卒翁百話

木村 篤太郎 =著

平成元年 十月十日 発行

発行者 村瀬 博一

発行所 島津書房

定価 3,900円








感想

書評なんておこがましい!!ですけど、わたしの剣道観が変わったことは事実で す。この本で、感じた幾つかを紹介します。
卒寿(九十歳)を迎えた木村先生の、日本人に対する檄をひしひしと感じながら 読ませていただきました。西欧の文化に溶け込むあまりの古き良きものをいと も簡単に捨てきってしまうことへの不安を感じてしまうのは私だけでしょうか。 真の国際人たるは、日本を捨てて欧米化することではなく。日本人としてその 伝統を誇りに自己を磨くことではないかと思い知らされます。そうすることが、 日本人を理解してもらう最良の方法であり、国際人となるのではないでしょう か。
この本の中にあって自分が実践していることの一つを書きます。先生は、竹刀 の扱いについて次のように仰っています。第三十一話 二つの剣道大会 という なかで全国教職員剣道大会が開かれ参観をしたときに苦言を呈している部分で、

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出場選手のマナーが非常に悪い。甚だしきにいたっては、出番を待つ間に、 道場内で素振りをしている。
また試合を観戦しているときに私語をかわしているのが多くみられた。

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というのがあるが、この試合を待つあいだに素振りをすることに対する先生の お話は、何でいけないのですか。と言う方も居られるくらい一般的にしている ことではないでしょうか。自分もしてました。でも、ここには、試合は真剣勝 負、竹刀は真剣、という概念が無い証拠だと気がついたのです。真剣勝負なれ ばこそ、相手に対する「礼」があり、そういう態度がなくてはいけないのです。 口先だけで剣道は「礼」に始まって「礼」に終わるなんて言っているのが恥ず かしくなりました。刀を抜いてあたりかまわず素振りをするなんて光景は武人 のすることではないと思います。たとえ準備運動が必要だとしても、試合上で 人の目のあるところでのこの所作はやはりみっともないと思います。やるなら、 控えの、人の目のないところでやるというのが「礼」だと思いました。この文 と出会ってから、素振りの場所をわきまえることにしています。

こんな具合でこの本には、先生のすばらしいお話、九十三話と出会えます。