A/Cのレトロフィット(その2)

レトロフィットとは何か?

実は単なるコンプレッサ交換のつもりだったのですが、後述の諸事情によりやむをえずクーラーのレトロフィットについてあれこれ調べなければならなくなりました。その結果としてわかった事、興味を持った事、知っておいた方が良さそうな事をまとめたものです。内容はカークーラー原理の理解が少し必要かもしれません。これについては、Eにっぱち講座の「クーラー修理編」(byにしやんさん)の最初の所に大変分かりやすく書いてありますので是非参考にしてください。
なお、簡潔に述べる為に一部断定調で表現していますが、自己流で調べた事ばかりであり事実とは異なる場合があるかもしれませんので、あくまで参考として読んでください。各位のご意見や情報を歓迎致します。

目次
フロンについて
自動車用エアコン冷媒一覧
レトロフィット概要
交換部品について
ありがちな疑問

フロンについて

フロンとはフランスDupont社の商標Freonの和製英語であり、一般にクーラー・冷凍庫等の冷媒や洗浄剤等に使用されているフッ素(F)化合物全般を意味します。1930年ごろに発明され、1955年以降のカークーラーの発達により、1990年代前半までは数あるフロンのうち、CFC-12という塩素系のフロンが自動車用クーラーの冷媒として広く使用されてきました。
しかし1974年にオゾンホールが発見されて以来、CFC-12等の塩素系フロンはオゾン層破壊および地球温暖化の原因とされ、1992年あたりではモントリオール議定書により国際的に規制対象となって、1990年後半以降に生産された車にはオゾン層を破壊しないとされる非塩素系HFC-134aというフロンが自動車用クーラーの冷媒(代替フロン)として現在まで使用されています。
dupont社では、このオゾン層を破壊しない方のフロンについては、Suvaという別の商標を付けていますがこちらの名はほとんど一般には使われていないようです。
ただしHFC-134aも地球温暖化には影響があり、1997年の京都議定書(COP3)では規制対象とされ、排出削減や回収等が計画・実施されています。


 
自動車用エアコン冷媒一覧 
冷媒名
分類
概要
備考
CFC-12
(R-12)
特定フロン オゾン層破壊原因として、1995年末で生産禁止(日本および世界主要国) 国内流通は在庫や補充缶が主流。いつまで供給可能かは不明。地方条例規制や業界の自主計画として回収される。
HFC-134a
(R-134a)
代替フロン 現在の生産されている車のエアコンは全てこれを使用。自動車メーカーのレトロフィットもこれを使用。 地球温暖化に影響するため、排出規制対象。一部の地方条例規制や業界の自主計画として回収される。
混合冷媒 代替フロン 既存のカーエアコンのR-12の代用(レトロフィット用)として使用 R-134aは成分の1つ。よって温暖化影響もほぼ同様。
(回収方法等については不明)
CO2 自然冷媒 次世代カーエアコン用冷媒としてLEV車向けに開発中。 2001年5月現在、カーエアコン製品としてはまだ実存しない。


レトロフィット概要

さて、レトロフィットですが、いったいこれは、いつ、何を、どうするものなのでしょうか? 
これについて分かりやすいアメリカ環境保護局のサイト「車のエアコンについて」があります。日本とは法律や社会情勢など異なる所がありますが、分かりやすく読め概要把握に便利なので、1例だけ、以下に日本語訳文を紹介致します。(原文はこちらです。)

「それはあなた次第です。」
カーエアコンのレトロフィット 
(EPA:1997年)

ということで、無理矢理ですがこれを要約すると

  • レトロフィットとは、エアコンの冷媒をR-12からR-134aか、または混合冷媒に置き換えることらしい。
  • レトロフィットは、今の車のエアコンが壊れた時に、ユーザー自身の判断で、修理方法の選択肢の1つとして検討することを推奨しているらしい。
  • おそらく、環境上・経済上の観点によるものでしょう。R-12ガスは回収・処理の必要があり、それには通常費用が発生し、一部の部品の廃棄処理も必要のようです。
  • 予算的には、大別して、以下の3つのコースがあるようだ。
    1. 松:R-134a冷媒によるメーカーおまかせのフルキット
    2. 竹:R-134a冷媒による最低限の部品を交換するもの
    3. 梅:混合冷媒に入れ換えるだけ
  • その車をあまり長く乗らない人はやらない方が経済的だが、長く乗る人にとっては、松コースがお得らしい。
  • 社会的には、対応した冷媒の種別ラベル貼りと、アダプタ取付が重要らしい。
  • 技術的には、一般にお金をかけた方が良好な性能が得られるらしい。
  • 経済性については、個人の状況や周囲の情勢によるでしょう。でも修理の必要な時に行なうという点で、単純な修理よりは多小余分な費用が発生する事がレトロフィットしにくいところでしょうか。また、エアコンが特に問題なく動作している時には、一般的にはあえてレトロフィットする必要はないと思われます。(あわてなくとも、いつかは壊れる時が来るでしょうから。)


    交換部品について

    BMW純正のレトロフィットでは、新品のコンプレッサとドライヤ、それらに関連した最低限のOリング交換が基本交換部品であり、他のエアコン部品をどこまで交換するかは部品の状態やユーザーの予算に応じて行なうようです。以下はEPAのレトロフィット方法及びM535i SIGの会報を元にまとめたものです。

    部品
    作業概要
    作業のポイント
    備考
    コンプレッサ <必須作業>
    純正レトロフィットの場合はR-134a対応の新品に交換する。
    格安コースの場合は、既存のコンプレッサオイルをR-134a用のオイルに入れ替える。

    R-134a用コンプレッサオイルは、PAGオイルまたはエステルオイルを使用する。
    海外の個人ユーザーでは古い純正コンプレッサでエステルオイルに交換し使用している例あり。銘柄および量は未確認。
    ドライヤ
    (別名リキッドタンク、ドライングコンテナ、レシーバ)
    <必須作業>
    新品に交換する。

    11万km走行車には一般的に交換するらしい。BMWではInspection-II時の定期交換部品。作業時は極力外気にさらさないこと。
    E28用等に現在供給されているドライヤはR-12およびR-134aどちらにも使用可。
    新品のE28用ドライヤでもドライヤ高圧ポートはR-12用ポートなのでアダプタ装着が必要。
    Oリング <必須作業>
    最低限、配管をはずした所に対しては交換を行なう。
    コンプレッサ脱着、ドライヤ交換が前提のため、最低でも
    ドライヤ(IN)、(OUT)
    コンプレッサ(IN),(OUT)
    の4ケ所のOリング交換が必要となる。
    現在BMWで使用しているR-134a用Oリングは、R-12にも使用可とのこと。

    間違って古いR-12専用Oリングを使用しないこと。

    サービスポートアダプタ <必須作業>
    R-12用ポートとR-134a用ポートは形状が違うため、高圧側には赤いキャップのアダプタ、低圧側には青いキャップのアダプタを装着する。
    アダプタは既存ポートにかぶせて装着する。

    R-12用はネジ込式だが、R-134a用はクイックジョイント式。

    アダプタは、BMWほか一般の電装店でも購入可能。
    E28では低圧側は配管上に1コ(注入用)、高圧側はドライヤに1コ(計測用)。
    冷媒種別ラベル <必須作業>
    R-134aであることと、冷媒を何g入れれば良いかを明記したラベルをエンジンルーム内に貼る。
    既存のR-12用ラベルははがす。
    違うガスを間違って注入しないために必ず必要。
    EPAではR-134a用は青いラベルとしている。BMWの新車(R-134a)は緑のラベルを使用。
    R-12ガスがR-134aエアコンに混入すると、PAGコンプレッサオイルと酸化反応し潤滑しなくなりつまる。

    ガス注入量表記も必要。
    E28はR-12では1000g以下が規定。 R-134aでも同量かそれ以下。

    ホース
    (及び配管)
    洩れたり、明らかに劣化していそうな所は交換する。 <オプション> E28用として現在供給されているホースはR-12およびR-134aどちらにも使用可
    高圧カットスイッチ ドライヤについているスイッチを交換する。 <オプション>
    一般修理では、ドライヤ交換と同時に行なう場合がある。
    現在供給されている部品はR-134a、R-12供同じ部品を使用。
  • コンデンサ
  • エキスパンションバルブ
  • エバポレータ
  • 状態が悪そうなら交換する。 <オプション>
    レトロフィットとしては交換は不要。
    同上。



    ありがちな疑問

    レトロフィットについてのありがちな疑問点についてまとめました。私の回りではBMWのレトロフィット例がほとんどありません。よってこれらは M535i SIGのMLや会報を主に独断でまとめたものであり、無保証である点にご注意下さい

    問い
    消極的な見解
    積極的な見解
    R-134aのレトロフィットはR-12の時より冷却性能が落ちるのでは? 高温時の性能がやや落ちる。またコンデンサに多少負荷がかかり発熱効率が落ちるのでコンデンサの容量UPが必要な場合があるとされている。 ちゃんと施工したならばほぼ同程度には効く。
    純正のR-134aコンプレッサは古いBOSCHのよりやや効率が高いようなので「以前より寒いくらいだ」と言う例がある。
    電動ファンの作動温度を変更する手もある。
    レトロフィットすると、故障しやすくなるのではないか? 冷媒の特性が違う。
    やや高圧になる。
    作業は同時でも、要修理カ所は別途修理すべきもの。レトロフィットそのものが故障原因になることはないはず。
    配管ホースやOリング類は、全部新品にしないとガス洩れしてダメなのではないか? R-134aガス分子はR-12分子より小さいのでゴム類への浸透性が高く洩れやすい。
    新車の時から装着されているOリングはR-134a耐油性がない。

    但しBMWでは1994,95年あたりからはR-134a対応のOリングで補修している模様。

    一度外した部分についてはOリング交換は必要だが、いじっていないところは機密性が高く、オイルで保護されているので洩れないはず。
    R-12用鉱物オイルが多少残存してるなら、R-134aガスは混ざらないのでなおさら保護になる。
    冷媒ガズはR-12の時とくらべてどのぐらいいれるのか?
    R-134aは高圧になるらしいが?
    R-134aはR-12より沸点が3度低く、蒸発潜熱が2割高い。そのためやや高圧となる。 その分冷媒量は少なくてすむ。R-12の時の注入規定量以下で充分。(約7%の減量)
    エキパン、エバポ、スイッチや制御系の変更が必要なのでは? 必要と言う意見もある。 交換して悪いことはないがR-12と部品が共通だから不要。
    ドライヤ交換は必要なのか? 面倒な為か、無交換ですます例がある。
    が、無交換の場合のレトロフィットは、エキパン詰まり等の失敗した例をよく聞く。
    絶対換えるべき。換えない場合は大抵エキパンが詰まってすぐ壊れる。
    また、本来は定期交換部品。
    コンプレッサのオイル交換はどうしたらよいのか? 古いBOSCHコンプレッサは基本的にはR-12には対応していない。
    保証外の作業。
    新品を買うより経済効果は高いので、やる場合は自己責任で。とにかく出来る限り既存の鉱物オイルを抜くのがお約束。(クラッチを回しながら抜く)
    PAGオイルをいれるなら空気に長くふれないように手早く225g程度注入。
    エステルオイルの方が既存オイルとの親和性は良い。
    どうやら私のように大物のコンプレッサ交換修理の時が、予算的に絶好のレトロフィットのタイミングのようです。ということで、次はいよいよ作業です。

    (2002.06.27 :リンク等の一部更新)
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