川村渇真の「知性の泉」

プロジェクトで作成物と納期を明示しないのはダメ


中間作成物を知らないためにトラブルが発生

 プロジェクトのように、集団で何かを実現する仕事では、誰が何をいつやるのか、明確に示すことが重要である。プロジェクトの形式を採用していなくても、何人かで一緒に仕事する場合は、同じ考え方を適用したほうがよい。
 ところが、それをきちんと実施していないプロジェクトが意外と多い。よくあるのは、次のような光景だ。プロジェクトのメンバーに向かってリーダーが「○○の提出は今日までだけど、できてる?」と尋ねると、言われたメンバーは「えっ、そんな話、聞いてませんよ〜」と答える。このようなトラブルは、組織へ新しく加わったメンバーに起こりやすい。
 昔から参加しているメンバーは、どの時点で何を作ればばよいのか、大まかに分かっている。そのため、担当する仕事が決まると、作成すべき書類などが明らかになり、後はいつものように作業するだけだ。大まかな日程しか公表されなくても、自分が提出する時期を割り出せる。問題が発生することはほとんどない。
 ところが、新しく加わったメンバーは、どんな中間提出物を作るのか知らない。だから、担当する仕事を与えられたら、それを毎日こなすだけだ。リーダーが何も言わないと、提出期限になるまで気付かず、前述のような状況になる。
 新規メンバーが経験豊富だと、自分からリーダーに尋ねて、中間提出物の形式や期日を知ろうとするだろう。しかし、そうでないメンバーは、リーダーか誰かが教えない限り、期限の日まで気付かない。当日になって判明するようだと、プロジェクトが確実に遅れるので、リーダーとしては失敗である。

プロジェクトの作業内容や作成物を明確に示す

 この種の問題では、日程を作ったリーダー側が知らせる責任を持つ。そうしないと、日程が出来上がるまで、メンバー側が何度も尋ねる羽目になるからだ。全体として効率を考えると、作った側が知らせるのが当たり前。
 余談だが、日程や規定の公開では、作った側から通知するのが基本中の基本である。たまに、尋ねないほうが悪いという人もいるが、誤った考え方であり、責任逃れの発言でしかない。
 話を戻そう。リーダーが作る日程には、どんな作業があるのか、いつまでに終わらせるのか、誰が担当するのかを明記する。また、中間提出物も含めて、作るべきものの名称と形式も明らかにしなければならない。やるべき作業の中には、レビューや検査も含め、これも日程と担当を明らかにする。レビューや検査の対象は、中間も含めた提出物になるのが一般的だ。

リーダーが作成すべき、プロジェクト日程の主な項目
・作業内容:やるべき作業の内容と範囲(とくに範囲が重要)
・作業量 :作業にかかる負荷のだいたいの大きさ
・作業日程:作業の終了期日(必要なときだけ開始日も付ける)
・作業担当:その作業を担当するメンバー名
・作成物:作業で出来上がる成果物(何かを作る作業でのみ)
  ・名称:作成物の正式な名称
  ・形式:作成物の中身の形式(詳しい説明書を用意する)
・レビューまたは検査:作成物のレビューや検査(必要な作業でのみ)
  ・日程:レビューや検査を実施する日程(作成期日より前)
  ・担当:レビューや検査を担当するメンバー名

 レビューや検査は、作成物の最終期日よりも前に実施して、最終期日に間に合うように考慮する。また、作成の遅れも考えられるので、少し前側に設定してプレッシャーを与えてもよい。実際の実施日が少し変わることもよくあるなら、最初のうちは大まかに決めておき、近づいた時点で具体的に決める方法もある。
 このように日程を整理すると、誰が何をいつまでにやるのか、メンバー全員に明らかになる。当然、知らなかったという低レベルなトラブルは起こらない。

きちんとした日程を公表して進捗管理

 作成した日程や担当の内容は、メンバー全員に知らせなければならない。少しでも早いほうがよいので、出来上がったらすぐに渡すのが普通だ。
 プロジェクトによっては、日程が定めにくい場合もあるだろう。そんなときは、最初の1ヶ月分とか2週間分だけを含んだ暫定的な日程を作り、メンバーに渡す方法が有効である。それを見て、正式な日程ができあがるまで、メンバーは作業を進められる。
 日程が変更になったときは、新しい日程に書き直して、素早くメンバー全員に配布する。変更箇所を明らかにするだけでなく、直した日程の全体像を渡したほうがよい。変更内容を勘違いする可能性が低いからだ。
 このような日程は、プロジェクトの進捗管理の基礎となる。日程より遅れている作業があれば、何らかの問題が発生しているかも知れないので、リーダーがそこを重点的に調べる。こうすると、トラブルが早期に発見できるだろう。
 一緒の部屋で作業している場合は、壁のボードに日程を書き込んで、誰もが見れるようにする方法が有効だ。常に最新を見れるし、全体の進み具合も簡単に知れる。配布し忘れる心配もない。ただし、何かを変更したときは、変わったことに気付かない人がいるので、変更点だけは目立つようにしなければならない。
 リーダーとしては、日程をきちんと守らせることが大切だ。そうしないと、日程を誰も信用しなくなり、期日どおりに終わらせようという意識が低下する。その意味で、無理な日程を計画せず、かなり現実的な日程を用意しなければならない。また、各メンバーの実力に合った仕事を担当させ、きちんと終了できるように考慮する。こういったことができなければ、リーダーをやる資格はない。

 このような仕事の進め方は、プロジェクト以外にも適用できる。部下を持ったり、外注を管理しなければならない人は、こうした方法で管理するとよい。メンバーもやりやすいはずなので、信頼できるリーダーとして見られるはずだ。

(1999年12月2日)


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