一流仕事:管理職に必要なマネジメント技術 |
部下を持つ管理職の仕事の多くは、マネジメントの範疇に含まれるものだ。では、世の中の管理職は、質の高いマネジメントができているだろうか。このような疑問は、社会人になってからずっと持っていた。いくつかの企業に勤めたり、取引先や知り合いの企業との付き合いを経験するうちに、疑問は大きくなるばかりだった。
こうした疑問が大問題だと認識できたのは、外資系コンサルティング会社に勤めて、本格的なプロジェクト管理を知ったときだ。重要な管理ポイントだけを選んであるため、最小限の手間で効果的な管理ができる。まさに、きちんと設計されたプロジェクト管理方法といえるものだった。つまり、マネジメント手法もきちんと設計すべきものなのだ。
この点に気付いてから、今までの疑問を解消するべく、マネジメント手法をシステムとして設計してみた。実際の現場で必要となるマネジメント要素は何かから始まり、それぞれの要素に求められる条件を洗い出して、それを満たす手法を導き出す。この流れにシステム設計を適用すれば、実際に使える手法に仕上げられる。
以上のような考え方で設計して、科学的なマネジメント手法が得られた。その中身は、かなり論理的であり、行動の理由をきちんと説明できる。実行する目的や理由が明確なだけに、誰にでも教えられるし、教育によって身に付けられる。もちろん、思い付きで実行するマネジメント方法(マネジメントと呼べるかどうかは疑問だが)に比べて、ある程度の成果が期待できる。
マネジメント技術の中身としては、いろいろな要素を含む。1つの分け方として、仕事に関する部分と人間に関する部分という考え方もある。また、通常時の中心となる作業と、非常時やリスク管理に関わる作業にも分けられる。もっと違う分け方もあるが、どんな分け方であっても、明確な境界線を引くのは難しい。
そこで、重要と思われる切り口を求め、それごとに説明する方法を採用した。代表的な切り口として、以下の4つを挙げてみた。
科学的なマネジメント手法の切り口 ・人間を中心に見た要素
・部下のマネジメント
・部門やチームのマネジメント
・仕事を中心に見た要素
・通常時の仕事のマネジメント
・非常時の仕事のマネジメント
これらの間の重複は避けられないので、内容が重なっても構わずに説明する。また、この4つの切り口で不足する部分や、うまく分けられない部分は、補足として加えよう。
科学的なマネジメント手法を用いると、仕事の進み具合がきちんと把握できる。また、リスクへ上手に対応できて、トラブルの被害を最小限に押さえられる。さらには、部下のスキルアップを手助けして、チーム全体のレベルも上がるし、仕事も効率的になる。このようなことを実現するために、科学的な手法を採用するマネジメントなのだ。
マネジメント技術を説明すると、必ず出てくる意見がある。「自分のマネジメント方法は、部下と飲みに行って話を聞くこと」というものだ。この意見には、大きな認識間違いがある。科学的なマネジメント手法を用いても、必要とあれば部下と飲みに行くし、シラフで相談に応じることもある。部下と個別に話すことは、中心となるマネジメント手法を補う細かな作業と位置づけられ、必要に応じて実施するものである。
前述のような意見が出る大きな理由は、他人に説明できるほどマトモにマネジメントしていないのを隠すためだろう。何となく管理している気になってるのであり、それでも構わない世界に住んでいたので、そのまま続けていただけと思われる。本来なら、きちんとしたマネジメント手法を教えて、企業全体に浸透させるのは、トップマネジメントの責任である。それをやっていない経営者が多すぎることが、根本の原因だといえる。
では、科学的なマネジメント手法を知ったらどうなるだろうか。マネジメントの質を向上したいと考えている人なら、試そうという気になるはずだ。つまり、今まではマトモなマネジメント手法を知らないから、やらなかっただけなのだ。ほとんどの企業のトップマネジメントには期待できないので、もはや自分で勉強して身に付けるしかない。
科学的なマネジメント手法を用いたら、絶対に失敗しないわけではない。予想外の大きなトラブルが発生したなど、どうしようもない場合もある。絶対的な手法ではなく、成功する確率を高めるための手法だと認識しておこう。
もう1つ、大事な点がある。科学的なマネジメント手法は、それほど難しいことではないし、仕事に必要な能力全体から見れば、基礎部分に位置づけられる。もっと重要なのは、それぞれの専門で必要となるノウハウのほうだ。その意味で“管理職の基本的な能力”なのだが、それすら浸透してない現状を見ると、ちょっとどころか相当に悲しい。そんな状況を打開するためにも、科学的なマネジメント手法を身に付けよう。
(1999年6月14日)
科学的なマネジメント手法が必要な時代に |