ブラウン管から映し出される2001年9月11日のニューヨークの映像を「美しい」 と感じてしまった盗撮魔・長谷川と、解離してしまった自分をあきらめかけていたゴス ロリ(ゴシック&ロリータ)少女・萌との間に起こった2002年8月15日から9月 11日までの出来事を描く。

覗くことで他者を発見し、自らのリアルに触れようとする長谷川とそのことに共鳴する 萌は互いに共犯者となり、リアルを奪還する困難な闘いに挑んでいく。その闘いに、張 りぼてのメディア世界の中で長谷川や萌のように壊れてしまった様々な人たち・・・ひ きこもり、過労サラリーマン、風俗嬢、過食症の女・・・の断片的なエピソードが絡み 合い、平坦な戦場としての日常が浮かび上がる。

長谷川と萌の不器用なコミュニケーションと静かな内省が、同時代を生きる観る者に微 かな希望を与える。

■出演者自らが自分自身を演じる
萌役を演じるのは、かつて境界性人格障害と診断された詩(しおり)という少女。
ひきこもりの青年役は、実際に5年間、自室から一歩も外に出られなかった・・・
劇中人物と出演者は互いに重なり合い、リアルな作品世界を作り上げる。

■ドキュメンタリー的撮影
主軸となるセリフ以外は、出演者自身の生の言葉を即興で撮影。
フィクションとドキュメンタリーの狭間に登場人物の心の痛みが浮かび上がる。

■小型ビデオカメラ独特の映像表現
主人公・長谷川が盗撮に使うピンホールカメラをはじめ、超小型CCDカメラを駆使し、ビデオでしか表現 し得ない斬新な映像世界が描かれる。

■重層的な映像世界
主人公・長谷川が盗撮する映像と、それをリアルタイムで放送しているインターネット上の映像、そして、 その映像を実際にパソコンで覗いている映像、あるいは、街に設置された監視カメラの映像等により重層的 な映像世界が構築され、メディア社会のリアルの転倒が表現される。