私が訪ねた世界遺産

ペトラ

 ペトラ

インディ・ジョーンズとペトラ
 1989年に公開されたハリウッド映画「インディ・ジョーンズ最後の聖戦」をご覧になった方は多いはずです。当時日本はまだ世界遺産条約を批准していなくて、世界遺産という言葉もごく一部の人びとにしか知られていませんでした。そんな時代に見た映画は衝撃的でした。インディが細い切り立った崖の間の道を馬で駆け抜けていくと、その出口には見上げるような神殿が立ちはだかっているのです。  私は映画を見た後、この場所が一体どこにあるのだろうと勤務していた会社の資料室で調べました。するとヨルダンに実在するペトラであることが分かったのです。映画を観たときはセットなのかロケなのかも見当がつかなかったので、実在する遺跡であることをつきとめたときは本当に衝撃的でした。
 それから25年後、2014年に、私は念願のペトラを訪れることができました。

シク

遺跡への入場料
 ペトラの町は、ヨルダンの首都アンマンから南約250キロほどのところにありますが、幹線道路からはかなり外れています。岩山の間の細い道路を進んだ先にペトラという小さな町があるのです。
 そして遺跡へ入る道は一か所しかなくて、しかも入場料が7000円という高額でした。料金を払っても勝手に入ることはできず、必ずガイドがつくシステムになっていました。

シク出口とカズネ

シク
 遺跡の中心部に行くには、シクという岩の裂け目にできたような細い道を進みます。入り口から出口までは約1.2キロの距離があります。切り立った断崖の岩肌はピンク色で堆積岩にあるような白い縞模様がありとても美しいと思いました。

エル・カズネ

 シクを抜け出たところに、エル・カズネ(宝物殿)があります。岩山を彫って築かれた美しい神殿ですが、ここが作られた目的は墓地と考えられているようです。高さ43メートル、幅30メートルもの壮大な建造物です。
 エル・カズネを左に見てさらに絶壁の間を進むと一気に視界が広がります。左の岩山の裾にはローマ様式の劇場があり右側の崖の中腹には王家の墓と呼ばれる墓所群があります。さらに進むとやがて列柱道路があり、その左手には大神殿といわれる場所があり、盛期には壮大な建物だったであろうことが偲ばれます。また列柱道路から神殿の反対側のなだらかな山沿いには、ペトラ教会、青い教会と呼ばれる遺跡があります。

大神殿

エル・ディル
 列柱道路をさらに奥へと進んでいくと、やがて険しい山道となり、そこを登りきるとエル・ディル(修道院)と呼ばれる岩山を彫って造られた建造物の前に着きます。ここはエル・カズネによく似ていますが、高さは45メートルとやや高いようです。
 シクを通ってこのエル・ディルに着くまでに歩いた距離はおそらく6キロ以上あったのではないかと思います。これだけでもペトラの遺跡はとても広範囲に広がっていることが分かります。

エル・ディル

ナバテア王国の遺跡・ペトラ
 ペトラ遺跡は、ヘレニズム時代からローマ帝国時代に存在したナバテア王国の遺跡です。地勢的にみるとペトラは、中国に通じるシルクロード、インドへ通じる香料街道、これらはエジプトやフェニキアとを結ぶルートで、ペトラはその交易の中継点として栄えました。ナバテア人は隊商活動をしていたアラブ人で、アラビア半島から地中海までの交易を独占していたようです。ペトラ遺跡は、交易活動で得た富が莫大であったことは、神殿や墓所、道路、水利施設などの遺跡から伺うことができます。
 ペトラが、世界遺産に登録されたのは1985年です。

奇岩

 遺跡はあまりに広範囲にわたっているので、全部を見てまわるにはおそらく数日を要するものと思われます。遺跡の内部にはところどころに休憩などができるレストランがありました。また、エル・ディル周辺の山頂付近はヨルダン特有のアラブ民族ベドウィンが仕切っている区域もあるように思いました。ペトラはこの地域に暮らす人びとの生活を支える重要な観光資源になっているようです。