そして今、三人は、教室の中ほどに座る二人の女生徒に注目し始めた。
 茉莉は休み時間中に友達と話していた漫画の続きがどうしても気になって仕方なかったので、前の席の美衣に声をかけることにした。
「ねえ、美衣ちゃん」
 朗読の声に紛れて小さくささやきかけたが、美衣にはわからないようだった。
「ねえ」
 茉莉は控え目に、目の前の画面をコツコツと叩いた。美衣はすぐに気づいて、体をずらし半分だけ振り向いて答えた。
「なぁに、茉莉ちゃん?」
 茉莉は画面に鼻を押しつけるように、顔を近づけた。こうすると美衣の顔がぶれて見づらくなるが、おしゃべりしているところを先生には見つからないだろう。茉莉はささやいた。
「前を向いてていいよ。……私さぁ、さっきの話の続きが聞きたいの。少しだけ、教えてくれない?」
 美衣は教科書をつい立てにして顔を隠し、声が伝わりやすいように角度に気をつけながら答えた。
「でも今授業中だし。どうしようかな」
「お願い。授業が終わったらゆっくり話できないし、あの漫画って、明日にならないとこっちの本屋さんに並ばないの」
 美衣は微笑んで後ろをちらりと振り返った。
「いいよ、教えてあげる。だって茉莉ちゃんは私の親友だもん」
 茉莉は嬉しくなった。映像がぶれていたため、振り向いた美衣の制服の、白い丸襟が七色に揺らめいて見える。
 茉莉は美衣達とその制服にいつも憧れていた。制服姿の美衣しか見たことがないけれど、ジャージのズボンやアップリケの入ったトレーナーくらいしか着ない茉莉達と比べると、同学年でも年上にしか見えない。茉莉は夢でも見るように目の前の映像をぼんやりと眺めた。

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