川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2004年02月


●2004年02月29日

読んでも能力の向上しないビジネス書が多い

 仕事に役立つ幅広い能力を身に付けたいと思う人は、いろいろなビジネス書を読んでいるだろう。私も、今まで数多くのビジネス書を読んだ。そうした書籍に関し、若い頃は気付かなかったが、仕事の経験が増えるほど、大きな疑問が生じてきた。ビジネス書を読むことで身に付けられる内容が、非常に少ないのではないかと。
 この疑問だが、今では確信に変わっている。多くのビジネス書は、それを読んでも能力がほんの少ししか向上しないか、まったく向上しない。その理由を、改めて考えてみよう。

 能力が身に付くためには、読んだ内容を実際に使える必要があるし、使ったことで結果が明らかに変わる必要もある。この条件を満たすには、作業手順だけでなく、途中で作成するものの内容も明らかにし、作成方法も説明しなければならない。
 この条件を満たすように作るには、ビジネス書が対象とする内容を、かなり掘り下げて検討し、具体的な方法や道具の形にまとめなければならない。これは簡単なことなだろうか。それとも難しいことなのだろうか。
 その答えは、対象となる内容によって異なる。日々の報告のように簡単な作業であれば、手順化したり作成物を規定するのは、さほど難しくない。逆に、プロジェクトや部下の管理のように、マネジメントに関わるような内容だと、相当に難しい。
 実際、掘り下げが簡単な対象に関しては、読んで役立つレベルまで掘り下げたビジネス書を得られる。逆に、掘り下げが難しい対象に関しては、読んでも役に立たないビジネス書がほとんどだ。表面的で抽象的な内容ばかり書いてあって、具体的に役立つ内容がほんの少ししか含まれていない。

 能力向上の意識が強い人なら、マネジメント能力を向上させようと、数多くのビジネス書を読んだ経験があるだろう。しかし、マネジメント能力が身に付いたと実感したことが、過去にあっただろうか。何人もの友人も実感したことがないと言っているし、私もそうだった。
 ところが、ある出来事で大きく変わった。外資系のコンサルティング会社に勤め、プロジェクトのマネジメント技術を知ったからだ。非常に簡単ながら、大事な点だけを的確に把握する、優れたマネジメント技術だった。これを知ったおかげで、マネジメント能力を身に付けるための大事なヒントが得られた。
 どんな対象でも、把握すべき大事な点と、大事な作業が含まれる。それを明らかにすることこそ、対象となる内容の掘り下げに等しい。コンサルティング会社のマネジメント技術と、システム開発方法論の解説書は、その点を理解させてくれた。私の人生の中で、非常に大きな経験だった。
 何か1つの対象でも、掘り下げた内容を知ると、掘り下げてない内容と見分けられるようになる。すると、役に立たないビジネス書の内容が、かなり気になる体質に変わってしまう。

 読んで役に立たないビジネス書であっても、それなりに売れているし、ベストセラーになるものもある。この事実は、何を意味しているのだろうか。こんな状況が続いているのには、それなりの理由がある。ちょっと情けない理由だが。
 一番大きな理由は、掘り下げた内容のビジネス書がほとんど売られてない点だ。言われてみれば当たり前であるが、良い内容を知らなければ、悪い内容が悪いと分からない。良い比較対象を知らないことで、悪い内容を見分けられないでいる。
 2番目の理由は、読んだ後の自分の変化を、気にしている人が少ないためだろう。読んだことによって何が身に付いたのか、実際に何ができるようになったのかなど、変化を冷静に見極めようとする人は、めったにいないようだ。その代わり、分かった気持ちになることで満足する。現実には、ほとんど変わっていないのに。
 読んで役に立たないビジネス書でも売れているので、そんな本が登場し続けている。書き手の方も、読んで役立つかどうかなどあまり気にせず、分かった雰囲気になりやすい内容を重視する。これが、ビジネス書の現状であろう。

 ここまでの内容が理解できない人は、本サイトの「ホンモノに必要な一流の仕事術」に含まれる「管理職に必要なマネジメント技術」を読んでほしい。(説明量の関係で)作成物の詳しい中身までは紹介してないが、作業手順と注意点などを明確に示している。こうしたレベルまで解説してはじめて、掘り下げた内容といえる。
 数は極めて少ないが、読んで役に立つタイプのビジネス書も存在する。その代表例が、ウィリアム・J・アルティエ著の「問題解決と意思決定のツールボックス」だ。この書籍では、明確な手順を示すとともに、作成物の内容まで規定している。まさに、対象を掘り下げた内容である。このレベルのビジネス書は極めてまれなので、この書籍は非常に貴重な存在といえる。
 もちろん、この書籍を読んだからといって、一気に能力が身に付くわけではない。何度も繰り返し読み、実際に使ってみることで身に付く。実際、この書籍の「はじめに」にも、そのことが書いてある。

 こんな現状を少しでも改善するためには、読者が強く主張しなければならない。読者ハガキや電子メールなどで、「こんなレベルの内容では、実際に役立たない。対象をもっと掘り下げてほしい。具体的な作業手順や作成物を定義する形で。この種の役立たないレベルのビジネス書なんて、もう出さないでほしい」などと。
 こういった意見が増えてくれば、出版者側(主に書籍の編集者)の意識が変わり、読んで役立つ本が増えてくるはずだ。


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