第三十話

栗駒のホラ吹き達



1.幸太ふく

水押の幸太爺が西山沼に鉄砲ぶちに行きました。

沼に鴨が二羽浮いていました。ねらいを定めて一発放しましたところ運よくも二羽を射止めました。沼を回って行くのが大儀だとばかり泳いでエモノをとりに行きました。岸に上って見るとハカマに四升ばかりのエビがとれていました。

向山をちょっと見ると、さっきのそれ玉で兎が一匹手負いになったのでしょう。一生懸命に地をかき散らして苦悶していました。これ幸いと兎をし止めて見ると、哀れにも山芋四、五本胸にだいて死んでいました。苦しんで地をかき散らしたとき山芋の根元をかいたのでありました。

幸太郎爺はよろこんで鴨二羽兎一匹、山芋五本エビ四升を背負って帰りました。
 
 

2.高田の直吉

高田の直吉爺んつぁまがいり山に茸採りにいきました。楢の木の根っこで糞をふみつけて辷って転んでしまいました。その拍子にマムシに足をかじられました。驚いて飛び上がったら今度はスガリ(蜂)の巣に頭を打ちましたので、顔中モウモウとなるほどスガリにさされて茸は一つもとらねで帰って来ました。
 
 

3.平場の兼吉

田尻のやすえ婆んつぁまは駄菓子を商うかたわら居酒屋もやっていました。

兼吉には度々(ふかれて)貸しが重っていました。

「今日はどんなことがあってもだまされねえ」と言うてコップ酒一杯をもことわって帰しました。

兼吉も今日ばかりは空しく引上げて淋しそうに戻りました。

途中で仲間の綾人衆に会いました。

「なんだやー兼吉衆不景気な面してさ」と言われました。「いや今日ちょっとばかり忙しいもんだので」と答えました。銭コねえくて酒こ飲まねとは言えませんでした。

そのときトタンに元気が出て来ました。そして勢いよく走り出しました。田尻の婆んつぁんのところに駆け込み、「ばんつぁんばんつぁん大変だ、今な新家の馬コけがした、手当しなくてなんねいから焼酎一本やってけろ」と息づかいも荒々しく一大事を訴えました。婆んつぁんあわてゝ焼酎一本兼吉にだまされました。
 
 

4.大森山のネンネング

欠の下から西山に山越えする途中に大森山とよぶ峠がありました。ここにネンネングと呼ばれる狐がいました。

夕方の山路を通るときは淋しい気持ちになるものです。その頃どこからともなく赤児のなき声が聞えて来ました。そして子守り唄をきくことが出来ました。

ネンネンコヤーネンネンコヤーと聞えるのでした。大森山のネンネングと呼ばれる様になりました。
 
 

5.白鳥は打つもんでねえ

むかしから白鳥は発砲禁止になっていました。長竹の安右エ門爺が今の整理田(耕地せいりされている浦田沖の田のこと)に下りた白鳥を珍しさに打ってしまいました。

近所の人達はこのことを聞いて見物に来ました。白鳥を見たことがないから珍しいからです。

爺は得意になって見物人に毎日ドブロクを振舞って、ついに六尺一本空にしてしまいました。

そして「白鳥はうつもんでねえ」とため息をつきました。
 


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2000.09.05 Hsato