川村渇真の「知性の泉」

部門やチームのマネジメント


外的要因を総合的に考慮しながら、部門の方針を決める

 部門やチームをマネジメントする場合は、部門の運営方針を最初に決めなければならない。その場合、好きに決定できるケースは非常にまれで、いくつもの外的要因に大きな影響を受ける。
 代表的な要因を挙げてみよう。部門やチームが何かの組織に属していれば、その組織の方針や目標に沿って、活動しなければならない。また、他の部門と協調しながら作業する必要もある。さらには、外部の取引先に仕事を依頼しているなら、そことの調整も求められる。
 これらの外的要因のうち、もっとも大きいのが組織の上層部の方針だ。組織に属する以上、上層部の意思決定に沿う形で、自分の部門やチームの方針も決めなければならない。組織全体の戦略の中で、自分の部門が持つ役割を導き出し、その役割を達成できるような内容に、部門の目標を定める。その目標から活動計画を導き出せば、組織の方針に沿った活動ができ、十分な成果を上げやすい。
 他の部門や外注先との関係でも、組織の方針に沿った形で役割を分担する。自分の部門だけで勝手に決められないので、早い段階での協議が必要だ。このような協議を開くと、組織の方針への理解が深まったり、各部門の責任や日程が明確になる。当たり前のことだが、決定内容を資料として残し、全体のプロジェクト管理の材料としても利用する。

上層部や関連部門が悪い場合は、深く考えた運営が必要に

 上層部や関連部門の責任者が、常に優秀とは限らない。それどころか、悪い場合が意外に多い。自分の経験でも(今まで10以上の組織と関わりを持ったが)、優秀な上層部や部門長に巡り会ったことは、非常にまれだった。最大の原因は、経営者を含む多くの管理職がマネジメント技術を習得していないためで、こんな状況になって当然といえる。
 仕方なくだが、自分が部門の責任者として余計な損をしないためにも、上手な対応が求められる。上層部や関係部門の失敗の影響を大きく受けないように、自分の部門を適切に運営しなければならない。この点は、重要な取引先との関係でも同じだ。
 具体的には、どのようなリスクがあるのか最初に洗い出し、可能な限り早目に手を打っておく。また、事前に役割や日程を明確にして、ある程度のプレッシャーを与える。プレッシャーがあると、きちんと実行する可能性があるからだ。重要な作業を担当する他部門の質が悪いときは、外部の手助けを用意するとか、早い段階で手当しなければならない。
 最悪なのは、上層部の質が相当に悪い場合である。組織の方針自体が明らかにダメなら、それに従う価値はない。しかし、露骨に別な行動を取ったのでは、気分を害して怒り出し、自分や部下が大きな被害を受ける。優秀でない上層部ほど、とんでもない行動も平気で行うからだ。
 このような状況では、かなり慎重に行動することが大切である。上層部の方針に従っていると見せながら、大切な点だけは確保して部門を運営する。しかし、成果を上げても認められる可能性が低いため、長期的には別な対処を実施するしかない。クーデターのような改革を実施するとか、組織を飛び出すかのどちらかであろう。
 このように、上層部や関連組織の質も評価し、その結果に応じた活動内容を変えないと、部門の適切な運営は難しい。自分だけでなく部下が悲惨な状況に陥らないためにも、深く検討した対処が求められる。

部下が働きやすい環境を作るのも重要な役割

 部門やチームを中心にして考えた場合、部下が働きやすい環境を整えるのも、責任者の大きな役割である。重要なのは、仕事以外の余計な負荷を可能な限り減らすことと、場所や道具といった環境面を整備すること、部下の能力の向上を手助けすることなどだ。
 このうち、仕事以外の余計な負荷を減らすことが、意外に重要といえる。部門の外部からいろいろな要望が来たり、仕事とは関係のない事務処理が生じたりする。こういった外部要因は、上司の力で減らすように務める。内部要因としては、無駄な会議や報告などがある。これも効率よく運営できるルールを作って改善する。内部要因に関しては、自分が責任者なので対処が容易なはずだ。
 環境面の整備では、何が必要かを事前に調べて、不足している要素を早目に整える。手配に時間のかかるものもあるので、間に合わない状況が発生しないためにも、部下を上手に使いながら、素早く調査することが大切だ。部下に目的まで説明して一緒に活動すると、効率よく調べられる。調達に関しては基本的に上司の仕事だが、必要な資料作りなどは部下に手伝ってもらえる。
 部下が抱える仕事上の面倒な問題も、上司が手助けして解決できれば、より働きやすくなる。そんな問題の代表格は、上層部や他部門長と部下のやり取りだ。質の低い役職者は、自分の地位を利用して、特定の部下を好きに動かそうとする。組織内の地位に差があるため、上司の手助けがなければ、なかなか解決できない。こういった問題の存在を早めに報告させ、小さな段階で手を打つことも、上司としての重要な仕事である。
 実は、この種の問題が一番難しい。上層部に何も言えない上司だと、言われるがままになってしまい、部下が大きな被害を受ける。こうした問題をどのように解決できるかで、管理職としての本当の能力が分かる。絶対に成功する方法はないが、最善と思われる方法を見付けて努力するのが、優秀な管理職の行動だ。
 これらの点をきちんと実行すれば、部下からの高い信頼を得て、気持ちよく働いてもらえる。結果として、部門全体での能力が高まり、仕事の成功確率も向上する。その意味で、非常に大切な仕事といえる。

部門やチームとしてノウハウを蓄積する

 たいていの部門は、継続して業務を行うはずだ。だからこそ、段々と仕事の質が向上するように、部門としてノウハウを蓄積することは、かなり役立つ。ノウハウがキチンと蓄積できれば、構成メンバーが入れ替わっても、仕事の質を維持しやすい。逆に言うなら、そのような形でノウハウを蓄積するべきである。
 チームとして仕事をする場合でも、ノウハウの蓄積は大切だ。たとえチームが解散すると分かっていても、別なチームで利用できるように、ノウハウを保存したほうがよい。とくにチームが何かの組織に属する場合には、部門での蓄積と同じ効果が得られる。組織の属さないチームでも、チームのメンバーにはノウハウが残り、能力の向上に役立つ。
 ノウハウの蓄積には、たいてい余計な手間がかかる。それを最小限に押さえるため、本当に重要なノウハウだけに絞るとともに、できるだけ簡単に作れるようにしたい。また、保存の仕方を事前に決めておき、迷わずに作成できる環境を整える。
 こうして蓄積したノウハウは、実際に利用した結果を見て、定期的に見直そう。ノウハウがあまり役立たないなら、蓄積するのを止めるか、別な形での蓄積方法に変える。役に立たないのに、無理して蓄積する必要はない。本当に役立つ内容だけ蓄積するのが、基本中の基本である。そのためにも、誰が使うのか、どんなときに役立つのか、どんな情報なら役立つのかを、事前に検討しなければならない。
 ノウハウ蓄積の実施は、部下の意識改革としての役割もある。汎用的な方法に仕上げたり、別な人でもできる形で説明する行為は、作業内容の客観的な観察や、考える癖を付けることにつながる。そういった意識を持たせ続ければ、自分から積極的に工夫を考えるように変わる。

 以上が、部下やチームのマネジメントに含まれる主な内容だ。仕事全体のマネジメントには触れなかったので、上層部や他部門との関係が中心となった。大変なのは、上層部や他部門に問題があるときで、かなり上手な対処が求められる。その必要性が多そうな日本の状況こそ、もっとも悲しい点だろう。
 なお、仕事全体のマネジメントに関しては、別なページで扱っているので、そちらを参照してほしい。その両方を身に付けられれば、自分の部門を適切に運営できる可能性が高まる。

(2000年8月20日)


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