川村渇真の「知性の泉」

魅力のない話を延々と続ける指導者はダメ


無駄な話は仕事を邪魔するだけ

 新年早々などの決まった時期には、社員全員を一カ所に集めて、社長や重役が話をすることが多い。せっかく集めて話すのだから、それなりの内容を期待するのが当然だろう。自分が企業に勤めていたときの経験だが、わざわざ集まって聞くほどではない内容を、30分以上のかけて話していた。知人にも尋ねたが、そんな状況は当たり前のようだ。
 社員を集めて話を聞かせるというのは、その間だけ仕事を停止することを意味する。価値のない話をするぐらいなら、本来の仕事をやってもらったほうがよい。全員が30分や1時間も無駄にするなんて、トップが何も考えずに仕事を進めている証拠だ。
 社長や重役が話すたいていのケースでは、話す時間をある程度確保し、その時間分だけトップに喋ってもらう形らしい。「だいたい30分程度でお願いします」とか言いながら。その結果、決められた時間を埋めるだけの内容を用意し、淡々と話すだけに終わる。
 社長だから話す機会と時間帯が提供され、社長のほうも時間を埋めるために話を用意するという、形式だけを重視した構図といえる。必要があるから話すのではなく、話すことが決まっているから話すのでしかない。そのために、全社員が時間を無駄にしている点など、まったく考えてはいない。もし長く話したほうが偉いと思っているなら、大きな勘違いだ。

話した効果を考慮して喋る内容を決めるべき

 長い時間をかけて話をする場合には、その効果をきちんと考慮しなければならない。考えてみてほしい。30分や1時間も話した内容を、細かく覚えている人はほとんどいない。非常に有意義な内容だったとしても、覚えているのは要点だけなのだ。細かな点に関しては、後から資料を見せるなどの方法で補助しなければ、忘れたままになる。
 以上の点が理解できると、話す内容を決めるときに効果を重視するようになる。伝えるべき要点を明確に洗い出し、それだけを簡潔に話せばよい。時間も無理して長くする必要はなく、10分程度で十分だろう。
 話す内容と一緒に、もっと深く理解するための資料も用意する。以前なら紙で配布しただろうが、現状ではネットワークで見れる形がベストだ。話が終わったと同時に、アクセス可能な状態にする。細かな内容は、こうした方法で伝えればよい。
 では、直接話す理由は何だろうか。ヤル気とか情熱を伝えるためである。トップマネジメントが本気で取り組んでいることを、理解してもらうときに用いる。顔の表情、声の大きさやトーン、身振りや手振りによって、どれだけ本気なのかを伝えられる。それが主な目的なので、インパクトを与えるように、話す内容を絞り込んで短く済ませる。プレゼンテーションが相当の上手でない限り、ダラダラと話し続けたら、インパクトが低下して逆効果になりかねないからだ。「要点を絞り込み、短い時間で、インパクトを大きく」が、話す際のポイントとなる。
 ただし、大きな改革を実施したいとか、伝えたい内容が多い場合には、たった10分の説明では伝わりにくい。このような理由があれば、1時間や2時間に延ばしても構わない。説明は可能な限り短いほうがよいので、無理して時間を延ばすのではなく、本当に必要なときだけ延ばすことが大切だ。時間が長くなるほど飽きやすいので、聞く人の興味を保ち続ける内容に仕上げる点も、絶対に忘れてはならない。
 魅力的な内容を話せない人には、聞く人の仕事を邪魔しないためにも、とにかく要点だけ強調して話し、手短に終わらせることを強くお勧めしたい。そうすれば、集めて話すときの最低限の条件は満たせる。

社長や重役の話す内容で企業のレベルが分かる

 これからは以上のような視点で、社長や重役が話す内容を聞いてみよう。くだらない話を延々と続けるなら、レベルが低いと評価してよい。また、そんな人が上層部に多いなら、組織のレベルも低いと判断できるだろう。該当する組織には、実力よりも年齢序列で出世するような旧態依然とした日本企業が多い。
 くだらない話を延々と聞く状況に、もし自分が遭遇したらどうするか考えてみた。若い頃なら、深く分析する能力がなかったので、我慢して聞き続けただろう。しかし今は、無駄な行為に無理して付き合う気持ちはほとんどない。おそらく、価値のない話を10分も続けられたら、その場を黙って立ち去るだろう。立ち去る行為は「価値のない話は聞かない」という意思表示でもある。自分の職場に戻って、本来の仕事を続けるだけだ。途中で退場すると、文句を言う人が出ると予想する。そんな人に対しては「価値がないと判断したので、仕事に戻っただけ」と言うしかない。
 改善させる方法は、もう1つある。まず、話を最後まで聞いて、どんな内容にどれだけの時間を割いたのか、時計を見ながら細かくメモしておく。そのメモを分析して話の内容を評価し、評価結果を話した本人に電子メールで送るのだ。自分が評価されるなんて思いもしないので、相手は非常に驚くだろう。ただし、この方法は非常に危険で、相手のレベルが低い場合には(その可能性はかなり高いが)、クビになったり左遷される可能性が高い。その意味で、普通の人にはお勧めしない。しかし、自分ならこちらの方法を実行するだろう。
 正直なところ、この程度のことは、社長や重役になる人なら知っておいてほしい。こんな点まで指摘しなければならないなんて、あまりにもレベルが低すぎる。とはいうものの、現実は悲しい状況のようだ。

(1999年7月9日)


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