川村渇真の「知性の泉」

仕事全体のマネジメント


仕事の全体像を把握できるような形で進める

 部門やチームを率いる管理者は、ある程度の大きな仕事を任され、与えられた(場合によっては自分が提案した)目標を達成しようとする。しかし、ただ漠然と仕事について考えていたのでは、運が良くないと目標を達成できない。そうではなく、仕事全体をより細かく分解して、何がどうなっているのか把握できる形にすることが大切だ。
 把握するためには、どんな作業があるか明確にしなければならない。また、作業ごとにどんな能力が求められ、どれだけの工数が必要で、どんな作成物を残すかも明らかにする。さらに、どの作業が難しくて、どの程度の不確定要素があるかも調べる。
 作業の漏れを減らすには、仕事の最終的な目的を規定し、それを実現するための大まかな方法を選び、それに沿って作業項目を洗い出す必要がある。加えて、作業を実施する段階では、予定どおり終わったか確認し、遅れている場合には何らかの対処を実施する。以上のことを実施すれば、仕事の全体像が把握できる状態となる。
 全体を把握しながら仕事を進めるためには、それに適した手順を用いなければならない。プロジェクト管理の手法を上手に適用して、把握できる形に仕事を分解することが大切だ。上記の内容に沿わせると、具体的な作業手順は以下のようになる。

仕事全体が把握できる形の、大まかな作業手順
1. 仕事の最終的な目標を明確に規定する
2. 仕事を成功させるための大まかな方法を選ぶ
3. 大まかな方法から具体的な作業を洗い出す
4. 作業ごとに、重要度、作成物、必要スキル、工数を明確化
5. 重要な作業にはレビュー作業を追加する
6. 作業の順番を決め、個々の予定完了日と担当者を設定する
7. 実際に作業し、予定完了日に終わったかを報告させる
8. 大きく遅れている作業に対しては、対策を実施する
9. 仕事の終了後、次回のために結果を評価する

 見て分かるように、特定の分野に依存しない内容で、どんな仕事にでも適用できる。この手順のより詳しい内容を、順番に説明しよう。

最終的な目標を最初に規定する

 まず最初は、その仕事の最終的な目標を明確に規定する。どんな仕事にも目的があるので、それに適した目標を考えてみる。目標に含まれるのは、大きく分けて3つある。達成すべき内容の中身、設計書などの書類やサンプルといった作成物、仕事が終わる期日だ。目標というのは、可能な限り具体的でなければならないので、3つの要素とも明確に表現する。
 達成すべき内容には、製品の開発なら性能やコストなどが含まれる。場合によっては、顧客満足度のように、後から調べて判明する項目も加わる。何かの販売では、契約件数、販売総額、史上シェア、利益率などが含まれる。前年同期を基準とした比率で示すこともある。このように具体的な値を目標とすることで、いい加減な仕事ができにくくなる。
 最終的な作成物は、種類と形式を明らかにする。書類であれば、どんな形式で何という書類を作るのかを決める。製品のサンプルであれば、どのレベル(試作か量産試作か量産かなど)のものを何個用意するとかだ。必要なものを全部明らかにしておくと、作り忘れることはない。その中でも、書類は非常に大切である。設計であれば、頭の中で設計ができた時点が終わりではなく、別な人が理解できる設計書として記述し、レビューを合格した時点で終わりとなる。販売では、正式な契約書を交わしたものだけを契約したと認めるなら、契約書を必須の作成物と規定する。
 3番目の期日は、最終完了日であり、すべての作成物が出来上がる時点の日付を規定する。そして、そのことをメンバーにきちんと伝えておく。日付が明確になると、それから逆算して細かな作業の日程が求められる。
 最終的な目標が規定できたら、それを達成するための最良の方法を考える。この段階では、大まかな方法で構わない。難しい仕事でない限り、方法は求められるはずだ。難しくて簡単に求められない場合は、それを求めるための作業を独立した仕事して扱い、この手法を適用して作業を進めるとよい。

必要な工程を洗い出し、各工程の作成物を明確化する

 大まかな方法が決まったら、具体的な作業内容を洗い出す。どの程度まで細かく洗い出すかは、仕事全体の規模と管理したい細かさで決まる。一般的には、1つの作業が10〜20時間程度になるように作業を分ける。ただし、全体で1ヶ月というように期間の短い仕事では、もっと細かく分けたほうが、遅れやトラブルを発見しやすい。実際には、細かく分けにくい作業もあるので、作業ごとの時間はばらつくのが普通だ。
 洗い出した作業ごとに、作業の内容、書類やサンプルなどの作成物、平均的な作業時間などを求める。具体的には、以下の項目を明らかにする。

作業ごとに明らかにすべき項目
・重要度:失敗したり遅れると困る度合い
・作業内容:作業の中身を簡単に説明
・作成物:作業で作るべき書類やサンプル
・作業時間:作業に必要な平均的な時間(後で補正)
・必要なスキル:作業するのに必要な技術や能力
・不安要素:作業で心配される点
・担当者:作業する人(後で決める)
・完了予定日:作業を終えるべき日付(後で決める)

 重要度は、好きな方法で区分けして構わない。もっとも簡単なのが3段階評価で、最重要、重要、普通に分ける。このうち最重要と重要にだけ印を付け、重点的に管理する。
 不安要素に関しては、少しでも不安を感じる点を記述しておく。作業を進めているうちに、不安要素が出てくる場合もある。大きな不安については、早目に対処方法を検討して、不安を取り除かなければならない。
 作成物を明らかにすることは、非常に大切である。何かを検討するだけの作業でも、メモ程度の書き方で十分なので、検討結果を書類として残し、別な人が理解できる形にしておく。上司であるリーダーに報告する際には、こうした作成物も一緒に提出してもらう。なお、メモ程度でも書類作成に余計な時間を取られないよう、代表的な作成物は記述サンプルを用意しておきたい。そして、書きながら考える癖を付けさせる。
 重要な作業に関しては、レビューも独立した作業として加える。レビュー作業については、作業時間、担当者、完了予定日だけを決めればよい。
 以上のように作業を洗い出すと、やるべき作業が明らかになるだけでなく、やらなくても構わない作業も同時に明らかになる。含まれてない作業は、基本的にやらない作業と判断される。その意味で、必要な作業を全部含めなければならない。

作業ごとに担当者を割り当て、時間が均等になるまで調整する

 作業が細かく洗い出せたら、具体的な日程と担当者を決める。まずは日程で、作業を進行順に並べてから、最終完了日までの間で均等に割り振る。もし全体で時間が足りないようだったら、その時点で大問題である。最終完了日を遅らすとか、メンバーを追加するとか、必要な対処を早めに実施しなければならない。
 次に、すべての作業で担当者を割り当てる。特別なスキルが必要な作業を最初に決め、残りの作業に余っている人を回す。こうして、特定の人に集中しないように配慮する。
 担当者が決まったら、作業時間を補正する。個々の作業ごとに、係数をかけて実際の時間に変換する。新人なら、すべての作業が長くなるはずだ。新人でなくても、初めての作業なら時間を増やしたほうがよい。逆に慣れている作業は、時間を少し減らしても構わない。他に忘れてならないのは、新人の教育担当が教育に割く時間など、仕事に関わりながら自分の仕事ができない時間だ。これも作業に加え、その分を配慮できるようにする。
 作業時間を補正した後で、各人の作業時間の合計を計算してみる。特定の人に作業が集中していないか、特定の時期だけ勤務時間を超えていないかとか、矛盾点を見付ける。もし見付かったら担当者を変更し、再び計算してみる。このような変更を、矛盾がなくなるまで繰り返す。
 以上のような作業は、全部を手で行うと非常に大変だ。計算間違いなどないように、プロジェクト管理ソフトを用いて、正確に把握できるようにしたい。
 日程計画で注意しなければならないのは、一般的な企業では、仕事以外にも時間が取られる点だ。勤務時間の全部を仕事に使えるわけではないため、8割とか9割を仕事に割り当てる。実際にどの程度なのか、測定してみると面白いだろう。

実施時には定期的な報告を必須に

 作業日程と担当者が決まれば、それに沿って各メンバーに作業してもらう。作業の洗い出しが適切であれば、日程の遅れは別として、計画に沿って進むはずだ。
 日程どおり作業が進んでいるかどうかは、メンバーから週報などの形で報告してもらう。この報告は必須で、遅れやトラブルを見付ける基礎となるため、絶対に守らせなければならない。報告の際には、終わった工程の作成物も一緒に提出させる。それが終わった証拠となるからだ。逆に終わったのに提出しない場合は、ウソを報告している可能性もある。きちんと調べて、提出させるようにする。
 日程よりも遅れたり、予定した時間よりも多くかかった作業は、トラブルが発生した信号かもしれないので、原因を詳しく調べる。担当者本人に尋ねて、本当の状況を話してもらうのが基本だ。最初の見積もりが甘かった場合もあるし、担当者の能力が低い場合もある。後者の場合には、誰かが手助けをするか、別な人に代わってもらうしかない。このように、トラブルが大きくなる前に適切な対処を実施することで、仕事が成功する可能性を高められる。
 このような報告は、細かく管理するための方法と思う人もいるかも知れないが、全く逆である。日程どおりに作業していれば、後は担当者が自由やれる。きちんと報告して作成物を渡すことで、上司から干渉される可能性を低くできる。上司のほうも、そのように振る舞うべきであり、きちんと報告することと、決められた成果を上げることに重点を置く。
 仕事が全部終わったら、悪かった点を中心に全体を評価してみる。メンバーの全員が参加し、率直に意見を述べ合う。誰かを責めるのが目的ではなく、次回への改善点を得るのが目的だ。それを理解して参加し、もっと良い方法はなかったか考えてもらう。そこで得られた改善案は書類に整理して残し、次回以降の仕事に生かす。このような姿勢で臨むと、仕事の質は段階的に向上するはずだ。

 どんな仕事でも、仕事全体を把握できるからこそ、仕事の内容や達成度を冷静に分析および評価できる。そして、分析や評価がきちんとできなければ、次への改良にはつながらない。そのための道具が、ここで紹介した方法なのである。
 管理者にとっては、仕事の全体像が把握できると、安心感が得られる。問題点の解消など、仕事の本質的な部分に集中でき、より良い成果に近づける。仕事の質を上げるためには、無駄なことに時間を割かれない点も重要だ。

(2000年2月13日)


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