うみねこ かべしんぶん    1996年7月7日


荒木経惟氏の写真に短歌を組み合わせた展覧会「アラーキーと十人の歌人たち」に参加予定。1996年9月9日(月)〜28日(土)、於ギャラリー・イヴ(小田急線経堂駅南口徒歩5分)。11:00〜19:00。日祝休。


『うみねこ短歌館』ようやくオープン!

  かねてひそかに準備をすすめていたホームページ うみねこ短歌館 が7月7日 いよいよオープンしました。早速ご来館下さったみなさん、どうもありがとうございます。
  今のところほとんど字ばかりの愛想のないページですが、いずれは画像や音声を取り入れた ものにしてゆきたいと考えています。 御感想やアドバイスをお待ちしています。 さしあたり、ブラウザやフォントの種類にかかわらずきれいに表示されるふりがなの ふり方をご存じの方がいましたら、ぜひご教示いただければと思います。
  うみねこ短歌館 をどうかよろしく!


どくぐも時評   第1回
  このページにアクセスしているかたの多くは、すでにいくつかの短歌結社と何人かの  歌人がホームページを開設していることを知っているはずです。従来の活字によるもの のほかにこのような新しいメディアが登場してきたことの短歌に及ぼす影響についても 短歌総合誌などですでに論じられ始めているようです。それらの中にはインターネットや パソコンなどを主題とする短歌作品に対する批評や鑑賞と、短歌をめぐるメディア環境 やそこにおける短歌のありようについての論考とをごっちゃにしたものが往々にして見 受けられますが、ことの本質はやはり後者と考えるべきでしょう。
  議論さるべき問題はおそらくは大きくふたつに分けられるはずです。ひとつはメディア が短歌における言語表現にどのような影響を与えるかという点。たとえば、今私はこの 文章を、ホームページ上で発表することを前提として、ホームページ作成のためのソフ トウエアを使用して、パソコンの画面上で確認しながら書いて(打って)いるわけですが、 もし活字で発表するのであったなら「である」調で書いたに違いない文章が、なぜかここ では無意識のうちに「です・ます」調になってしまっているわけで、短歌においても、この メディア環境の変化が作品に与える影響は、かつてのワープロ出現によるものと比べて も格段に大きなものがありそうで、少し怖ろしい気さえするのです。この文章を読んでくれるべく ネットの向こう側にいる人々は、大勢でありながら奇妙に独立したひとりひとりの個人であり、 書き手たる私は否応もなくそのひとりひとりに向かって語りかけることを強いられている …、そんな漠然とした感じが、文体のみにとどまらず、書き手の内面、ひいては 作品の本質にまで影響を及ぼしてくる可能性があると、これを書きながら考えています。
  ふたつめの問題は、現在「歌壇」という言葉で言い表されている歌人同士の つながりが変質してくるのではないかという点です。歌人のかなりの部分、特に、 有名歌人・人気歌人や短歌総合誌に作品を発表しているような人たちのほとんどは、 師弟関係を軸に構成され作品発表の場として雑誌を発行する集団である「結社」に 所属しています。私自身は結社に所属したことも師を持ったこともないので確かな ことは言えないのですが、結社制度を前提とした現在の歌壇の姿は、多分に閉鎖的で 不自由なもののように見えます。歌人が皆、どこそこ結社の何某や、誰それの弟子の何某と いうふうにレッテル付き、ひも付きになってしまっているのです。
 しかしながら、インターネットを経由して情報を発信しようとするとき、その 事情は違ってきます。受け手は歌壇の内部であるよりは不特定多数の未知の個人であり、 彼らにとっては結社名のレッテルなどほとんど何の意味も持たないはずだからです。 また、歌人同士のつながりも、結社的人間関係のしがらみを離れた個々別々で自主性の高い ものに変わってくる可能性があります。
 私自身のことをいえば、ひとつ大きな不安があって、それはインターネットに参加することによって これまで頑なに維持してきた独歩の姿勢が、歌壇よりもっと大きくて得体の知れない ネットワークに絡め取られて崩れてしまうのではないかということなのです。だから、たとえば、 歌人のホームページだからといってむやみやたらにリンクを張り合ったりはすべきでないと 私は考えています。私たちはウェブの罠に引っかかる蝶であってはならない、仕掛け、 捕らえ、自らは自在に網の上を渡り歩く毒蜘蛛たり得たとき、はじめてメディアを 生かすことができたといえるのではないでしょうか。
                          山田 消児 (umineko@st.rim.or.jp)


「うみねこ壁新聞」最新号 99年11月25日号97年7月7日号97年6月17日号96年9月9日号
目次 歌集『風見町通信』より 『アンドロイドK』の時代 『見えぬ声、聞こえぬ言葉』のころ歌集以後発表の新作
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