うみねこ かべしんぶん    1996年9月9日


荒木経惟氏の写真に短歌を組み合わせた展覧会「アラーキーと十人の現代歌人たち」に参加。1996年9月9日(月)〜28日(土)、於ギャラリー・イヴ(小田急線経堂駅南口徒歩5分)。11:00〜19:00。日祝休。


『アラーキーと十人の現代歌人たち』開催中!

   かつて荒野たりしてのひら今朝まではただ一輪を咲かせいたりき
   もののかげ皆立ち上がり放課後を暗き方へと出でてゆきたり



  荒木経惟氏の”花”をテーマにした写真集『花陰』(ジャテック出版・1996.6) 収載のモノクロ写真20点に10人の歌人が短歌を付けました。上記二首は私、 山田消児の作になるものですが、アラーキーの写真と組み合わせて展示されることにより、 短歌のみとも写真のみとも異なる新たな作品として昇華しえたかどうか、一人でも 多くの方に見ていただきたいと思っています。
  私のほか、畑彩子、加藤治郎、桜井健司、森本平、勝部祐子、小島ゆかり、 藤原龍一郎、松平盟子、小池光の各氏が参加しています。御一見の上、御感想、 御批判等いただければ、とてもうれしいです。


どくぐも時評   第2回
  「うみねこ短歌館」を開館してから約2か月を経過し、遅まきながら初めての 更新を行った。この間、 『短歌ホームページ』 のほか『日本版Yahoo』等知りうる限りのカタログ・ページに 登録し、たった1通だけだが未知の方から感想の電子メールもいただいた。私自身の ことはさておいても、短歌関係のホームページが少しずつ増えてきて、それらを見て 回りながら新たに思うこともあったので、ここに再び どくぐも の登場となった次第である。
  短歌のホームページは、結社のページと個人のページとに大きく分けることができる。 結社のページのうちでも、 『塔』『短歌人』 のように結社誌の紙面がホームページ上で 公開され、更新もきちんとなされているものは、私のような普段結社誌を目にする 機会の少ない者にとっては、ありがたいといえばありがたい。ただ、結社誌そのものが、 会員、もしくは、せいぜいのところ歌壇に向けて発信されている読者限定的なメディアである以上、 その内容をそのままインターネットで公開することにどれほどの意味があるのか 疑問なしとしない。むしろ、結社にとっては、ホームページだけでなく電子メールなどを 利用した会員同士の新たなコミュニケーションの手段としてこそインターネットは 有意義と考えられ、今後の利用形態もそちらの方向に向かって発展してゆくのではないかと 予想される。
  面白いのはやはり個人のページの方である。私の見た中では、CGIという 技術を駆使した 宮川ダイスケ氏 のホームページが断然ユニークである。特に、画面に 短歌が一首ずつ現れ、ちょうどそれを読み終わったぐらいのタイミングで次の一首に 変わってゆく「短歌スライドショー」は、読者のペースで順々に活字を追ってゆく 従来の読みの常識を作者の側から強引に覆した全く新しい試みといえるだろう。 二首目が表示された時には一首目はすでに消え去っており、それでいながら、その 印象が余韻として色濃く残っている状態で二首目の読みに向かわされるという 仕掛けで、読者は得も言われぬ緊張感を強いられることになる。また、あらかじめ用意された いくつかのフレーズをコンピュータが任意に組み合わせて短歌形式に仕立て上げる「ランダム短歌」は、 無意味なのに意味ありげな荻原裕幸風だが、こちらは、無意味であることがはなから 種明かしされている分だけ実にあっけらかんとして楽しい。
  インターネット上では有名、無名を問わず誰でもが自由に情報を発信できると同時に 誰がその情報を受信するのか発信者側が予想しづらいため、情報そのものの質の 良し悪しがより強く問われることになる。たとえば、 館石正男氏 は歌人としては ほとんど無名と思われるが、ホームページで氏の短歌作品に初めて触れ、その技倆の 高さに目を瞠らされた。インターネットを通じて個人的に発表した作品がきっかけになって 世間に広く認められるということが実際に起こりうるものなのかどうか、予断を 許さないが、ともかくも、結社で実績を積んだり、総合誌の新人賞を受賞したりといった 旧来の階段を昇るのとは別の選択がここに用意されたというべきだろう。玉石混淆の ネット・ジャングルに埋もれてしまわぬように、したたかな戦略が必要とされることは むろんであるけれども。

  今回はまず紙に下書きしたので、「である」調である。 「どくぐも時評」第1回 参照)

                          山田 消児 (umineko@st.rim.or.jp)


   「うみねこ壁新聞」最新号99年11月25日号 97年7月7日号 97年6月17日号96年7月7日号
   目次 歌集『風見町通信』より 『アンドロイドK』の時代 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ歌集以後発表の新作
   新作の部屋(休止中) 作者紹介