下田海中水族館

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※入館



伊豆半島の最南端は下田、そこの入り江の形状を利用して造られた、この下田海中水族館、
「海中」という名前を冠しているからには、
紋別オホーツクタワー足摺海底館のような自然環境を
そのまま水槽としてみせるタイプの海底タワー型水族館かと思いきや、実際には陸地と二つの浮島を
吊り橋で連結することにより構成された、ちょっと今まで見たことのないタイプの水族館だった。


館内散策



その浮き島の一つにある「アクアドームペリー号」という名の船を模した本館内に入ってみると、
そこには水族館の顔ともいえるメイン水槽がドデンと鎮座ましまして… というほどデカくはない。
むしろ他のそれと比べればつつましいともいえるサイズだろう。

だがメイン水槽の大きさだけがエンタ力の決定的差ではない、ということを教えてやるとでも
言わんばかりにその中では「ウツボ」さんがユラユラと遊泳を。
実際ウツボといえば岩場に潜んだが最後、そこからピクリとも動かない魚の代表格と思っていたが、
ここではそんなウツボさんも積極的に頑張っていた。
むしろ潜む岩場が少なすぎるという厳然たる事実もあるにはあるが、ここは素直にウツボさんの努力を
讃えてやるべきだろう。

で、右側のは水族館の顔たるメイン水槽の更なる顔ともいえる「トビエイ」さん。
その巨体をひけらかすように悠然と泳ぐ様はまさに「貫禄」の一言。この水槽内だけで言うなら食物連鎖
ピラミッドの堂々たるトップだろう。しかしそんな彼女も外界へ出たが最後、猟師の前にて単なる
魚姦の
対象物と化す。ああ、排泄孔の形状がホモサピエンスのメスの生殖器に似てさえいなければ…
ただ今はこの世の春を謳歌中である彼・彼女の幸せがこの水槽内にていつまでも続くことを祈るのみである。



ふと近くの壁面を顧みれば、そこには詫び寂びテイストの色濃い魚類の絵画が多数。
下部に魚類名が書いてある辺り、どうやらこの絵画は大水槽の案内版としての役目も果たしているらしい。
確かに趣き深くはある。が、写真提示形式のそれと比べてあまりに分かりにくすぎる。
趣きと実用性、この二律背反を前に選んだ選択肢が「味わい」に繋がることを切望してやまないが、
非常に残念ながら半径10メートル以内を見渡す限り、それを感受できているのは私だけのようである。



もう一つの浮島内にある「海の生物館シーパレス」から目を惹いたものを何点か。
左のは「ダイナンウミヘビ」。いつも砂に潜っていてその全身を現すことはほとんどないらしい。
そのほとんどが砂の下にある体長は1メートルを軽々オーバー、デカい奴ともなると2メートル級のものも。
そして餌と見れば何にでも食いついて一度捉えた獲物は決して離さないことから、海専門の釣り人には仕掛け
デストロイヤーとして忌み嫌われているらしい。
なお外道は珍味と相場が決まっているらしいがコイツの場合は完全に例外で、刺身はもちろん小骨が多すぎて
煮ても焼いてもどうもならないという究極的に迷惑な魚(調理次第では食えなくもないらしい)
… らしいが、砂の下に埋まってる今の状態ならまあ愛らしく感じないでもない。

で、右のシャア専用タチコマもどきが「イガグリガニ」。
水深200〜600メートル程の深海に住み、底部に沈む魚の死骸などを餌にしているカニ。
厳密にはカニじゃなくヤドカリ系なので足は8本じゃなくて6本だそう。
そのお味はなかなかのものらしいが、
その名の通り全身これトゲだらけな外装が我々との一次接触を確実に拒む。
と同時にハリネズミなジレンマの呪縛も抱えていそうなこのカニは、どことなく我々キモヲタ系と共通点が見て
とれるようで、どことなく無視できない存在感がある。



ここらでビューティフル系を二つほど。
両者ともインド洋から大平洋域に広く分布、ここ日本の南側でも広く見られるポピュラー魚。

まずこちらのレフト側は「ハタタテダイ」。
糸状に伸びた背びれが旗を立てているように見えることから、この名前がついたとのこと。
姿形や特徴一つでこの扱い、見た目が全てな魚類の世界。そこに「内面」などという甘えは一切存在しない。

で、あちらのライト側が「ツバメウオ」。
伸長した背びれと尾びれを含む三日月のような全体のフォルムがツバメを想起させることからこの名前が… 
なわけでは断じてないらしい。感性や感覚という不確か何かにその身を委ねるにも程がある、
姿形や特徴無視でこの扱い、フィーリングが全てな魚類の世界。だけど「内面」などという甘えが一切存在
しないところは上記例と同様。本当に本当に魚類の世界は厳しい。
あ、成長するにつれてその外見が球状に近づいていくあたりのみ、我々ホモサピエンスの世界と同じかも。


なにげない工夫こそが



館内の一角にてこのような展示物を発見。
円形状の容器の上部にハンドルが付いていて、それを回すと中のオブジェがクルクル回る仕掛け。



で、中に入っているオブジェはそれぞれ形状が異なっていて、左側が真四角、右側がイルカのフォルムを
形どったそれになっていた。
要はこれ「イルカは何故はやく泳げるか?」という命題を証明するために設置されたものらしい。
なるほど、いわんとするところが「ほうらイルカ型の方が水の抵抗がこんなに少ないよ」だと言うのは良く分かった。
が、一般大衆視点で鑑みればただひたすらに捨て置かれるしかないのが、このような学術系コーナーの定め。
だからこそせめて自分だけでもと真剣かつ真摯に閲覧し、「なにげない工夫」のその意義を少しでも汲み取れればと。
私は今日もただひたすらにハンドルを回すのである。…それにしてもつまんないッスねこれ。


麗しのペンギン君



二つの浮島を結ぶ中間地点には水族館定番中の定番、ペンギン池が設置されていた。
そこにて、目の前で動くものはのべつまくなし追いかけたくなるというペンギンの習性を巧妙に
利用して、ハーメルン気取りで思う存分フンボルトさん誘導プレイを楽しんでいる謎の男を発見。
これまでの「見て愛でる」「触って可愛がる」とはまた別のまったく新しいふれあい方を示してくれたことに感謝。
だが周囲の冷ややかな視線を鑑みるに、実際のエグゼキューションは非常に困難かと思われる。


可愛い・イズ・ジャスティス



こちらはペンギン池と同じく水族館、馴染み中のお馴染み、アザラシ・プール。
そこにて完全直立モードでのんびりと午後のひとときを楽しむゴマアザラシさんの姿が。
そのコケティッシュなお姿たるや、もはや筆舌に尽しがたいほどキュート、そして燃え尽きるほどヒート!
そして無償の愛は種族の壁をも確実に凌駕しうるという事実を証明せんと(ジョジョー、俺は人間をやめるぞー!) 
いざ我もそこに馳せ参じませりとばかり、この身を乗り出して徹底観賞にいそしむ。
まさに「可愛い」は正義、プリティ・イズ・ジャスティス。



しかして説明パネルの「生殖孔」「ペニス」という圧倒的リアルを誇るキーワードを前にした途端、
それまでの絶頂テンションからすかさず俗世界へと引き戻されている自分をそこに再発見するに至る。
かわいくない、かわいくない、ペニス・イズ・リアル。この身を縮こめて徹底感傷にふける。

だが新しい発見もあった。睾丸を体内に引き上げて急所隠蔽をはかる幻の秘伝「コツカケ」、
一流の武道家達同士のたしなみともいわれるこの技をよもやアザラシさんごときが会得していようとは
夢にも思わなかった。人は見かけによらないというが、動物もまたしかりということか。


いつかのメイン



浮き島の一つにある「ラッコハウス」にはその名の通り、水族館のアイドル「ラッコ」さんが。
ラッコと言えば、同じくアイドルかつシンボル的存在なペンギンさんやアザラシさんの自由奔放さとは異なり、
極めて神経質かつ臆病な生態を持つがゆえその飼育は非常に難しいとされているが、ここのラッコさんはそんな
定説を微塵も感じさせない天真爛漫っぷりでもって和気あいあいと戯れ、我々観衆の心を和ませてくれていた。

その戯れ相手であるお姉さんが行っているのは、ラッコプール底部に沈んでいるホタテの殻の除去作業。
その低温水域に対する保温耐性を維持しなければならないが故、ラッコは自重の
約20〜30%の餌を一日に
消費する必要があるとされているが、なるほど。そのわりに大抵のラッコプールの底部がいつも綺麗なその理由は
こうした地道な努力の賜物だったというわけか。

水族館が持つ展示特性上、決してメインにはなりえぬ影の立て役者の仕事っぷりをさりげなく眺めて、
それを密かに労うもまた水族館の持てる「興」の一つではないかと思う。この事と彼女が持つ顔面造型美の
高水準値との関連性は特にない、…筈だ。


哀愁の磯コーナー



敷地のはしっこの方にさりげなく設置されていた「ふれあい水槽」は、この手のコーナーのお約束通り、閑散としておた。
「餌」の販売にガチャガチャ方式を採用している辺りとか、オモシロどころもある筈なのに、見向きもされないとは…
やはり入ってる魚に問題があるのだろうか? よくよく見ればありふれた駄魚ばっかだもんな。
そこそこ凡庸でなく、しかし決して危険であってはならないという縛りを考えはじめた途端、「ふれあい水槽」における
魚チョイスは急に難しくなる。
ちなみにこの手の水槽において人気を集めているのは、意外なことにエイ系だという事実は、案外知られていない。



上記の惨状に反比例して、こちらの「ふれあい水槽」は大盛況。
コイ科の魚「ガラ・ルファ」。そう「ドクターフィッシュ」の登場である。
37℃程度の高い水温でも生息出来る上、人間の古くなった角質を食べる習性があり、それによってアトピー性皮膚炎など
皮膚病の治療効果があるとされるため、今やあちこちの水族館で大人気。正直、ブームは既に過ぎ去り、使い古された感が
否めないところもあったのだが、まだまだその人気っぷりは健在なようである。
やっていることは、怪我をした部分にウジ虫を這わせて菌の入った部分のみを食わせていたゴルゴ13と同じだと思うのだが、
その対象が魚類だと、こうもソフトな光景になるものなのか。
ちなみに餌が豊富にある環境下なら人の角質を食べることはほとんどないそうで、その用途の為に餌の量を制限され、
生かさず殺さずな状態に置かれているのだしたら、それはそれで少々複雑な気分にならざるをえない。




でもってこちらが究極の「ふれあい水槽」、イルカさんと戯れようサービス。
敷地内の入り江に飼われているイルカさんと直接触れあえるというこのゴージャスなサービスの代価が、
下半身のみ防水仕様で¥2000、全身ウェットスーツ&シュノーケルのフル装備で¥8000円。
周囲にいる人間の好奇な目にもれなく晒されるという羞恥プレイを除けば、そこそこ妥当な値段と言えよう。


レッツ・ミー・エンターテイン・ユー

館内をほぼ見学し終ったところで、イルカショーの時間がやってきたので、いそいそと見物しにいく。



まずはショーの華であるイルカお姉さんの振るまいチェック。
最上級の好みはレアな緊張ガチガチ顔であるが、今回の健康優良度120%な笑顔もなかなかに悪くない。
ちなみにこの段階でイルカお兄さんが出てきた場合、我々クラスともなればその空気の読めなさ加減を嘆きつつ、
その場を後にすることもたまにある。イルカおじさんやイルカおじいさんが出てきた場合は、ショーの進行における
「熟練の味」を期待してむしろ喜ぶ。



伊豆の辺境も辺境にある水族館ということで、その技術的レベルに関してはあまり期待していなかったのだが、
隊列を組んでの連続ジャンプに後ろ尾びれをフル駆動しての水面サーフ、はたまた地上10メートルに設置された
ボールへの垂直ジャンプなど、この手のショーにおける基本的セットはもれなく網羅。更にそのどれもが高水準と
いうことで、その練度は大規模クラスの水族館と比べても決して見劣りするものではなかった。



イルカショーの真髄はその優れた技術にも増して、ショーの中に観客を巻き込むことによる一体感の演出にあると
感じてやまなかったりするのだが、そういう観点から捉えるなら、小学生の女の子が渡されたステッキを振る度に
イルカ達がクルクルと回るこの演出は、ハートフル度100%の最強にナイスな光景と言えよう。
わざとくたびれたお父さんをその対象にして、イルカにそっぽを向かせた上で、メインとなる女の子を呼び込む
「下げて上げる」演出があればより完璧だったのだが、そこまで期待するのは酷というものか。



※総評.

入り江に面した地形を最大限に利用した敷地形状の面白みもさることながら、
イルカショーにおけるきわめて完成度の高い演出構成もその魅力の一つであると思う。
入り江内に設置されたペアボート乗り場や、実際に海中に入ってイルカと直に遊べるコーナー
などの存在を鑑みるに、かなりファミリーやカップルよりのニーズに偏っている部分が
見受けられるので、正直「お一人様」には厳しい環境だが、そもそも水族館という施設自体が
その手の来訪者を想定していない故に、その点には目をつぶるしか。
あとはこじんまりとまとまった本館構成をバランス良しとみるか、規模が足りないと見るかで、
かなり評価は分かれると思う。

ファミリー ★★★☆☆ 割合半々くらい
カップル度 ★★☆☆☆ 純朴そうなつがいがチラホラと
わびさび ★★★★☆ 壁に飾ってある絵がかなりツボ
学術度 ★★☆☆☆ 普通
お得感 ★★☆☆☆ 若干高めか?
建物装飾 ★★☆☆☆ 特に際立ったものナシ
水槽装飾 ★★☆☆☆ ノーマル仕様
総合調和 ★★★☆☆ 広すぎず・小さすぎずのバランス感に優れる
憩い場所 ★★★☆☆ 入り江内で乗れるボート上とか
磯コーナー ★★★★☆ 多様な趣きを楽しめる
ペンギン度 ★★☆☆☆ キングとフンボルトを確認
レア度 ★★★☆☆ イルカとの触れあいプレイはかなりレア
総合 ★★★☆☆ あくまで私的観点と個人的意見から


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