寄生虫


寄生虫のなかで、リクガメに関して特に注意したいものを中心に紹介していきたく思い ます。寄生虫に関しては大変奥が深い話でありますので、できる限り要点に絞ってご紹介 できればと思います。
寄生虫による病気は寄生虫自体の生活史をある程度把握することにより、予防と対策を見つける ことができます。その点で、細菌やウイルスによる病気よりも対処しやすいと言えます。
 まず、基本的な言葉を幾つか把握しておく必要があります。ある生物に寄生することによって 利益を受ける側の生物のことを寄生生物(parasite)といい、ある生物に寄生されることによって不利益 や害を受ける生物のことを宿主(host)といいます。寄生生物というと、広い意味ではウイルスや細菌 なども含まれることになりますが、ここでとりあげる寄生虫というのは、特に寄生生活をする動物と いう意味です。


   ●寄生虫の分類
   ●寄生虫の生活史
   ●寄生虫の生活史と予防
   ●原虫による病気
        ●アメーバ類
        ●鞭毛虫類
        ●胞子虫類
        ●有毛虫類(繊毛虫類)
        ●繊毛虫類顕微鏡写真
   ●線虫による病気
        ●蛔虫について
        ●蟯虫について
        ●その他の線虫について
        ●線虫の駆虫の注意点
        ●寄生虫の有効性について
        ●顕微鏡写真


     

寄生虫の分類

寄生虫もいろいろな分類がされています。リクガメに的をしぼって分類を考えますと、次のような 分類が分かりやすいと思います。
大きく分類すると、単細胞生物と多細胞生物に分けられます。
単細胞生物の寄生虫を一般的に原虫といいます。アメーバなどが原虫の中では馴染み深いで しょう。他に鞭毛虫、胞子虫、繊毛虫などがいます。
多細胞生物の寄生虫は、さらに大きく3つに分類できます。
扁形動物 吸虫、条虫
線形動物 線虫
節足動物 ダニ
これらがリクガメの寄生虫といわれているものです。また、その寄生虫が宿主の体のどこに寄生する かという見方によっても、大きく2つに分けることができます。宿主の体の体表や表層に寄生するもの を外部寄生虫(ectoparasite)、宿主の体の中に寄生するものを内部寄生虫(endoparasite) といいます。
もうひとつ、蠕虫類(helminthparasite)という言い方をすることがあります。これは 便宜上の名称ですが、線虫類、吸虫類、条虫類をまとめていう名称です。
分類ではこのように分けることができますが、爬虫類の寄生虫については哺乳類の寄生虫程には、 研究が進んでいないのは事実です。その理由の一つに爬虫類の寄生虫についてはその生活史を把握し にくいということがあげられます。人間の身近な生物から研究が進むのは当然ですから、ペットとし ての爬虫類という見方が一般化してきてから研究が進んできているという経緯があります。よって、 特にここではリクガメに限定してお話しするのには無理がありますので、ある程度爬虫類という見方 にならざるを得ない点はお許し下さい。
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寄生虫の生活史

寄生虫が虫卵から孵化して幼虫、成虫と変態し、次世代の卵を産生するまでの発育過程を生活史、あ るいは生活環といいます。
寄生虫の生活史は幾つかのパターンに分けることができます。
一生の間宿主を変えない生活史パターンを直接発育
一生の間に2種類以上の宿主に寄生する生活史パターンを間接発育といいます。間接発育を する寄生虫で、寄生虫の成虫が寄生する宿主のことを終宿主といい、幼虫が寄生する宿主の ことを中間宿主といいます。中間宿主は1つであるとは限りません。宿主を乗り換える場合 最初の中間宿主を第一中間宿主といい次を第二中間宿主といいます。
原虫類においてはその中で増殖しうる宿主を、蠕虫類においてはその中で成虫まで発育できる宿主を 固有宿主と呼びます。ヒトを中心にしての話ですが、ヒト以外にも固有宿主をもつ寄生虫に おいて、つまりヒトにも他の動物にも寄生できる寄生虫においてヒト以外の宿主を保虫宿主 と呼び、主にヒト以外の哺乳類が保虫宿主になれる場合、人畜共通感染症(zoonoses)とよび、 58種の寄生虫症が含まれます。
 寄生虫が宿主を選択するに際して、ほとんどの寄生虫は宿主を厳格に選択する宿主特異性 (host specificity)を持っています。もっとも厳密な場合にはただ1種類の宿主しか選択しません。これ は、寄生虫の地理的分布を規定していて、風土病や地域的流行などもこれに関係しています。また 寄生虫はその宿主の体内で特異的に好んで寄生する臓器がたいてい決まっていて、これを臓器特 異性(organ specifity)と呼びます。しかしなかには本来寄生する臓器以外の場所に迷入したり、本 来の寄生場所とは異なった所において、発育、成熟が可能な場合もあります。これを、異所寄 生とよびます。
また、アメーバの一種や包虫などが血流によってほかに運ばれ、そこで増殖する場合転移と よんでいます。
これらの生活史が生じてきた理由としては、寄生虫が高度な適応性を有していることがあげられます。 また、根底には寄生虫自体の代謝と宿主の持つ、主として免疫による排除機能とのバランスの問題が 影響していると考えられています。
この生活史はリクガメはもとより様々な爬虫類を飼育するうえで大きな意味を持っています。
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寄生虫の生活史と予防

リクガメの飼育において、他の病気についても同じですが、まずその病気にかからないようにする ことが大切です。治療は病気にかかってしまった後のことになります。
寄生虫の生活史を考えると、その予防についてはどうしたらよいかをある程度把握することが可能 です。つまり寄生虫の生活環を絶ち切ることが予防につながります。リクガメへの感染源を断つこと が第一に考えられることでしょう。
直接発育をする寄生虫を考えてみますと、ある終宿主の体内で寄生虫が卵を産みます。その卵が糞便 とともに外部に排泄されます。ほとんどのリクガメの寄生虫の卵は排泄された直後は他の宿主に感染 する力をもっていません。24時間程度発育して始めて感染力を持つようになります。
では、その前に、卵の入った糞便を始末してしまえばよい訳です。これは早ければ早い程確実です。 また糞便の中に虫自体が入っていた場合はどうでしょう。消化器官内に寄生する寄生虫でなければ、 その虫はなんら問題はないでしょう。一度排泄されてしまうと彼らは元に戻ることはできません。じ きに死んでしまいます。消化器官内に寄生する寄生虫の場合には排泄された直後にその寄生虫を他の リクガメが丸呑みしてしまわない限り問題はないでしょう。いずれにしてもその糞便を始末すること で予防できる訳です。
間接発育をする寄生虫の場合、糞便の始末は第一ですが、さらに中間宿主となる生物と接触させない ことによって、予防することができます。リクガメの場合、草食ですから、他の動物や昆虫を食べて しまうケースは稀です。また寄生虫は中間宿主に対しても宿主特異性を持っていますから、ある寄生 虫が中間宿主に寄生するためには、その決まった種類の生物が存在しなければ寄生のしようがありま せん。
リクガメは日本国内での繁殖によって生まれた個体でない限り、すべて海外から輸入された個体で す。たとえあるリクガメが間接発育をする寄生虫に寄生されていたとしても中間宿主となる生物がい っしょに輸入されてきて、かつ自分のリクガメといっしょに自分の飼育環境にやってきてそこに いるのでない限り、ほとんど問題となることはないでしょう。また日本にいる寄生虫がもともとの 生活圏が海外であるリクガメに寄生することはほとんど皆無です。寄生虫の宿主特異性によります。
こうしてみると、リクガメの寄生虫に関して主に問題になるのは、始めてリクガメをショップなどで 購入してきた時とすでにリクガメを飼育している環境に新しい個体をいっしょに入れた時の2つの場 合です。輸入されたときにすでに感染していた個体に対して駆虫を施せば、その後は寄生虫が問題に なることは殆どないでしょう。一方購入時になんら寄生虫に感染している兆候が見当たらない場 合でも、まず輸入されたリクガメは寄生虫に感染していると考えたほうが適切です。それは、かな りひどい輸入状況に大きな問題があるからです。ひじょうに狭いダンボールの箱や木箱にとにか く詰め込まれて輸入されてくるのがほとんどです。その結果、その中に1匹でも寄生虫に感染し ている個体がいると、箱の中で排泄された糞便からほぼ感染してしまいます。特に直接発育する種 の寄生虫ならば間違いなくといってよいほど感染しています。購入時に兆候が見られないリクガメ は、運がよいといったほうがよろしいかもしれません。
寄生虫は宿主に寄生することによって宿主から栄養を拝借して生きています。よって、寄生虫として は、宿主を殺してしまうようなことをしてしまっては、自分も死んでしまうことになります。よって 一般的には寄生虫による寄生虫病は症状が穏やかです。リクガメがストレスが少なく、他の病気に かかっていたりしない場合には、なにも兆候がみられないことが多いでしょう。ところが、幾つかの 理由により、あるときから疑わしい症状が出てくることがあります。
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