混沌の廃墟にて -52-

フリーソフトの免責事項

1989-05-01 (最終更新: 1996-10-29)

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強化月間と宣言しながら、いきなり発言が途絶えそうな雰囲気があるが、特に 旅行の予定もないSYSOPが連休に何をしているかと言うと、念願というか恒例の 「通信ソフト」の作成に着手しつつある(*1)。 ようやく FPRGF の方がバグ付きとは言えども何とか完成した段階だ。

バグ付きと書いたが、誰からも動作が変だという指摘をいただいてない。これ は症状が仕様なのかバグなのかちょっと判断しかねる類のものだからだと思う。 具体的な症状だが、.nf の指定範囲内で .in の指定が無視されるというものと、 .in を指定中に ^F が現われると先頭の行のインデントだけ .in をカウントしな い位置に現われるというもので、いずれも緊急のものではないが実用にはやや支 障がある。自分が使うのが目的なので支障があると困るのだが…。

こういう場合にどの程度サポートするかが難しい。いかにフリーソフトと言っ ても障害が発生したら作者は責任を負わなければならないだろうか。少し調べて みたところ、このような場合には作者が障害があることを知りながら教えないで 発表すると問題になるそうである。

FPRGFの免責事項をどのようにするか、これは結構時間を取られた作業だった。 結局、FPRG にややアイロニーを込めて付加したドキュメント(READ.ME)の全文 を次に引用しましょう。


1)著作権 本ソフトウェアの原作に対する著作権は原作者である Phinloda にあります。

2)コピーの制限 本プログラムにはコピーに対する制限はありません。1冊の書籍を同時に複数 の人が複数の場所で読むことはできませんが、本ソフトウェアはコピーによって 複数の人が同時に別のハードウェアで実行することが可能です。

3)使用目的等 本プログラムのソースプログラムの一部あるいは全てを、目的にかかわらず作 者に無断で使用、引用、転載することを承諾します。ただし、いずれの場合も原 作者が Phinloda であることがわかるような表示を行なってください。

4)商利用に対する特別事項 本ソフトウェアを商利用する場合には本ドキュメントを同時に配布してくださ い。

5)譲渡等の禁止の禁止 本ソフトウェアまたはそのコピーを、譲渡・賃貸・移転その他の方法で第三者 に使用させることを禁止することはできません。ただし、本ソフトウェアを修正 し、かつ次のA、Bの条件のうちいずれかを満たす場合には、修正した版のみに 対する譲渡等の禁止を主張してもかまいません。いずれの場合もオリジナルの譲 渡等を禁止することはできません。

A 修正する以前の版を同時に配布する場合 B 修正前の版の配布を要求された場合にそれに応じる場合、ただし要求者が修 正前の版を入手するための手数料が修正した版を購入するのに必要な金額を 越えてはならない。

6)変更および改造 使用者が変更あるいは改造して本プログラムを利用することに対して一切の制 限はありません。 変更あるいは改造したプログラムを公開する場合には、どの部分が誰によって 変更あるいは改造をおこなわれたかコメント等の手段を用いて明記してください。 この場合、READ.ME に既にある文章は、文章の作者を除いて修正することはでき ません。ただし、誰であっても READ.ME 全体に矛盾が生じない条件を満たすなら ば、READ.ME の --追加事項-- 以後に新規の文章を追加することができます。

7)免責 原作者は本ソフトウェアを利用したために生じたいかなる損害に対しても、一 切の責任を負わず、また、いかなるサポートの義務もないものとします。


著作権は放棄していないのである。著作権を放棄することもできるらしいのだ が、2)以降の条文に従えば著作権を放棄しなくても全く問題ないだろうと思っ て保持できる権利はとりあえず握っているわけである。 (*2)

2)は完全に何かのパロディだが、あえて説明を省く (*3)。デジタルメディアはこうでなければ面白 くない。3)は他の発言に書いた通り、雑誌に投稿して原稿料をもらっても作者 名の修正さえなければかまわない、という解釈でよい。 (*4)

5)がやや煩雑になったが、要するに修正したソフトに対しては修正した人が 無断配布を禁止してもよいということ。6)は改造は自由であるということ、た だし、改造したものを公開する場合にはどこを改造したか明記する条件を付けた。 他人の追加したバグの責任まで私に回ってきたら大変だと思ったのだ。そして7) が市販のパッケージソフトの使用承諾書にも必ず書いてある、“いかなる責務も 負わない”の一文。

市販ソフトでさえ無責任だから、フリーソフトはなおさらである、と主張する のではない。市販ソフトのように金と引き換えであるならば、「本製品のバグに よる損害に対しては責任を負う」程度の責任感はもって欲しい。 (*5) また、フリーソフト=低い品質、という図式は非常によくないと思うので、フリ ーソフトこそオンラインによるフィードバックを生かして高い完成度を目指すの がマニアックでよいのではないか。

ところで FPRGF は商利用に関する特別事項を設けているが、特に商利用を期待 しているのではない。これは世間のフリーソフトの中に商利用を禁止しているも のが多いことに対抗するアイロニーのつもりである。フリーソフトも商利用でき るようにするべきだ、と主張しているのではない。そんなことは作者が勝手に決 めればよいことである。作者が「何が何でも無料」というポリシーなら商利用禁 止でかまわないのである。

ただ、何も書かないと何が起きるかわからないので、チェックを入れておいた のである。ここはまだ、NEKO.COM のように善意のPDSが一記者のコラムによって 「NEKO はウイルスだ」のような書き方をされ、そこから派生して何も知らない人 から「NEKO はウイルスなのですか」のような質問が出てしまうような目茶苦茶な 世界なのだ。(くどいですが NEKO はウイルスではありません)(*6)


通信ソフトは FPRGT (FPRG Terminal) という、これまた安易なネーミングであ る。予定通りならば、この発言は FPRGT の auto-type 機能を使って登録されて いるはずである。このソフトが完成すれば、勝手に早朝か昼のすいている時間帯 に電話をかけて FPRG にアクセスして未読の発言をすべてダウンロードするとい う恐ろしい機能がサポートされているかもしれない。しかし、いつになったら完 成するかは定かではない。(*7)


補足

(*1) この通信ソフトはその後の開発が頓挫している。現在公開している「魔王」とは別。

(*2) 著作権は放棄できないという説もあるが、著作権は譲渡可能な財産権だから放棄 もできるという説を支持している。これに関しては、混沌の廃墟にて第129〜131 回、「Public Domain Software は日本に存在し得るか」 (1) (2) (3) を参照して欲しい。

(*3) Borlandの契約条項の中に、本のように使えるという文がある。一冊の本は同時で なければ何人でも読めるように、同時でなければ複数の人が使ってもよい、とい うのだったと思う。

(*4) 著作権を放棄しても、日本の場合は著作者人格権が残っているので、勝手に著者名 を変えてコピーしたらまずい。「他の発言に書いた」というのは、当時、電子会議 で質問があったので回答したのである。

(*5) 責任感を持つというのと実際に責任を取るというのはまた別の話で…。

(*6) NECO.COMはこの頃流行したjokeソフト。フリーソフト? 確認できなかったのだ が、原文にはPDSと書いてあるので、とりあえずそのままにした。

(*7) オートパイロットは今では何も珍しくないが…。なお、通信ソフト「魔王」には、 さらにグレードアップした恐ろしい機能が実装されている。


        COMPUTING AT CHAOS RUINS -52-
        1989-05-01, NIFTY-Serve FPROG mes(?)-61
        FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
        (C) Phinloda 1989, 1996