剣道読本

野間 恒 =著

昭和14年3月20日 初版発行

発行者 高木 義賢

発行所 株式会社大日本雄弁会講談社

定価 2円








感想

筆者は、野間道場を開いてくださった講談社の野間清治社長のご子息であり、 26歳で天覧試合において優勝の栄冠を戴き、30歳で教士号を授与された剣歴を もっております。
恒先生の文章からは、完成した魅力的な大人を感じ取れ、私はすでに36歳でと うに恒先生の年齢を越えているにもかかわらず遠く及ばないのを残念に思いま す。では、そういった中から感動したひとつを紹介します。
NHKの依嘱によって22歳の時ラジオに出演したときの速記から起こした文章が 載っておりまして、その中に「剣と人」についてお喋りをしています。

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私のつねに感じておりますことは、剣道の上にその人の性質や心持ちがすべ てことごとく現れる、はっきりと現れきたるということであります。大胆な人 臆病な人、正直な人、狡い人、機敏な人、遅鈍な人、辛抱強い人、不真面目な 人、それらの正確の一切が誠に明らかに分かるのであります。わたしのような 未熟な者にさえその人の剣道に依って、その人の性質、その人の心持ちを知る ことができるのであります。左様なわけですから、本当に正しいりっぱな剣道 家になろうとするには、どうしても先ず以て正しいりっぱな心を養わねばなら ないということになるのであります。

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どうでしょうか。最近は、剣道をやると立派な人間になるとか。礼儀ただしく なるといって剣道の効能みたいに言いますが、その一方で、勝ち負けにこだわ り、強い弱いを競って一喜一憂しています。まるで、反対です。愚痴を言って はいけませんでした。この本は、恒先生のひとがらにふれることのできる価値 のある本でした。

ところで、入手の方法は、おそらく絶版なので(新訂が昭和51年)古本屋さんを 小まめに探すしかないかもしれませんが、求めれば目の前に出現してくれると 思います。