話の内容から察して、子供好きで子だくさんな若造りのお父さん、という感じかしらん。多恵子は、道路をはさんで反対側の歩道を歩く男を見つけた。薄手のコートを着たその男は、会社員にしては派手な柄の短いネクタイをあれこれいじりながら、早足で歩いてゆく。多恵子は心の中で、頑張れオヤジ、と小さくエールを送った。
多恵子は次の声を聞くべく、受信機のつまみを回した。女性の声がヘッドホンから流れる。
「――きょう、がっこうでほんをよんで、かんそうぶんをかきました。せんせいにとてもほめられました。いまからよみますね――」
読書感想文? この話しぶりからすると、小学生だろう。小学生のくせに投稿して、しかも読み上げてもらえるなんて生意気だ、と多恵子は思った。実は自分でも何度か投稿したのだが、一つとして読まれたことがなかったのだ。葉書を出したりファックスで送ったり、電話までかけてみたがなしのつぶてだった。
だけど、と多恵子は思い直した。小学生の投稿がたくさん読み上げられるのには、わけがあるのだ。聞いた話では、何とかいう政府プロジェクトの一貫で、幾つかの小学校にはパソコンなどの機械が導入されているとか。小学生は授業の中で、番組に投稿しているというんだから、うらやましい限りだ。まあもっとも、内容が読書感想文じゃ、聞く方はやってられないけど。
二、三人の子供が、自転車を押しながら多恵子の少し前を歩いている。多恵子は、ゴージャスな視聴覚室であざやかにパソコンを使いこなす子供達の姿を想像してみた。彼らは先生と言葉を交わすこともなく、前に出てチョークを持つこともなく、画面を通じて授業を受けたりするのだろうか。
多恵子は首をかしげ、自分の想像力の限界を意識せざるを得なかった。彼女にしてみれば、ものさしのささったランドセルを背負って小学校に通っていたのは、もう随分昔の事だ。今時の子供達の授業風景を思い浮かべるなど、ほとんど困難だったし、さほど好奇心をそそられる話題でもなかった。
「これはとてもちかいみらいのおはなしです。わたしはこのほんをよんだとき、まちのひとがあわててあちこちでさわぎはじめるところがおもしろかったです。あと、がっこうでみんなが、でんわばんごうやほけんしょうのばんごうをおぼえるくんれんをするところがおもしろかったです。でも、わたしは、ほんとうにせかいじゅうのデータがきえるきがしなかったので、ほんをよみながらこわくなったりしませんでした――」
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