うみねこ かべしんぶん    1997年6月17日


予告!
  『季刊現代短歌雁』39号に評論掲載。

 近日発行予定の同誌第39号「新鋭評論」コーナーに、山田消児執筆「私の潜め方」が掲載されます。昨年短歌研究新人賞を受賞した横山未来子さんの作品を題材に、、短歌における「私」の問題を論じたものです。また、私の所属する同人誌『遊子』第4号(今夏発行予定)にどくぐも時評第1回第2回を全面的に書き改めた文章「毒蜘蛛の夢」を発表します。こちらの方は、宮川ダイスケ氏のホームページ紹介を中心に据えています。あわせて、乞うご期待下さい。

『季刊・現代短歌雁』は雁書館発行。定価1,300円(税込)。池袋のぽえむ・ぱろうる、芳林堂書店、神保町の東京堂書店などで買えます。


どくぐも時評   第3回
  数少ない読者の皆さん、お久しぶり。長い冬眠からようやく覚めたどくぐもを覚えていてくれただろうか。冬眠とは言いながら、そこはどくぐも、ただ寝てばかりいたわけではなく、時には缶ビール片手にパソコンの前に座り、WWWの海に漕ぎ出したりもしていたのだが、急速に普及しつつあるインターネットの混沌ぶりにめまいがしてなかなか起き上がれなかったというのが正直なところなのである。
 話を短歌に限ってみよう。坂井修一氏の開設している『短歌ホームページ』に登録されている歌人は着実にとはいえないまでも遅々たるペースで増えて現在30名。その中には、田中亜紀子早坂類宮川ダイスケ各氏のホームページのように、短歌に特別の興味を持たない偶然の訪問者でも楽しめそうなものが出てきている。このうち、田中、早坂両氏のページは短歌のホームページというよりは作者の広い関心を網羅したページの中に短歌も含まれているというのが正確で、短歌主体のページとしては宮川氏のそれが群を抜いているといえるだろう。多くのホームページを見て回りながら自戒を込めて実感したことは、コンスタントに更新することがいかに大切かということで、この点からも宮川氏ら三氏のページはたいへんに優れているのである。
 ところで、どくぐもの朝寝坊ゆえいささか旧聞に属することとなってしまったが、2月28日付『読売新聞』夕刊の文化面で現代短歌の重鎮塚本邦雄氏がインターネットに触れてこう書いている。 

 現代の稀薄平凡な短歌が、「ネット」化によって層一層、焦点の定まらぬ、機会詩の洪水化に拍車をかける結果となるだろう。

 氏らしくもない粗悪な文章であるが、それはさておき、どうしてインターネットが機会詩の洪水に拍車をかけるのか、私には全くわからないのである。メディアが作品の本質に何らかの影響を与えるであろうことについては、「どくぐも時評」第1回でも触れたように私にも異論はないが、手軽に発信できるからといって中身まで手軽になると考えるのはいささか単純に過ぎるというものだろう。どのような発表のし方を採るにせよ、短歌が作者の内なるモチーフから誠実に詠い出されるべきであるのは当然のことで、もし現在の短歌が稀薄平凡であるとすれば、それは「ネット」化のせいなどではなく、ひとりひとりの作者の歌に対する態度に起因すると考えるほかはない。むしろ「ネット」化において私たちが警戒すべきなのは、否応なしにつながってしまうことによる「ネット」の「壇」化であって、それを避けるためにも、ただ流行だから試してみたというだけではない、確たる意図と戦略が必要だと言いたいのである。
 ところで塚本さん、あなたはもしかしてインターネットを利用したことがほとんどないのではありませんか…。少なくともあの文章は、インターネットについて何ら具体的に触れていない点において、また、その類の話題には距離を置いて見ているという阿木津英氏の文章を引いて「ほぼ同感」と述べている点において、そう疑われても仕方のないものであったと私は思う。新たなるものが登場してきたとき、そこには必ずそれが登場するに至った必然というものが存在するはずである。全くの無視を極めこむのならともかく、否定的にであれそれに関する発言を自ら行おうとするからには、まず実際に触れてみること、そしてなぜそれが登場し、普及しつつあるのか真剣に考えてみることが最低限必要なのではないだろうか。
 ともあれ、事は始まったばかりである。今はさしあたりひとりでも多くの歌人にこのメディアに関わってみてほしいと思う。そして、メディアを「利用」するためには、そのメディアの巨大さに負けないだけの力が必要だと言うことを実感してほしい。私たちは今、厳しく試されているのである。

山田 消児 (umineko@st.rim.or.jp)


   「うみねこ壁新聞」最新号99年11月25日号97年7月7日号96年9月9日号96年7月7日号
   目次 歌集『風見町通信』より 『アンドロイドK』の時代 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ歌集以後発表の新作
   新作の部屋(休止中) 作者紹介