うみねこ かべしんぶん    1999年11月25日


新刊歌集『アンドロイドK』、深夜叢書社より刊行。


どくぐも時評   第5回
 もう1年近く前から全くといっていいほど歌が書けないでいる。もともと日常生活の中から自然に想が湧いてくるというタイプではないけれど、それにしてもこの状況はいささか苦しい。苦しい中で、どうせ新作ができないならその間に、ということで手を付けたのが、今回の第2歌集をまとめる作業であった。
 私の場合、所属する同人誌の刊行頻度が低く、他誌から原稿依頼をもらうこともきわめて少ないという事情もあって、活字にする前の段階でかなりの程度作品の取捨選択がなされているので、歌集をまとめるに当たっての選歌はそれほど難しいことではなかった。落とす方よりむしろ未発表作のうちからどれを入れるかということで少し悩み、構成をどうするかでさらに少し悩みはしたけれども、決定稿は意外とすんなりできあがった。
 さて、問題はそこからである。歌集というのはおおむね自費出版で、歌壇内では有名だけれど一般には無名な短歌専門の出版社から出して、有名歌人や知人・友人に寄贈して終わりというのが普通である。一部分を出版社で売ってもらう場合でも、対象は短歌愛好家に限られ、一般読者にはなかなか本の存在さえ知ってもらうことができないというのが実情であろう。
 今回私が考えたのは、こうした実情をうち破って、費用は自己負担でもいいから、なんとか短歌専門でない出版社から歌壇以外の幅広い読者に向けて作品を問うような形で本を出せないかということであった。最初、無理を承知でいくつかの大手出版社に原稿を送って企画出版の検討を依頼してみたのだが、当然これは相手にされず(意外と律儀に謝絶の手紙とともに原稿を送り返してくる。でも読んだ形跡がなかったりする…)、中小出版社に狙いを変えて原稿を送り続け、ある夜更け、深夜叢書社の齋藤愼爾氏から電話をいただいて、ようやく歌集出版の話は動き始めたのであった。深夜叢書社は、異端の俳人であり名編集者でもある同氏が主宰する、知る人ぞ知る個性派の文芸出版社で、私にとっては願ってもない結果になったと思っている。
 さて、次に問題となるのは、どうやってこの本の存在を世間に知らしめるかということである。版元は書店の店頭に置いてもらえるよう営業活動をすると言ってくれている。とはいえ、大々的に新聞広告を打つなどということはもとよりできるはずもなく、何か別の方法で効果的な宣伝をと考えたときに思い当たったのがインターネットなのであった。
 まず、歌集宣伝のホームページを作る。私の場合、以前からこの「うみねこ短歌館」を公開しているので、その一コーナーとして宣伝ページを位置づけることにする。宣伝ページでは、歌集に収録された作品の一部を読めるようにする。版元の連絡先を入れる。インターネットで本の注文ができるオンライン書店へのリンクを張る。
 次は、どうやってホームページを大勢の人に見てもらうかである。ホームページの宣伝をするには、普通、サーチ・エンジンに登録するか、ホームページ紹介のメールマガジンに投稿するか、ふたとおりの方法がある。私は、このうち、いったん購読登録をした読者には自動的に情報が送信されるメールマガジンの方に重点を置いて宣伝活動をすることにした。調べてみると、ホームページ紹介だけでなく、歌集出版そのものをニュースとして投稿できるメールマガジンや、インターネット上でプレスリリースのできるホームページなどもあって、とにかくそれらあらゆる機会を利用して、歌集を宣伝することにしたのである。
 その効果がどれほどであるかは、今のところ全くの未知数である。そもそも、いくら宣伝がうまくいっても、肝腎の歌集の中身が支持を得られなかったら、本が売れるわけはないのである。でも、以前なら、本を出しても個人的には何の宣伝もできず指をくわえて待っているしかなかったのが、今は工夫次第で安価(ほとんどタダ)で未知の人々に向けて広報できる。これは、ほんとうにすばらしいことであると思う。
 毎月何十冊も発行される歌集のほとんどが、一般読者ではなく作者自身とせいぜい歌壇に向けて出されていることを、私はとても寂しく思う。歌人と呼ばれる人たちが、もっと読者を意識して本を出すようになったら、短歌の位置づけもきっと変わってくるに違いない。
 ここまで読んでくれた物好きなあなた、まずは新歌集『アンドロイドK』のページにJUMP

山田 消児 (umineko@st.rim.or.jp)


   「うみねこ壁新聞」最新号97年7月7日号 97年6月17日号96年9月9日号96年7月7日号
   目次 歌集『風見町通信』より 『アンドロイドK』の時代 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ歌集以後発表の新作
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