川村渇真の「知性の泉」

部下の仕事は要点だけを管理する


部下の能力によって与える仕事の難易度を変える

 部下を持つ上司は、仕事の一部を部下に任せるとともに、部下の仕事の状況を把握しなければならない。仕事を失敗させないために、最低限の管理は必要となる。では、どんな点に注意して管理したらよいのだろうか。この問題だが、実は非常に難しい。部下によって管理方法を変えなければならないからだ。
 部下が優秀であれば、細かな点まで指示されたり、具体的な実施方法に口を出されるのを嫌う。仕事に関する条件だけを上司は示し、他の部分は部下に任せるのが基本だ。こうしたほうが良い成果を期待できる。逆に部下の能力が低いと、何から何まで指示しなければならないし、きちんと終わったかも細かく確認する。上司として管理しているのではなく、教師として教えている状態に近い。
 実際には、部下の能力によって与える仕事の難易度を変える。優秀な部下には難しい仕事を、そうでない部下には簡単な仕事を与えるのが普通であろう。そうしたほうが、チーム全体としての仕事の質や効率が向上するし、上司の負担も減るからだ。
 このような状況だと、部下の仕事の管理といっても、1つの方法で対応できるはずがない。ここでは、ある程度の仕事ができる部下を対象とした、上手な管理方法を紹介しよう。なお、紹介する方法を成功させるためには、上司の側もそこそこの優秀さを求められる。

仕事に関する条件を最初に示す

 信頼できる部下に仕事を任せる際は、その仕事で満たすべき条件を明示し、具体的な実施方法を部下に決めさせるのが基本だ。部下に伝える仕事の条件には、以下のような項目が含まれる。

部下に任せる仕事で明示すべき点
・仕事の目的:本来の目的だけでなく、期待する効果も含めて
・最終的な成果の中身
  ・成果の形態:企画書、設計図、販売などの契約、製作物など
  ・成果に求める条件:性能、機能、コスト、販売額などを具体的に
  ・成果の評価方法:成果を評価する具体的な方法
・日程:最終完成日だけでなく、中間報告やレビューも含む
・仕事を進めるうえでの制限:実施方法、使用する資源、費用など

 以上のような内容を部下に伝え、まず最初に、その仕事を部下ができそうかどうかを尋ねる。もし可能だと分かったら、関連する資料などを一緒に渡す。少し時間を与えて、どのような方法で実施または実現するかを部下に考えさせる。
 実施方法を部下に決めさせるとしても、それが適切な判断かどうか、上司が評価しなければならない。もし部下がダメな方法を選択して実施し、後で上司が気付いたなら、その間の時間が無駄になるからだ。そんな結果にならないように、部下の考えた実施方法を説明させ、上司が評価して最終的に決定する。

仕事の実施または実現方法を検討する際のポイント
・本当に実現可能かどうか
・他の方法と比べて、最適な方法といえるか
・部下の能力でやれるか
・部下だけで無理なら、どのようにして可能にできるか

 問題となるのは、部下と上司の意見が違った場合だ。通常は上司の意見を通すが、非常に優秀な部下の場合には、部下のほうが正しいこともあり得る。もし可能なら、部下が主張する方法を簡単な仕事で試し、その結果を見て決めるのが望ましい。
 実施方法が決まったら、それに従って具体的な日程を作る。どんな作業があって、どの順番で実施し、それぞれの終了日を設定する。ここでは、具体的な作業を洗い出す点が重要だ。予想外のトラブルも発生するので、ある程度の余裕を持たせた日程を作ったほうがよい。この種の日程を部下が作れないなら、上司が手伝って日程を作成する。この日程が上司と部下の約束であり、管理の基礎となる。

管理に必要な情報を定期的に報告させる

 仕事の実施方法と日程が決まったら、部下に任せて自由に進めさせる。あとは、仕事の状況を報告させる形で、部下の仕事を管理するだけだ。
 部下の報告は、定期と随時の2種類を規定する。定期報告は、毎週金曜日という具合に、周期と期日を定める。長いプロジェクトだと周期は1週間だが、仕事によっては週2回とか毎日にする。随時報告は、深刻なトラブルが発生したときなど、定期報告よりも細かく管理したい場合に出させる。
 定期報告で記述する内容は、最初に規定したほうがよい。項目と書式の両方を定めて、悩まずに書けるように配慮する。報告書を書くのが主な仕事ではないので、トラブル以外は要点だけ書けば済むようにする。定期報告には、以下のような内容を含める。

部下からの定期報告に含めるべき内容
・仕事の進み具合:日程で定めた作業ごとに(毎回報告)
  ・必須の項目:作業の内容、日程、実際の進み具合
  ・遅れた場合の項目:遅れた理由、遅れへの対処方法
・得られた成果(必要なときに報告)
  ・必須の項目:成果の概略、実現した機能、達成した数値など
  ・任意の項目:成果の質の自己評価、さらなる改良の余地など
・トラブルの状況(必要なときに報告)
  ・基本の項目:トラブルの大きさ、重要度、トラブルの詳しい内容など
  ・解決に関する項目:緊急度、解決方法、必要な資源、難易度など
  ・影響に関する項目:影響を受ける範囲、日程への影響など
・その他、気付いた点や疑問点などを自由形式で(あれば記述)

 こんな書式を採用するのは、きちんと報告させるためである。仕事の進み具合では、「問題なし」のような一言報告ではダメだ。どの作業が終わったのか、決められた日程と比べて遅れていないのかなど、具体的な状況を明らかにして、進み具合を把握できるようにしてある。遅れていない限り、作業の細かな内容は報告しなくてよい。具体的な作業を洗い出して日程を作ったからこそ、最小限の報告で済ませられる。ただし、成果物の概要だけは報告しなければならず、成果物の種類ごとにどの点まで報告するのかを、事前に決めておくのが望ましい。
 報告書の書式を決めたら、その形式でテンプレートのテキストを用意する。そうすれば、無駄な入力も減るし、書式を統一できて読みやすい。わざわざテキストを選ぶのは、電子メールでも簡単に送れるからだ。テキストで不十分な場合だけ、画像などのファイルを添付する。
 このような報告を書き慣れていない部下だと、書くのに時間がかかってしまう。それは無駄な時間なので、最初のうちは目の前で書かせて練習させる。また、記述した例を何点か用意して、真似させるのも効果がある。いろいろな方法で、時間をかけずに書くことが大切だと部下に理解させ、できるようになってもらおう。
 任意報告の書式も、トラブル報告などでは書式を決めたほうがよい。書くのが容易になるし、上手に報告できるからだ。当たり前のことだが、トラブル解決に緊急を要する場合には、報告でなく直接会って打ち合わせる。このような形で報告するのは、軽いトラブルとか、解決のメドが立ったトラブルである。

必要に応じ、部下との直接会話で状況を把握する

 重大なトラブル発生以外でも、詳しい話を部下から直接聞くことがある。何もかも尋ねると仕事を邪魔することになるので、重要な箇所だけを話してもらう。
 重要な箇所に該当するのは、成果物に関する内容だ。きちんと設計できているかとか、製作が順調に進んでいるかとか、どのように販売しているかとか、具体的な内容を尋ねたり、成果物の途中経過を見せてもらったりする。これらは、報告書では確認しづらい内容で、仕事が成功していると確証が得るために調べる。また、気付きにくいトラブルの発見にも役立つ。
 成果物の確認としてレビューを実施するが、それまでの期間が長い場合には、途中経過を見せることを日程に組み込んだほうがよい。ただ見るだけでも中間レビューという形式でも構わない。日程に入れると、部下も意識して仕事し、途中で見るのに値する状況を作れる。
 日程以外で上司が見に行くのは構わないが、あまり頻度が多いと部下の邪魔になる。さらに、余計な干渉と受け取られ、仕事を任せたように感じない場合もある。本当に必要とき以外は、見ないで自由にやらせるべきだ。
 新しく部下になった人に限っては、本人の実力が分からないので、少し多めに見せてもらうのは仕方がない。その場合でも、多めに見せてもらう理由をきちんと説明して、本来のやり方でないことを理解してもらう。
 部下の報告に対しては、時々で構わないので、返答を出したほうがよい。一方通行の報告だけだと、部下のヤル気が低下するからだ。ただ返答するだけでなく、良い点を誉めたり、時々助言を加えたりしよう。

管理の基本スタンスを部下に説明する

 以上が、部下に仕事を任せる場合の管理方法だ。仕事の条件だけを部下に示し、他の部分では部下が自由にやれるように考えてある。基本的には、仕事の要点だけを管理する方法といえる。
 最悪の事態を防止する必要があるので、きちんと報告させたり、仕事の進み具合を確認するのは避けられない。報告書を提出して部下の仕事を把握できるからこそ、余計な干渉をしなくて済む。つまり、“きちんとした報告”と“余計な干渉を減らすこと”は、表裏一体なのだ。
 これこそ、部下が理解しなければならない点である。何も言わないと部下は理解できないので、上司が最初に説明したほうがよい。なぜ報告書を出させるのか、なぜ報告書の項目が定められているのかなどに加え、上司が部下の仕事を把握すべき理由、上司が仕事全体の責任を負っている点も、できるだけ詳しく話す。マトモな部下なら、管理の基本スタンスを説明すれば理解できるだろう。それによって、報告書をきちんと提出するようになる。
 このように説明してでさえ、報告書を提出しない部下も現れる。最初は何度か注意するが、それでも従わないような人だ。このような部下の存在は非常に困りもので、上司の手間を増やし、上司自身の仕事の時間を減らす。余談だが、部下の管理は上司の仕事の一部でしかなく、上司も実務を担当するのが良い組織だ。だからこそ、部下を管理する負荷は最小限に押さえたい。
 マトモな上司の命令に従わない部下は、仕事の効率を低下させる原因になる。可哀想だが、自分の管理下から外すことも検討しなければならない。ただし、改善の機会を与えるために、従わなかったときの対処を事前に説明する。管理の基本スタンスを部下全員に説明するときが最適だろう。きちんと報告しない人は評価を大きく下げること、従わない期間が長いと他のチームへの移動を人事に申請することなど、強い口調で明確に示す。何度か繰り返して強調したほうがよい。
 もう1つ、嘘を報告するのも同じぐらい悪いことだと伝える。嘘の報告は、最悪の事態を招きやすく、チーム全体に迷惑をかける。報告しないのと同様に対処することを、最初に表明しておこう。

 以上、部下の管理方法を簡単に説明した。現実の仕事では、予定どおりに進まなかったり、予想外のトラブルが発生したりして、個別の対処が求められる。本内容はあくまで基本であり、上手にアレンジして利用してほしい。背景にある考え方を理解すれば、適切な対処ができるだろう。

(1999年8月28日)


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