「ビョーキ天国」
『遊子』第4号(1997年7月)掲載
告白ののち朝までを晒しおけば風にはやくも乾く舌の根
ほかならぬ天使のきみは天使のまま人ひとりたやすく殺してみせる
日々たまりゆく花日記取り返しつくことばかり思い出にして
頭上にわかに葉洩れ日は降る箱庭の松の木蔭に私を置けば
たわ
裸婦描けば無心たるべき筆先にことさら撓めらるる腰つき
一人客ばかりが妙に長居する寒き茶房のひねもすのサティ
標なき国の都会の森ふかく、グレーテルだけもう食べられた
こ
ふられ病の僕は誰にも似ていない娘に片っぱしから恋をする
小声にて後ろめたさをしきり言う忌明の膳にヒナ喰う婆が
矯めつ眇めつなせばかならず砕けたる殻いくかけら混じるボンゴレ
安バアにて爆発する今日いくたりの硬きもみあげ截りし理髪師
螺旋階段昇りつめたる好々爺しゃぼん玉おとす子らの頭上に
王子様が僕に似てるという噂聞き捨てて真夜ひとりの寝屋へ
われならぬ昨日の僕が眠りこけ尾を出している薮の中から
見えるのはばかに遠いい空の青 ああもう俺は死んでいるのだ
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目次 / 歌集『風見町通信』より / 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ / 短歌作品(2003〜07年) / 短歌作品(2008年以降) /
一首鑑賞 / 新作の部屋(休止中)
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