紋別オホーツク・タワー

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※入館、そこに至る道.



生活環境の厳しさ的にはほぼ極限地帯といっても過言ではないオホーツク海沿いの漁師町「紋別」に
立地する施設であることも関係するのだろうか?埠頭の最先端に位置、メイン部分は海面下に水没という
構造自体が既に異彩を放っていた。

そしてそこに至るまでの道のりもまた並ではなかった。
建物の輪郭を既に確認しているにもかかわらず、そこからほぼ1キロ以上はあるんじゃないかと思われる
その一本道を呆然と眺め、溜め息一つついた後、口を真一文字に結んで鬼のような形相で歩き出す。
北風と波飛沫が相当の勢いで吹きつけられる中を懸命に歩く。半分ほど来たところで、いよいよその全体像が
くっきりと姿を現しはじめた。「悪の秘密結社」、それを近くで見た途端に抱いた最初の感想がそれだった。



そして入り口にて上記の貼り紙を見て更なる衝撃を受けることになった。
よりにもよって入館前に「水族館ではありませんから」と断言されきってしまうとは。
モチベーションの源そのものを根こそぎ持っていかれそうになり少々くじけかかるも、
大であれ小であれ特殊な装備を用いずに魚を鑑賞できる施設であるならばそれは水族館に他ならないという
自分定義を無理やり緊急確立させて、特に問題ないとそのまま入館に踏み切る。

そこで受け付けのお姉さんに「
本日は海が荒れている為、海底に砂が舞ってしまい、展望窓からの視界が
極めて悪いと思われまーす
」とのたまわれてしまい、再び微妙に凹むことに。
しかしまあ鑑賞にそれ程の影響はないだろう、そう軽く考えていた時がこのミーにもありました。


※日本建築の素晴らしさ



外見から一瞥しただけでも、その建築に相当の労力を費やしたであろうことが容易に想像できるこのタワー、
その建築技法の説明やスペック、そして目的などを示したパネルが、入り口付近に展示されていた。

その高さ、海底から43メートル。幅、23メートル。重量、4500トン。
海象観測用の機器として、風速計・温度計・氷海レーダー・流氷観測カメラ・温度分布観測カメラ、
海中観察用の機器として、水中観測カメラ・水中テレビロボット・水中マイクを標準装備し、
それらの機器から得た情報を中央メインフレームにて統合分析することにより、海氷環境の把握と変動予報
および生物生態の把握と水産資源の確保を行うことを目的としたこのタワーはもう要塞そのものといっても
過言ではないかもしれない。そりゃー「水族館ではありませんから」とか言っちゃえるわけであるハハハ…
ちなみに不詳このミー、わりと根にもつタイプであることをまったく否定しない。


※海底…そこに至る道



さて、このタワーのメインフロアである地下1階の「海底自然観測室」へ向かうことに。
が、なかなかエレベーターが来ないので地味に階段で行くことにした。
降り進むにつれ、増していく深度により壁の色を塗り分けている演出に、何故か若干の恐怖を覚える。
人の身にあっては通常は進入を許されぬ「海底」、プチ禁忌を侵しつつあるこの身の背徳を、
脳でなく体の細胞自体が畏れているのだろうか?


※野生の証明



ようやっとタワー最深部に到着、まずは周辺を見回してみる。
…と、妙に圧迫感をおぼえるドーナツ形状の狭っこい通路、その外殻のあちこちに穿たれた窓が、
映画で見た潜水艦内部を連想させ、平時とは明らかに異なる状況を前に、我が脳はいやがおうにもアドレナる。

だが興奮はそこまでだった。さっそく覗き窓にペタッとはりついてみたら……何も見えない。
ここで受け付けのお姉さんに言われたセリフがフィードバック。
「本日は海が荒れている為、海底に砂が舞ってしまい、展望窓からの視界が極めて悪いと思われますので…」
極めて悪いとかじゃない。何も見えない。

文句タラタラの不満オーラを全盛期のラオウばりに全身から立ち昇らせていたら、窓の傍に懐中電灯を発見。
よく見たらほとんどの窓に懐中電灯がデフォルトで設置されていた。
「?」と思いながら、とりあえず窓の外を照らしてみた。



すると、おお…!漆黒の闇の中から様々な魚たちが浮かび上がってきた。いやあ、これは面白い。
確かに砂は舞いまくり、水は濁りまくりで海中の視界はほとんどゼロに等しい状態だが、
それでもよくよく見れば激しい海流の流れに逆らいまくってクルクル流される猪武者の魚がいたり、
窓際にはりついて懸命に耐えているキレモノ系がいたりで、それなりに生態が観察出来てかなり楽しい。
しかし野生の魚達を海中内にて観察することがこれほど面白いとは…
これは新しい発見だった。海底コンディション最悪の状態でこれだけ面白いということは、
海流が静かな凪時ならどれだけ… と思うと少々悔しくもある。


※人間の証明.

館内には普通の鑑賞用水槽も設置されていた。目にとまった順にいくつか紹介してみよう。



土管の中に潜り込んでほとんど動かなかった左の奴は「フサギンポ」。
イソギンチャクからヤドカリ、ハゼまで何でも食べる節操のない生き物ゆえ、その徒名は「海の掃除屋」らしい。

で、右側は「ムロランギンポ」、僕に餌をおくれよと言わんばかりに水槽内を所狭しと泳ぎまわる
無邪気な様はそれなりにラヴリーだが確実にキモくもあった。こういうのもキモ可愛い系というのだろうか?



この施設内にある水槽の一つの特徴として、説明プレートの内容がユニークであることが挙げられよう。
人間の手が介入しているこの説明文こそ、窓の外に垣間見える野生の世界の面白さに対抗できうる一つの点でも
あると考える。その代表例を3点ほど紹介しよう。

左は狭い水槽内を回遊している「サケ」の子供達。
ここに書いてあるうんちくは「
サケは子供の頃はバーマークと呼ばれる斑点が体中にあるらしいが
それは大人になると消えてしまうよ
」だった。
要は「もうこはん」みたいなものか?ただ圧倒的な存在感をもってして底部に寂しく沈む敗者達の姿が、
そんな含蓄ある言葉を希薄なものにしてしまっている辺りに、殺伐シュールな風情を見たり。

右の「イシダイ」の説明プレート内容もなかなか面白かった。
ここにいるイシダイ、たてじま、よこじま、どっちでしょう?
バカにするな、縦に決まっているだろうと思いきや、実は横らしい。
生き物のしま模様の呼び方は、頭から尻尾にむかうのが縦しま、体を輪切りにするような模様が横しま
へェ〜〜〜 「
じゃあシマウマはどっち?」 知るか、うるせえ。



こちらは半分砂の中に潜っていた「カレイ」に対する説明文は
幼魚の頃は他の魚と同じで目は両側についていますが、成長とともに砂に潜る為に片側に移動していきます」だった。
仮に人間がそうであった時のことを考えると完全にイヤすぎる。
ちなみに砂の中から目だけを覗かせてるシーンを撮ったのが右の写真だがお分かり頂けるだろうか?



最後によい味のトボけ面していた「オオカミウオ」君を紹介しよう。
本当はもっと神々しくておどろおどろしい生き物の筈なので、ここの個体のラヴリーっぷりの方がむしろ異常とも言える。
ヒューマン的には普段見られない意外な一面からラヴに発展するケースはままあるそうだが、
コレに関してはちと無理っぽいかも。残念ながらアデュー、また会う日まで。


※理系の人々



タワー2階は「流氷観測室」なるコーナになっていて、謎の多い流氷の観測を行う為のレーダーや
温度湿度計測器、流氷ジオラマなどが所狭しと並べられていた。
こうしてじっくり見てみると流氷というのもなかなかに興味深い代物だ。

先程みかけたカップルの男の方も、ミーと同種の興味をそそられているらしく、周辺を至極熱心に鑑賞していた。
それに比べて女の方ときたら「早く行こうよ〜」「もう見たよ〜」と文句タラタラ、
あげく死ぬ程つまらなそうな面相しながら腹立ちまぎれにそこらのボタンを無闇やたらと連打しまくる始末。
そのアクションによりスピーカーから流れだす詳細説明など何一つ聞いちゃいないくせに、だ。
果たして女か趣味か。オタ的には即答可能だが、このケースを見るにつけ、常に素直であることが良策とは
限らないようだ。


※裏表ラバーズ



他には「オホーツクの妖精」「流氷の天使」との通り名をもつ「クリオネ」の生態を説明するコーナーがあった。
その小さく愛くるしいフォルムにて、ぴよぴよと海中を泳ぎ…いや飛び回る姿はまさしくキュート。
そりゃ「妖精」とか「天使」とか呼ばれちゃうわけだ。
そっかー、ごはんとかはどうやって食べるのかな?と説明を読み進めてみる。

その小さな体に似合わず、クリオネの餌の取り方にはたいへん迫力があります。
 クリオネは餌のリマキナに近づくと頭部を開き、普段は体内に納めている6本の触手をのばして
 リマキナを捕らえます。そして数十分程かけてリマキナの柔らかな部分だけを食べ、殻は捨ててしまいます。
 その補食の姿からは、天使や妖精のイメージはなく獰猛な感じさえします


あれ?そこはかとなく不安になってきた。
え、だって天使なんでしょ? そんなエンジェルさんの華麗なるお食事中のお姿がこちららしい。



うん、もう「Oh…」としかいいようがない。
そのラヴリーな外見はいわゆるハンターとしてのそれだったというわけだ。
ちなみに、このエサ捕獲の様子を収録した「クリオネの不思議」とかいうCD-ROM が売店にて¥1200で売っていた。
もちろん見つけた途端に購入、我ながら凄まじくいい買い物をしたと思う。


※退館、そこに至る道.



タワー入館時にひたすら歩いてきた埠頭ロードを、最上階の展望室から望む。
帰りもこの果てしない道のりを歩かなければならないことを考えると心底うんざりしてきた。
「なんでもないようなことが〜♪しあわせだったとおも〜う〜♪」
となりの兄ちゃんが口ずさむ歌はたぶん虎なんとかの「ロード」、ハマリすぎていて怖い。
ちなみに上記写真内にて、堤防の内側と外側とで波の荒さが如実に異なることがよくお分かりいただけるかと思う。
景観の風情を台無しにすることもある堤防だが、これを見る限り、自然という驚異的な力と共存していく為には
必要不可欠な設備であるということがよく分かる。



帰途につき始めてから5分、ふと後ろを振り返ってみた。うん、やはりどこから見ても異彩を放つ光景だ。
後で調べてみたら全国にはこのような海中展望形式のタワーが7つほど存在、そのどれもがここと同様、
「秘密基地」テイストを放っているらしいことを知り、俄然タワー征服意欲が涌いてくる。
参考までにその7つの施設を北から南順に挙げておこう。

 ■オホーツクタワー(北海道)
 ■かつうら海中公園(千葉県)
 ■白浜海中展望塔(和歌山県)
 ■串本海中公園(和歌山県)
 ■足摺海底館(高知県)
 ■唐津市玄海海中展望塔(佐賀県)
 ■ブセナ海中公園(沖縄県)


※本日の海獣賛歌



埠頭入り口にて「ゴマちゃんランド」なる施設を発見したのですかさず入ってみる。
国内唯一のアザラシ保護センターとしての自然保護的な側面と、アザラシとの触れあいの提供という
エンタとしての側面をあわせもつ、なかなかに意義高い施設らしい。

中央プールにてのんびりとくつろぐ「アザラシ」さんの姿を見ているだけでも心が和んでいくのが分かる。
北の大地と漁師町の哀愁、そしてアザラシさん。この取り合わせの無敵感たるや、おそらくヤン・ウェンリーも敵うまい。
この時点でミーはこの「紋別」という漁師町がすっかり好きになってしまった。

その無敵ぶりはアザラシさんだけに留まらない。
写真は海獣コーナーに付きものの「飼育お姉さんと戯れるアザラシ君の図」だが、
このお姉さん、小さくて素早くて可愛いという小動物3原則を満たしているうえに、
エサをやるときのかけ声がなんと「ハオっ!」なのだ。
え、ライム?「セイバーマリオネットJ」のライムすか?その瞬間たしかにミーのソウルは鷲掴まれた。
己の中に生じるお姉さんへのダイブ衝動を懸命に抑えつつ、そのまま餌やりを見守り続ける。
和みの中にある破滅、常に水族館は危険と隣り合わせだ。



※総合.

純粋な水族館とはいいがたいが「細かいことはいーんだよ」と即答したくなるほどの高揚感を
味わせてくれるこの施設の存在意義は極めて高いと言える。
自然、海底、観測、これら3つのキーワードから導きだされた回答がこれか、もはや手放しで誉めざるを得ない。
「海中探検」「流氷の下で会いましょう」などのキャッチ・フレーズをそのままコンセプトとして使用し、
そのテーマをタワー全体においてきっちりと統一化させているところが成功の要因だろう。
おしむらくはその感動の度合いが天候によって左右されやすいことだが、最悪コンディションでもこれだけ
楽しめるのだから、足りない部分は本人の想像力で補うものと解釈する。

ファミリー ★★☆☆☆ 場所がマイナーすぎて人自体少ない
カップル度 ★★☆☆☆ 地元カップルがポツポツ
わびさび ★★☆☆☆ 土地柄の背景がカバー
学術度 ★★★☆☆ プレート説明はかなり面白い
お得感 ★★★☆☆ 天候によるディスカウントは良心的
建物装飾 ★★★★☆ 水族館の域を完全に超越
水槽装飾 ★★☆☆☆ 繊細さ、あり
総合調和 ★★★★☆ 「流氷」に対する統一感は歪みない
憩い場所 ★★★☆☆ 展望ラウンジにあり
磯コーナー
ペンギン度 ★★★☆☆ 関連施設にて楽しめる
レア度 ☆☆☆☆☆ すべては運次第、ゆえに評価基準外
総合 ★★★★☆ あくまで私的観点と個人的意見から


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