千葉光男氏のこと

 

千葉光男翁千葉光男氏(写真右)は、大正4年1月30日、栗駒村沼倉木鉢に生を受けた。その後、昭和19年栗駒村森林組合に勤めた。

昭和27年には沼ケ森生産森林組合を設立して、杉や赤松などを植えた。その事業は、昭和43年までに、実に700ヘクタールの規模となった。その間、昭和30年には陛下ご臨席の下、緑化推進全国大会(宮城県黒川郡大衡村)が開催され、県知事より造林功労者として表彰を受けることとなった。昭和33年には社団法人栗駒愛林会を発起し、今日に至っている。

その傍ら、千葉光男氏は、地元栗駒の歴史に興味を持ち、元栗駒村村長菅原巳之吉氏の薫陶を受けながら、様々な地元栗駒の話を収集した。その成果は、栗駒町の史談会の各紙に発表され、好評を博した。昭和43年には、今回デジタル化が完了したこの「栗駒の話」が刊行された。「栗駒の話」には、素朴軽妙な筆致で語られる氏独特の世界が形成されている。そこには単に栗駒の一地域の昔話というよりは、かつて日本の里村の何処にでもあった春の息吹のような世界が展開している。まさに「在るようでいて無い」そんな風土が瑞々しく語られている。

序文は、日本民俗学の父柳田国男の後継者と云われる故宮本常一博士が寄せている。氏の交遊の広さに改めて驚かされるばかりだ。序文の中で宮本氏はこのように語っている。「地方にこういう人のいる間地方は発展する。・・・なぜならそうした人はその地を真から愛し、真から大切にしているからである。」同感である。千葉氏のような人がいる限り、栗駒という里村は、今後も奥州独特の風情を残す里の村としてその文化風土や景観が引き継がれていくことであろう。

私は、この本を、2000年のある夏の日に、亡き父(佐藤光弥)の本棚から見つけた。巻末に「呈上 佐藤光弥大兄」とあった。その時、何故か分からぬが、ひとつの因縁のようなものを感じた。千葉光男氏は、長年に渡って父の友人であり、その縁もあってか、栗駒の沼倉飛騨守の碑を円年寺に建立するという時には、父が世話人のような役割を担い、その歴史的背景の裏付けについては、常にその中心に居られたのが千葉光男氏であったと聞いている。

図らずも父は1971年秋に他界し、それから30年の歳月が過ぎようとしていた。そんな夏の日に、千葉氏が父に送った一冊の書物(栗駒の話)を目にした時、突如として私の中にこのような思いが浮かんだ。「この書物を、何とか多くの人々が読めるようにしよう」と。それは栗駒のためであり、千葉氏への深い敬意であり、亡き父への追悼の意味を持つものである。そのことを千葉光男氏に話すと、一瞬の躊躇もなく、快諾していただいた。

ところがそれからが大変であった。快諾していただいたにも関わらず入力作業は、遅々として進まなかった。それでも何とか二年余りの歳月が流れ、ようやくにして、ここに全文を入力し終えることができた。誠にもって、千葉氏のご行為に報いた安堵感で只々一杯である。

皆さま、どうかこの本が醸し出す独特の里村の人々の感性をじっくりと味わっていただきたい。どっこい都会ばかりが日本ではないということが、しみじみと分かるはずである・・・。

2002年4月24日

佐藤弘弥

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栗駒の話


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はしがき
岩崎敏夫(はしがき)
序文
宮本常一(千葉さんと私)
第一話
かくれる祠
二話
漆万杯、黄金おくおく
三話
鞍掛沼
四話
法師ケ原の衣石
五話
立石の田圃には蛙がいない
六話
強盗墓
七話
夜と昼は行燈の灯で区別した
八話
お駒様の里宮について
九話
判官森(一(二)
十話
立石の金左エ門
十一話
平三寺様
十二話
助だんぼう
十三話
筆塚
十四話
留岡では女が葬りに立会わない
十五話
三人の家来
十六話
電気婆
十七話
ウマクなかったお菓子
十八話
おシャンに受取り候也
十九話
立石の松
二十話
川原市
二十一話
八日吹雪(8日ふぶき)
二十二話
佐々木仁田の四郎
二十三話
金草の爺んつあ
二十四話
山神様の木調べの日
二十五話
渡辺の家には屋根には煙出しがなかった
二十六話
明玉様はお帰りになった
二十七話
高印の鍬の柄
二十八話
木まくら
二十九話
栗駒のキツネ(狐)とムジナ(狢)の話
 
1.根洗場の万仁右門狐
 
2.貴船の花子
 
3.馬橋坂の万寿郎
    
4.立沢太郎
三十話
栗駒のホラ吹き達
 
1.幸太ふく
 
2.高田の直吉
 
3.平場の兼吉
 
4.大森山のネングリ
 
5.白鳥は打つもんでねえ
三十一話
出せばのむのはなし
三十二話
脱帽をとってください
三十三話
貫門御免は二軒であった
三十四話
とるべて、とられた話
三十五話
流し木
三十六話
日本は広い
三十七話
あがと川の歌
三十八話
よろしくたのむぞ幸太おぢ
三十九話
ガクマ
四十話
有難い曼陀羅
四十一話
花咲爺
(付一)
栗駒の里唄
 
1.大物曳き木遣音頭
 
2.杓子舞
     
3.神楽くずし歌
 
4.田植歌
 
5.たんぶつ(田打)歌
(付二)
栗駒山の古歌妙
(付三)
栗駒の地名
後序
菅原栄作
あとがき
千葉光男

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