妹よ(逆襲編)


昨日はサカイ家の新年会でした。じいちゃン婆ちゃンを始め、親戚一同が実家に集結するのです。
親戚のガキ共に金をバラまくだけが存在価値のボクとしては、すげえ行きたくありませンでしたが
1年に一回ぐらいは、こういう腐れイベントに付き合ってあげないと、ただでさえないも同然の家族
の絆が完全に断ち切れてしまいます。いっそブッタぎったれや!とかいつも思うのですが、そこは僕
も人の子…じゃなくて一寸の虫にも五分の魂です。なンか微妙に言葉の使い方を間違ってるような気
もしますが、そンなことマジでどうでもいいくらいのローテンションで、肩を丸めトボトボ、首吊り台
に向かう死刑囚のような足取りで、我が家へ向かいました。


「やあ、よく来たねサッチャン!」

ニコニコした笑顔で迎えてくれる親戚のおじさん達。
ここはオレの実家だよく来たねじゃねえバーカ、とか口走りそうになるのを必死にこらえながら、
いやあひさしぶりっスねえイヤッハハハ!と、素の精神状態なら耐えられそうもないテンションで、
口先だけの笑顔をニコニコとそこら中にふりまきます。早くも死にたい気分にかられました。

そして意味もなくボクの周りをまとわりついてくるガキ共達。
「お兄ちゃん、あけましておめでとう!」 
日本の明日を担う純真かつ純朴な少年少女達のキラキラと光る瞳の奥の中に、
お金お金おカネをおよこし早くおよこしドオタクがァという真意以外のなにものも発見することは
できませンでした。そしてもらうものをもらった瞬間、彼等はあっという間にフェードアウトしていき、
そして二度とボクの半径1メートル以内に近付くことはなかったので、ボクはますます死にたい気分に
なりました。

マジで帰りたくて帰りたくてしょうがない気分にかられていたところ、ようやく妹参上。
親戚の前で、おしゃまさん&猫カブリ・モードに入っている妹を見て早速ツバを吐きかけたい気分に
かられましたが、そこはボクも大人です。

「お兄ちゃん、あけおめ〜 ことしもよろしく〜」
「イヤッハハハ!あけましておめでとう!イヤッハハハ!」

どんな三流ドラマでも滅多にお目にかかれないような、まったく心がこもっていないやりとりが
たんたんとかわされます。

「あ、お兄ちゃんちょっと話しがあるの、こっち来てっ」
「お… おいおい、なんだい、そんなに引っ張るなよイヤッハハハ」

何故か洗面所に連れていかれるボク。

「さ、ここなら兄弟水いらず本音で話しができるわ。お兄ちゃん本当に今日はありがとう!」
「えっ?いやオレ今日は別になにもしてないけど?」
これからすんだよボケが。とっとと出すもんだせや、なあ」

地獄とはまさにこの事です。

「……(くしゃくしゃになった5千円札を取り出して)……はいコレ」

刹那、首の後ろをつかまれ、そのまま前に引き倒されました。

「あぎっ!あぎっ!あぎっ!」

出ました、妹の必殺技チャランボ地獄です。首の後ろをホールドされたまま、鬼のような膝攻撃を
ひたすらストマックにたたきこまれる、というボク直伝の妹の必殺技です。

「そじゃねえ。そじゃねえンだ兄ちゃン」
「………あ、ぎ、ィ」
「まだ出産祝い貰ってねえだろ。そンでもって出産祝い親族は最低2万だべ?あ?」

いつからコイツとボクの立場はこンなにも逆転したのでしょうか?
あの日々が懐かしいのです。
妹のコンプレックスの一つである広いオデコをまくりあげて「おでこを出して〜やらンかよっ!
って叫びながら、思いっきり平手打ちをオデコに叩きこンだあの日々が懐かしいのです。

「後で私から生まれた天使のような女の子をみせてやるからよヒヒヒ。はやく出すもん出せやゴルラァ!」

もはやその珠のような女の子が人生最初にくわえる肉棒を我がモノにするしかあるまい…
などと鬼畜のような復讐を思い浮かべながら、ボクはしぶしぶ2万円を彼女に手渡しました。


居間では、盛り上がってるンだかむりやり盛り上げようとしてるンだか、方向性がまったく見えない
宴会がたんたんと行われていました。
そして、よほど話題が煮詰まっていたンでしょう。ほとンど顔も知らねえオッサンがボクの手を掴んで
むりやり隣に座らせました。

「それでさあ。そろそろ……どうなの?彼女とかさあ」

出ました。お正月イベントお約束の非モテなぶり攻撃です。

「イヤッハハハ、いやあモテないもんで。イヤッハハハ」
「いやいやいやいや、そうじゃないンだよ。もっと自分に自信をもたないと」
「そうだなあ、しかもサッチャン、最近太り気味だしなあ」
「もっと運動しないと。何かスポーツはやっているのかい」
「趣味はなんだい?何か趣味の場で新しい出合いを見つけるといいンじゃないかなあ」

趣味は昆虫研究です!もちろん対象は自分です
あと鬼畜SMゲー・プレイと縛りまくりのプレイが大好きです! 
で、あれか?出会いの場ってのはねるとんパーティか?
そこで貞淑可憐なマゾっ娘を見つけろってか?既に参加したこと
あるよバカヤロウ
おっと危ない危ない、あやうく本音で逆ギレするところをなんとかこらえました。
もちろん何をいわれてもナイスな虫スマイルで「イヤッハハハ!」

いやあ、もうすげえ楽しいです。
自らがモテない要因を、年に2回ぐらいしかツラ合わせないような赤の他人が、次から次へと語ってくれる
というありがたすぎるイベント。たぶん人生の中で今が一番楽しいですゼッタイ間違いありません。

「そろそろ相手を見つけないとなあ… 駄目人間になってしまうからなあ…」

やかましいわ
駄目人間ってのは可能性があるのにまったくやる気を出さず生きながらにして腐ってる連中の事を言うンだよ。
全力でやっても駄目な連中のことは虫って言うンだ、よく覚えとけバカたれが。

全然フォローになってないうえに、自らを鬱にさせる以外の何物でもない魂の叫びが頭の中をぐるぐると
かけめぐったところで、ようやくボクは解放されました。


もはやゾンビのような表情を顔を張りつけたまま、ヨタヨタとしながら帰ろうとするボクを妹が呼び止めました。

「なんデスカー もはや鼻血もデマセンヨー」
「そ、そうじゃなくてさあ、あの、その… 今度私の友達紹介してあげるからさ。元気だしなよ、ねっ」
「お。お前…」

やはり兄弟です。そして血のつながりは偉大です。なんともいえない和らいだ雰囲気が二人を包みました。

「あ〜でもなあ、私の友達は、私がアニキの駄目っぷりををネタにしすぎたしなあ…
 大丈夫っ!目黒寄生虫館に行くのと同じくらい楽しいって言っとくから☆…ってアニキ?アニキ?」

・・・・・・・

「え、えと、お…おにいさま?」

・・・・・・・・・・・・・






いやあ、ひさびさに泣かしてやりましたわ。
マウントとって「オデコを出してやらンかよ」鬼のごとく連弾。
びいいええええええ〜だってさギャハハハハハ! あ〜すげえ気分いいわー


#ちなみに来年で31になります。


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