笑いは弾け
春の少女風に心と黒髪を乱されしそのたまゆらの修羅
みなわ
月明に水泡と変わるたまゆらを透けて真青き血のマーメイド
いまわ
今際なる無明の闇に声のこり ココマデハミンナ嘘デアッタ、と
風通う午後の車中に心凪ぐ人なき通過駅を過ぐれば
降りし位置にて空車送れば後尾灯ふと沈むがに消えし暗坂
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目次 / 歌集『風見町通信』より
/ 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ / 短歌作品(2003〜07年)
/ 短歌作品(2008年以降)/
一首鑑賞 / 新作の部屋(休止中)
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