イベントレポート(2005年)

 2005年の同人誌即売会を中心としたイベントのレポートです。
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2005年

取りあえず急遽追補

 あちらこちらで取り上げていただいているようで。賛同から批判まで色々とありがとうございます。勉強になります。
 さて、「よつばの。」さんの記事を読んでいてひっくり返ったのだが、このheartfull.infoのページ。一瞬「是空ふざけんな、こんな話知らねーよ」と怒り心頭になったが、落ち着いてwhoisをチェックすると、2004年12月作成。「アレ?」 確認してみると、「しばらくはドメインを維持していましたが、途中で金を払うのやめたので、他人が取ったんだと思います」とのこと。どなたかが、わざわざ「paperboy and co.」のホスティングサービスを使って、空いたこのドメインを取得しておいて、このタイミングでネタを放ったようで……(大苦笑)。
 ということで、これについては関知もしてなければ、意図的に話題にしなかったのでもないですよ>「よつばの。」さん(事実関係のフォローよろしくお願いします)。もし、「ハトコミ2」というのがあるのであれば、それは戯れ言だと私も思います。
 変に話が広まる前に、取りあえずこの件についてわかったことを取り急ぎアップしておきます。

「コミックキャッスル2005」がやってしまったこと

 5月から随分時間が空いてしまい、即売会そのものも終わってしまったが、「コミックキャッスル2005」について書いていきたい。

立ち上げ

 今回の「コミックキャッスル」は、そもそもはブロッコリーの発案のようだ。カードの売れ行きも落ち気味の状況で、販促の手段を模索していたブロッコリーとしては、過去の成功体験として同人誌即売会とのタイアップを再び試みることを思いついたようだ。ここで相談を持ちかけられたのが、是空とおる氏ということになる。是空氏は、草創期のブロッコリーの事業に深くコミットしており、現在も彼が率いるアクシアにとってはブロッコリーは有力な取引先である。是空氏としては、ブロッコリーから頼まれれば断るわけにはいかない立場だった。ただ、彼としてはかつての自身が主催した即売会の件もあり、表には絶対に立ちたくないし、同人誌即売会の開催を生業としているわけでもない。そこで、現実的に即売会を仕切れる組織が必要なわけで、例えば、「コミッククリエイション」「サンシャインクリエイション」を運営するコミケ・プランニング・サービスなどへも接触があった模様だ。結果として、キャラクター系のコンベンションのつきあいの中で当時、「DreamParty」を仕切っていた新宮氏の参加が決まったようだ。新宮氏にとっては、大規模な同人誌即売会の運営を任されるという思いがけないチャンスが転がり込んできたことになる。
 こうした体制で企画が煮詰められていく。そもそも捨てたブランドであった「コミックキャッスル」という名前を今回「コミックキャッスル2005」として復活させたのは、是空氏の発案のようであるし、サークル参加申込書チラシと表紙を桜沢いづみに依頼したのも是空氏のコネクションということになる。この段階では、ブロッコリーは「金は出す。企業ブースには口を出す。ただし、同人誌即売会には口を出さない」というようなことを言っていたようだ。

 ところが、結果的に言えば、新宮氏にはこの規模の即売会の開催は荷が重すぎたということになる。既に、新宮氏は、「コミックキャッスル」を受けた時点で「DreamParty」「DCC(Digital Community Convention)」「ComicMemories」といった各種のイベントをいくつも抱えている状況下にあり、「コミックキャッスル」の運営は、オーバーワークとなった。そのため、以後、千数百サークル規模の同人誌即売会の新規立ち上げという要因以上に、事務のミス・不手際が多発することになる。
 例えば、「コミックキャッスル」の名称使用については、サークル参加申込書チラシ等に「コミックキャッスルの名称は、クリエイション事務局様・株式会社ブロッコリー様の協力により使用させていただいております。」という文章が載っている。過去の経緯を知らないと、何を言ってるのかさっぱりわからない曖昧な文章である。おかげで、クリエイション事務局からは「クリエイション事務局と運営上の関係は一切ございません。」とわざわざ明言される始末。

 そうはいっても、サークルはそれなりに集まり、7月末には、一次申込分サークルリストがWebで公開された。このリストによってある程度の大手サークルが集まっていることが明らかになり、ポスト「C.レヴォ」における「コミックキャラクターズ」VS「コミックキャッスル2005」という構図は、一気に「キャッスル」有利になっていく。水面下では是空氏のコネクションを使っての大手サークルへの勧誘が行われ、最終的には、70〜80サークルが、是空氏経由での招待という形になったようだ。

 これらと並行して行われたのがコミックキャッスル準備会の体制作りということになる。NKT、高天原といった即売会運営グループのメンバーが参画し、さらにその人間関係で、クリエイション事務局やコミケット準備会のスタッフの一部もこれに関与していくことになる。ボランタリーな即売会スタッフというのは義理と人情の世界なので、友人から頼まれれば意気に感じて助けるということは往々にしてあり、アメーバ的に人が集まってくる。もちろん、そういう人間関係だけでなく、ブロッコリーというスポンサーが、お金を出してくれて口を出さない新しい即売会だから、面白いことがやれそうだからと参加を決めたスタッフもいた。この頃まではまだ、夢はあったのだ……。

混乱と失望

 ところが、ここで大問題が発生する。それは、みつみ美里と池上茜の参加問題である。ポスト「C.レヴォ」を標榜するには、みつみ美里の参加が喉から手が出るほど欲しいのは即売会主催者として理解できる。幸いなことに是空氏とみつみ美里は友人関係にあり、是空氏はコミケット当日も、(最終日でそれほど忙しくないとは言え)自分の企業ブースを放り投げてまで(笑)彼女のスペースの混雑整理にもあたっている間柄だ。新宮氏やブロッコリーからすれば、是空氏の力をもってすれば、みつみ美里の参加は実現できると勝手に期待していたはずである。ところが、それは実現しなかった。これには、まずみつみ美里の同人誌に対するスタンスから説明せねばなるまい。みつみ美里は、男性系の大手サークルとしてトップの人気を誇り続けているわけだが、同人誌に関するスタンスは意外に保守的かつ原理主義である。絶対に書店委託を行わないし、これまでも企業色の強い即売会は参加してこなかった。今回に関して言えば、コミックキャッスル準備会というバッファは存在するものの、ブロッコリー色の強いことは否めないわけで、みつみ美里としてはそもそも参加がしにくい即売会である。とは言え、本業のことも考慮すれば、そのことをあまり強調すると、対ブロッコリー的にも角が立つ。
 また、一方でみつみ美里は、池上茜の活動について、自分の絵柄のフォロワーと認識しており、かねてから快く思っていなかった。そして、この事実を知っていた是空氏が、「『ComicMemories』などで池上茜に原稿依頼をしている主催者のイベントにはみつみ美里を呼ぶことはできない」と新宮氏に伝えることとなる。不参加の言い訳としては、この方が、対ブロッコリー的にも問題が少なく、わかりやすい。ところが、どういうわけか、新宮氏はこれをスポンサーサイドからの圧力と認識したらしい。
 それでは池上茜の方はというと、「コミックキャッスル2005」に参加する意義を感じたのか、申込みを行う。ただし、この申込みは、「なぜか」郵便事故で届かなかった(申込みの郵便物の管理は新宮氏がしているのではあるが、まさか「わざと」というようなことはなかったと信じたい)。しかしながら、池上茜のサークルを手伝っている人間がキャッスル準備会にスタッフとして参加しており、参加の意向は充分に伝わっている。
 ここで、新宮氏は、申込みをしている池上茜を取るか、申込みをしてもいないが参加して欲しいみつみ美里を取るか、という選択をすることになる。即売会主催者としては、参加する意志のあるサークルを受け入れるのが常識だと思うし、実際周囲の強い反対もあったのだが、何に目がくらんだか(池上茜を切り捨てればみつみ美里が参加する可能性が存在すると思ったのであろう)、愚かにも新宮氏は池上茜を排除するという前代未聞の決断をする。このような決断にいたり、当然、キャッスル準備会には動揺が走る。是空氏自身が新宮氏の判断に当惑し、新宮氏との関係が悪化する。NKTやコミケット、クリエイション関係から来ている責任者クラスのスタッフも困惑を隠せない。当たり前である。こんなこと、自分の知り合い関係のサークルに説明できるわけがない。だが、既に、即売会は動きだしており、サークルもおよそ1200集まり、大手サークルも多数参加が決まっており、当日の混雑も明らかだ。サンシャインでCホールまで使っての4ホール体制は運営的にも厳しい。バカな主催の下ではスタッフはできないと辞めるのは簡単だが、それでは、当日の一般参加者やサークル参加者に迷惑がかかる。彼らはスタッフに残ったが、モチベーションの低下は明らかだった。普段は筆者に決して愚痴など言わない某氏から「今度飲みに行きましょう」などど言われたときには、心中察して余りあった。

 サークルに関するトラブルも起こる中、事務処理もトラブルが多発する。当落通知の発送が一斉に行われず、サークルへの説明もなかったため、届いた・届かないでサークルが混乱した。書類も、会場図が参加しているホールのものしかついていなかったり、説明が足らなかったり、誤字・脱字が多かったりとサークルには不評だった。カタログもブロッコリーの強い意向により、9月のサンシャイン・クリエイションでの発売が後から決められたため、進行がムチャクチャになり、図面に間違いが発生したり、同じサークルカットを2箇所で使ったりと混乱が起きた。しかも、サークルの問い合わせへのレスポンスも非常に悪かった。
 もちろん、こうしたイベント運営には、各責任者クラスのスタッフや是空氏からも、再三の警告が発せられるが、新宮氏はオーバーワークになっており、充分な対応が取られているとは言い難かった。そして、案の定だが実際に開催が近づいてくると、ブロッコリー側も当初の話とは異なって、色々口を挟むようになる。例えば企業ブースの場所は二転三転して(最終的な場所が決まったのは当日朝らしい!)決まらない。これに対して新宮氏は交渉というよりは、ブロッコリーのメッセンジャーボーイになってしまい、それもまた、責任者クラスのスタッフのモチベーションを下げる要因となる。そうした混乱に乗じてイニシアチブを取ろうとする人間も現れる。ムチャクチャである。

 さらに、「コミックキャッスル2005」とは直接の関係はないが、準備作業の最中に起きたのが、牛木氏と新宮氏の「DreamParty」からの離脱である。以前より、「DreamParty」においては、内部の折り合いがよろしくないことは言われていたわけだが、ここに決定的な訣別が訪れることになる。「コミックキャッスル2005」の申込書の送付先は、「DreamParty」の住所を借りていたわけで、こうした揉め事がサークル参加者の問い合わせへの対応の遅れにも影響を与えていたのかもしれない(なお、次回の「コミックキャッスル2006春」の申込みは、「DCC」と同じ住所)。

 迎えた当日。一般参加者の列に、なぜか名刺を配って回るブロッコリー木谷会長が微笑ましい。
 心配された「bolze.」と「Digital Lover」を一つの非常扉で捌こうという配置は、両サークルをともに行列を作る階段正面に場所移動して混乱を回避した(ただし、この場所の使用については、当日、会場側からのクレームがあったそうで、これまた事前の調整不足が足を引っ張った形になっている)。ただ、A2ホールの「あいすとちょこ」の行列の場所を確保するために、Bホールへ行きたい一般参加者の行列を開場前にBホール内に入れてしまい、俗に言うローリングスタートというような、トリッキーな入場を行ったりしたのはどうかと思う。また、「JOKER TYPE」と「PINK CHUCHU」の行列で埋まっているCホールのトラックヤードにトラックが進入してきて大騒ぎというようなシーンもあった(これも、会場側と事前にちゃんと話をしていれば、ある程度は防げる問題だと思うのだが)。Cホールは、Bホールからのエスカレータのみがメインのルートとなるため、「サンクリ」でもそうだが、参加者の入退場導線管理が非常に難しく、結局会期途中から、Cホールから退場する人間を階段で、いったん1階まで下ろす形になり、大幅な迂回に文句も出ていた。サークル側の新刊率は、まあサンクリ程度というところか? お昼頃からは、あちらこちらで時限コピーで小規模な混乱が起こるのもお約束。一般来場者的にはかなりの数があった模様だが、サークルの売り上げ的には、サンクリと同等もしくは少ないというところが多かったようで、来場者数の割には今ひとつだったようだ。
 スタッフワーク的には、百人を越えるスタッフがおり、他の即売会で経験を積んでいるスタッフも多数参加していたので、局所の現場レベルでは、あまり問題もなかったようだが、いきなりの4館開催かつにわか作りの体制ということもあり、ホール毎のコミニュケーションや本部からの指示の伝達が相当混乱したと聞く。
 一方、非常に厳しかったと思われるのは、企業ブース。午前中こそ、列のあるブースもあったが、その後は驚くほどまったり。イベント全体の動員数は多かったかもしれないが、果たしてその動員が企業ブースの売り上げに貢献したかは甚だ疑問だ。

総括と今後

 さて、こうして即売会としては当日は無事終了した「コミックキャッスル2005」だが、問題は山積している。

 まず、最初に次回のスケジュールの問題である。2006年4月2日に「コミックキャッスル2006春」が開催されるが、この9月の「サンシャインクリエイション29」にて、「サンシャイン・クリエイション31」が2006年4月23日に開催されることが既に発表されている。この対応は、いままで沈黙を守ってきたクリエイション事務局がポスト「C.レヴォ」において、明確な意思表示を示したものとして注目される。春の「サンクリ」はこれまで「コミックレヴォリューション」との競合を避けて、3月にずっと行われてきたが、かつて「コミックレヴォリューション」が開催されてきた時期と同じ日程で会場確保できたことで、ポスト「C.レヴォ」としての地位をより強固にできたと言える。この日程とわずか3週間しか離れていない「キャッスル」の日程は、サークルの新刊を事実上期待できず、サークル的にも一般参加者的にも物足りないものになる可能性が高い。

 次に、ブロッコリーは、果たしていつまでこの新しい「コミックキャッスル」のスポンサーを続けるのか? という問題がある。同人誌即売会と自社を中心とする企業ブースのコラボレーションという企画は、今回ものの見事に失敗している。カタログが完売しているということなので、おそらく「コミックキャッスル2005」自体は黒字であることが予想されるが、第一期「コミックキャッスル」の頃とは異なり、現在のブロッコリーの企業規模としては即売会単体の収益などたいしたものではない。また、既に発表の通り、ブロッコリーは債務超過に陥っている。親会社のタカラにしても、インデックスやトミーとの再編の中で、立場が弱まっており、ブロッコリーの一部株式をガンホーへ売却したりもしており、この状況下で、タカラからのブロッコリーへのサポートが、これまで通り行われるかは非常に不透明である。このような逆風の中、ブロッコリーとして費用対効果の疑わしい事業に対して、どこまでお金がつくのは未知数と言える。今後、「コミックキャッスル」へのブロッコリーのスポンサードの継続を期待するならば、おそらくは、コミックキャッスル準備会の側で、ブロッコリーにとってメリットがあることを目に見える形で明らかにすることが必要になると思われる。

 そして、もっとも問題にすべきは、主催者の新宮氏ということになるだろう。即売会開催能力に不足がある、ということはとりあえず置いておいて(ホントは全然良くないが)、申込みサークルを今回のような形で排除するような行為を同人誌即売会の主催者が行ったことは、同人誌即売会としての自殺行為に等しい。なぜ、このような愚かな行為ができるのか? それは、同人誌即売会としての理念がないからだ。即売会に理念があれば、その理念に照らして、物事の善し悪しを判断することが容易である。理念がなく、ただただ「規模の大きい即売会を開くこと」のみに汲々とし、このような近視眼的な対応を取ってしまったのは愚かと言わざるをえない。この判断が、何を生むか?
 今回の対応により、逆にみつみ美里の「コミックキャッスル」への参加は事実上困難になった。なぜなら、彼女の同人誌に対するスタンスからすれば、自分の不参加理由で、別のサークルが排除されることまでは望んでもいないはずだが、実際にはそのようなことが起きたわけで、これで今後の「コミックキャッスル」にみつみ美里が参加するようなことがあれば、サークルの排除を彼女自身が容認したことになってしまうからだ。もちろん、このような理由で申込みを事実上拒絶された池上茜も、もう「コミックキャッスル」に参加することはないだろう。
 既に述べたが、即売会主催者としては、たとえ圧力があったとしても、ここは毅然として「参加する意志のあるサークルを受け入れる」以外の解決策はなく、これでサークル参加者の立場もある是空氏を説得できないとは筆者には考えられない。しかし、新宮氏にはそれができなかった。確たる理念さえあれば、一種の政治問題化することもなく、簡単に解決できた、それだけの問題に過ぎないはずだったのだ……。そうした胆力がない新宮氏は、大変申し訳ないが、これだけの規模の即売会を開催する資質に問題があると言わざる得ない。

 ただ、これが単に新宮氏の個人的資質の問題に帰結するのであれば、ことは簡単だが、昨今の男性系同人誌即売会の動向を見ていると、そうとも言えないのが困ったモノである。かつては即売会主催者間での各種の調整がそれなりになされていたが、現在はそのようなフレームワークは崩壊している。例えば、少しでも人気が出そうなジャンルには、オンリーが乱立するような状況になっており、即売会がジャンルの活性化よりも消費の加速に手を貸してすらいるような状況になっていたりする。こうした即売会の主催者が新宮氏と同じ立場に立ったとき、やはり理念なき規模の追求が始まるのではないか? と不安を感じずにはいられない。

 最後に、今回、コミックキャッスル準備会にスタッフ参加した方々にも猛省を促したい。確かに、イベントスタッフにおける人間関係・友人関係は非常に大事だし、頼まれればそれに応えてあげたい気持ちもよくわかる。けれども、そのイベントにスタッフとして参加した以上は、スタッフとしてそのイベントに対する責任とはまったく無関係ではいられないことを皆忘れてはいないだろうか? 「新宮サイテー」という声はキャッスル準備会スタッフからも良く聞いたが、その最低の主催者の下でスタッフをしているのは、一体誰なのだ? ということになる。義理人情は大事だ。しかし、理念なき即売会での義理人情が、いかなる事態を招いたかについては、今回の反省点として、生かしてもらえたらと思っている。サークルも一般参加者も自分の参加する即売会は自分で判断して選ぶわけで、それは即売会スタッフも同じであるはずだ。
 実際、聞くところによると、現時点で、是空氏や責任者クラスの多くは、次回への協力は基本的にはしないというスタンスを取っている。しかし、また義理人情にほだされる連中がどうせ出るのであろう……とは思っている。自分がスタッフをしている即売会が、サークルを恣意的に排除したということなど、普通なら恥ずかしくてとても耐えられないと思うのだが、そう思わない人間もいるということで、納得するしかないのは、この世界を長く見てきた者としてはさびしい限りである。

 そして、これだけは言えるのだが、何かを実現するために、何かを排除することを簡単に行った者は、次に別の何かを実現するために、別の何かを簡単に排除することを厭わないであろう、ということだ。その先に、どんな未来が待っているのだろうか?

お疲れさま、コミックレヴォリューション

 さる4月27日、37回の開催をもってコミックレヴォリューションが終了した。この即売会が始まったのが87年。同人誌印刷所によるサークル囲い込み的な即売会(印刷所のカルテルみたいのがあり、カルテルに参加している同人誌印刷所で同人誌を印刷しないと著しく不利な扱いを受けるような即売会まであった)や東京文芸出版や赤ブーブー通信社が開く企業系即売会とは一線を画した独立系の即売会としてスタートした。
 C.レヴォといえば、男性向というイメージが最近の参加者にはあるが、実は、最初から最後までオールジャンル即売会であった。初期は、男性向サークルもそれなりの数の参加があるが、この頃のC翼・星矢ブームを反映して、これらのパロディサークルが中心とした本当にオールジャンルの即売会であった。ちなみに、手元に第1回のカタログがあるが、表紙がおおや和美、裏表紙が亜麻木硅だったりする。
 その後、91年の無修正の男性向け同人誌のまんが専門店での摘発事件や94年のコミックシティin幕張中止事件等で、一部の同人誌即売会が男性向けサークルからの信頼を失ったり、逆に多くの同人誌即売会も、規制を事実上強化して男性向けサークルの参加にハードルを設けたりして、男性向けサークルの参加できるイベントは急速になくなっていった。しかも、当時は書店委託や男性向けのオンリー即売会もほとんどない。発表の場が極めて限られた中で、男性向けサークルを守ろうとこれを受け入れたのは、コミケットであり、C.レヴォだった。その姿勢はいくら高く評価しても評価しすぎることはない。C.レヴォへのサークルのロイヤリティの高さは、こうした過去の経緯がそもそものベースにはあった。
 しかし、同人誌の書店委託も活発化し、男性向けの即売会が入り乱れるように開催されるような昨今の状況において、C.レヴォの開催意義が曖昧となっていたのも事実であった。また、02年のビッグサイト進出も、サンシャインのキャパシティを越えて増えていくサークルを収容し、混雑サークルによる混乱も解消したかった、という意図は間違ってはいなかったが、その規模をこなすための事務作業や対会場折衝がスタッフワークにおいて大きな負担となっていた。以前から、C.レヴォは、事務スタッフへの負担が大きく、何年かおきに、事務スタッフが入れ替わるような状況が繰り返されてきたが、それがより厳しい状況に向かいつつもあった。こうした事情も作用してか、スタッフのモチベーションが低下傾向にあったのも否めないところであった。
 もちろん、無理をして続けようと思えば、即売会を続けることはまだまだ可能であっただろう。こうした現状でもなお、男性参加者・サークルへの即売会としての訴求力とブランドは、未だ最強であったことは間違いないからだ。しかし、それに拘泥することなく、やめてしまおうという決断にも、C.レヴォらしい潔さがあり、そんなふるまいができる即売会としてのスタンスが、参加者のロイヤリティの維持にもつながったのだろうと思う。  なにはとまれ、関係者各位の長年の努力に敬意を、そして、お疲れさまでした。しかし……(次に続く)。

ポスト・コミックレヴォリューションを巡って

 コミックレヴォリューションという即売会がこの春に終わることは、既に昨秋のC.レヴォ36で公表されていたわけで、C.レヴォがなくなって空いた穴に興味を持つ人々がいるだろうとは思ってはいたが、C.レヴォ終了前後から実際にいろいろな動きが表面化するようになってきた。

 昨年の内から、C.レヴォの元事務スタッフで以前の公式ホームページの管理人でもあった<工場長>氏が主催する「こ〜みっく」がオールジャンル同人誌即売会として11月23日に都立産業貿易センター台東館にて500SPの規模で開催されることが公表されており、既にサークル募集も始まっている。サークル参加費の送金にコンビニ振込を使っているのはユニーク。個人主催で500SP募集というのは、それはそれで非常に大きい規模ではあるが、直接的にポスト・C.レヴォという形にはなりにくいとは思う。

 また、C.レヴォ37の開催前には、「Comic Revision」のサイトが暫定的に公開された。10月2日に大田区産業プラザPiO大展示ホールでの開催であり、主催は、ケットコム。「オールジャンル修正同人誌即売会」という聞いたこともない謎の触れ込みが笑える。「当サイト、イベントは18歳未満の方にはふさわしくないコンテンツを含みます。18歳未満の方の入場は御遠慮願います。」とサイトのトップで明言しているが、コミケットをはじめ通常同人誌即売会で「成人向」を明言しているケースはあまり例がなく、18歳未満の入場を明確に否定した極めて珍しい即売会となる。募集スペース数は発表されていないが、会場のキャパシティを考えると、こちらも大規模とは言い難い。詳しい即売会の内容が未だ発表されていないのでよく分からないところも多いが、非常に気になるのは、サイトのデザインである。なぜ気になるかというと、このデザインは、以前のC.レヴォの公式ページのデザインをほとんどそのままパクったものだからだ。C.レヴォのメインスタッフに確認してみたところ、「何の挨拶もないよ〜」とのことだったので、正直いかがなものかと思っている。というか、そもそも即売会の名前がComic Revolutionに引っかけての変なネーミングであり、そういうところばかりが目に付いてしまうと、「イベントそのものがもしかしてネタ?」とも思えてしまう(苦笑)。

 上記2即売会が公式に公開されているものだが、実はまだある。
 既に一部では噂になっているが、「コミックキャッスル」が復活する。10月23日にサンシャインシティでの開催だ。元々のコミックキャッスルは、ブロッコリーが主催していた同人誌即売会であり、ブロッコリーがキャラクター・ビジネスを進めるにあたり、同人誌即売会を開催していると、他社の版権との摩擦が生じるということで、開催を取りやめ、コミッククリエイションに引き継いだ(それで生まれたのがサンシャインクリエイション)ものだ。それが、このタイミングで復活する。聞いた話によると、ブロッコリーは同人誌即売会としては極力表には姿を見せず、コミックキャッスル準備会という形式上ニュートラルな組織が実施主体となり、これには、DreamPartyとComic Memoriesも参加する形になるようだ。サンシャインのホールを3つ使用し、同人誌即売会が半分、ゲーム関係のイベントが半分というような区分けで、ゲーム関係のイベントの主催の部分については、ブロッコリーが前面に出てくるらしい。こういった情報を聞いていると、ブロッコリーの販促を兼ねたイベントにも見え、同人誌即売会としては中途半端になってしまわないかとも思う。また、ブロッコリーのコネクションを使えば、大手サークルを集めることも可能であろうが、この即売会でどこまでブロッコリーの姿を見せるつもりかで、動き方もずいぶん変わるはずなので、注目したいところだ。

 そして、今週、コミックライブを開催しているユウ・メディアから『男性・コミック同人誌愛好層を対象としたオールジャンル同人誌即売会』と銘打った新イベント「コミック・キャラクターズ」の開催告知が関係各方面に配布された。日時と場所は10月2日、東京ビッグサイト西4ホールでの開催となる。募集サークル数は明記されていないが、1000スペース程度にはなるはずだ。配布された告知の内容の一部を以下に引用する。

「同人誌即売会(イベント)は、同人誌に関わる私たちの重要な土台です。
 同人誌の委託販売は数年前に比べ格段に浸透しました。弊社コミック流通部門におきましても、委託同人誌の取扱量・売上高は毎年右肩上がりです。
 しかし、その根源が同人誌即売会にあることは言うまでもありません。もし、同人誌即売会が無くなれば、同人誌サークルが本を発行する機会は減り、市場縮小につながります。
この春、男性同人誌界にとって重要なイベントのひとつが、幕を閉じられました。
しかし私たちは何もせずに市場の縮小を招くようなことはしたくない、と考えました。」

 さて、この文章で一番違和感を感じるのは、「果たして、C.レヴォが終了したことで、同人誌サークルの本の発行機会は減り、市場の縮小が訪れるのか?」ということである。
 C.レヴォが存在した時の一年間をまず思い出してみよう。コミケットが夏と冬の年2回、C.レヴォが春と秋の年2回、サンシャインクリエイションがこれらの合間に年4回、つまりは、男性向けサークルが多数参加する大規模即売会だけで年8回もあったわけだ。加えてギャルゲー系を中心としたオンリー即売会も多数開催されている。そして、各サークルは、参加する即売会毎に新刊同人誌を出しているわけでもない。新刊を出せたとしても、折本だったり、コピー本だったりすることもしばしばだ。既にこの状況では、男性系同人誌の即売会開催状況は、飽和していたとすら言えるのではないか? しかも、ここ数年コミックマーケットにおける総申込サークル数は、横這い乃至は若干の減少傾向にあり、コミケットカタログから類推するに、男性系の割合もあまり変化もなく、したがって、男性系サークルの総数自体もさほど変わっているようには見えない。C.レヴォもサンクリも抽選漏れサークルが急増しているような話をしていない。この状況から年2回のC.レヴォが無くなったとしても、それでも年6回である。市場の縮小というのはピンとこないのが正直な感想だ。
 むしろ心配すべきは、、男性系サークル全体がなんとなく倦怠期のような状況にあり、勢いが落ちているという事実の方であるが、これは、単純に即売会の開催回数が増えたところで、解決できる問題でもない。同人誌の世界は、本を作ることはあくまで創作活動であるという前提の上に市場が成立することを忘れてはならない。
 ちなみに、サンクリの日程は、C.レヴォが無くなった分自由度が高くなり、春と秋についてはより良い日程の確保が期待できる。これは、すなわちサークルや一般参加の動員増も見込めるということになる。この既存即売会が有利な状況下で、コミック・キャラクターズに限らず、新興の即売会が割って入って行くには、高いハードルが予想される。

 そして、これらの即売会だけでなく、男性系を扱う同人誌即売会(いや、やおいも例外ではないから全部の同人誌即売会にも言えるし、委託同人誌を扱っている書店も同様なんだけど)全てに言えることだが、人権擁護法の制定や、児童ポルノ法、東京都の各種条例の改定の動きの中で、公的機関による表現への規制が強まりつつあり、また、まんが・アニメ・ゲームの性表現が異常な犯罪事件へ影響を与えているという根拠のない主張がマスコミによって作られかねない状況において、同人誌における表現をどこまで「場」が許容し、これを守っていくのかについて、主催者としてどれほどの自覚があるかについても、問われるところである。今回挙げた同人誌即売会で言えば、既に述べたように、C.レヴォには、その覚悟があった。サンクリについても、コミケットとの関係からも馬鹿なことはするまい。ブロッコリーについては、以前のキャッスル撤退時の同人誌界への優れた配慮を考えれば、ヘタを打たないように努力をするであろうが、コアビジネスが即売会ではない以上限界があろう。ユウメディアに関して言えば、コミックシティin幕張メッセ中止事件後に開かれたコミックライブにおいて、割と安易な性表現の自主規制を行おうとした前歴があり正直不安が残る。その他に関しては全くの未知数だ。同人誌即売会を単に「市場」として語れないし、語るべきでもないのは、創作活動には表現の問題が内在せざるをえないからでもある。

 ということで、ポスト・C.レヴォの動きを大ざっぱに眺めてきた。これ以外にも気になる要素はいくつかある。一つは、こみっくトレジャーの動きである。大阪で着々と実績を積み重ね、参加サークル数も増やしているので、東京進出を考えていないことはないとは思われるが、男性系に関して言えば、過去の経緯から自分たちがそもそも「マイナスからの出発」であることを自覚しており、また「トレジャー」の2年以上の経験から男性系即売会の難しさも習熟しているので、タイミングを慎重に検討しているのではないかと推察する。また、もうひとつは、C.レヴォのスタッフたちの動きである。このままC.レヴォ的な即売会が無くなってしまうことを惜しむ声はかなり聞こえてくるので、機運が高まれば、新しい動きが起きてくるのかもしれない。そして、これはまったく読めない要素なのだが、同人誌即売会には局外中立を保ち続けているとらのあなが、この状況においても、そのスタンスを崩さないのか? という点である。もし万が一、とらのあなが動くようなことがあれば、男性同人誌界に激震が走ることは言うまでもない。

 いずれにしろ、この1〜2年の男性同人誌界の動きは目が離せない。今後も興味深く見守っていきたい。  (2005.5.14)

 追伸(2005.5.15)
 本日開催されたComic Memories3において、コミックキャッスルのチラシが配布された。正式名称は、コミックキャッスル2005。募集は2000SP。連絡先は、Comic Memories及びDream Partyとまったく同じ。ちなみに、チラシのイラストは桜沢いづみが描いている。 なお、チラシ上、ブロッコリーの名前が出てくるのは、以下の2ヶ所。
「*コミックキャッスルの名称は、クリエイション事務局様・株式会社ブロッコリー様のご協力により使用させていただいております」
「ブロッコリー様主催のトレーディングカードゲーム「アクエリアンエイジ」「リセ」の大会・展示イベントも同日開催いたします!」

 追伸(2005.5.16)
 コミックキャッスルのチラシには、http://www.comiccastle.jp/ というURLが書かれているのだが、現時点ではサイトは立ち上がっていないので、JRESのWHOISで検索した結果、ビックリした。なんと、登録者が鷲見英典氏。ケットコムの代表者の方である。へー、そういうこともあるんだぁ。ますます興味津々。
 ちなみに、元記事を@すのすけさんに昨日取り上げていただいた。@すのすけさんが記事を書いた時点では、10月2日の「ComicRevision」と同じ会場で行われるの「みみけっと」「素敵空間」だったようだが、今日のケットコムを見ると、開催日が10月2日から10月10日に変更になり、代わりに、10月2日に同会場で開催されるのは、元々は10月10日に開催予定だった銀魂オンリーの「武士魂〜第3訓〜」と巌窟王オンリーの「Destiny(仮)」に変わっている。ただ、それぞれのサイトの方では、まだ、10月10日開催のままの表示。さらにComicRevisionのサイトは残っているが、ケットコムから検索できなくなっている。わけわかんないなぁ。
 なお、いただいた情報によると、最初にComicRevisionのサイトが公開されたときは、 「目許を黒枠で隠した「Zガンダム」のキャラクター達がズラリと並ぶイラストがアップされていて(作品中に「修正」って言葉が何度も出たからだと思うけど)、一体このイベントはなに? と目が点になった」とのこと。

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