川村渇真の「知性の泉」

何度も打合せに来させるのはダメ


相手の時間消費はコスト増だと理解すべき

 社会人になった当初から感じていたことに、企業間や部門間での無駄な打合せがある。とくに、企業間に立場の優劣があると、優勢なほう(大企業の場合が多い)が相手を呼びたがる。打合せが必要だといって、何度も何度も自分の所へ来させるのだ。
 こんな行為をするのは最悪としか言いようがない。現在の多くの企業では、人件費がかなりの割合を占める。一人が打合せに来ると、往復の移動時間も含めて、半日を消費することが多い。それに回数と人件費単価をかけたら、相当な金額になると分かるだろう。相手に何度も来させるのは、人件費を無駄に増やしていることに等しい。
 相手の時間なのでタダだと思ってたら大間違いだ。取引をしている以上、最終的なコストは自分に跳ね返ってくる。成果物のコスト増になることもあるだろうし、品質の低下として反映する場合もあるだろう。どんな形であれ、良い点はまったくない。
 お互いにきちんとした仕事をして、末永く取り引きするためには、相手企業にもそこそこの利益を上げてもらう必要がある。赤字が続くとしたら、良い仕事は難しくなるし、途中で取引先を変えなければならない。変える際には、余分なコストを生じるとか、悪い相手と当たって被害を生じたりする。結局は、自分のほうも損するわけだ。自分が原因だけに、最悪の状況といえるだろう。
 このような悪い行為を繰り返すのは、大企業のダメ社員に多い(弱小企業だと、やろうと思ってもできない)。何が疑問が生じたり、自分が困ってしまうと、取引先の人を呼んで文句を言ったり、遠回しに助けてもらったりする。相手のコストなんて考えもしない。
 こんな行為を繰り返す社員がいたら、普段から上司がきちんと把握して、本人に改善させるべきだ。そうしないと、大切な取引先に余分なコストを負担させ、最悪の場合には、相手の企業から愛想を尽かされてしまう。優秀な企業ほど、相手が大企業でもアホとは仕事をしたがらないからだ。そうならないように、部下の仕事ぶりはきちんと把握したい。常に把握するのは大変であり無駄なので、特別な理由がない限り何度も打合せに来させるのはダメだと、部下に普段から言っておくべきだ。

何人も連れだってくるのもダメ

 呼ぶ側だけでなく、呼ばれた側の問題も指摘しておこう。最悪なのは、何人も連れだって来る場合だ。簡単な打合せなのに、4人で来たりする。営業が2人、技術が2人のような組合せでだ。もし4人で来て半日を消費したら、合計で2人日の人件費になる。こんな行為の繰り返しはコスト増につながるし、しかも別な方法で済ませられるので、ほとんど無駄なコストである。
 何人かでゾロゾロと来るのは、各人の能力に問題のある場合が多い。営業担当は営業的なことしか知らなくて、技術の基礎すら勉強しようともしない。技術担当では、自分の担当部分しか知らないので、複数の人が一緒に出席しなければ打合せもできない。すべてに共通するのは、自分の担当以外のことは知らない点だ。必要な能力が欠けてるとしか言いようがない。
 こんな状況を起こさないためにも、営業担当は最低限の技術を知っておくべきだし、技術担当も最低限の営業面の知識を持つべきだ。また、技術全体が理解できる人が、責任者クラスとしていなければならない。できるだけ少ない人数で打合せができ、全体を把握できる人材が求められている。
 このように各人の能力を広げるためには、いろいろな経験を少しずつできる環境が必要だ。それは企業側の役割であり、意識的に支援しなければならない。具体的には、仕事の担当ごとに必要な能力を明示し、各人の専門以外の能力もその中に含める。そして、実現するための機会を与えるようにする。このように計画的に活動するれば、社員のスキルを効率的に向上できるはずだ。
 何人もで一緒に来たとき、呼んだ側がアホだと、人数が多いほど熱心だと思ってしまう。これこそ最悪の組み合わせだ。そうではなく、相手のコスト意識が甘いとか、人材の能力不足だと認識しなければならない。話が通じる相手であれば、適切な助言を与えたほうがよいだろう。

記録が残って効率的な対話手段を利用する

 打合せ自体は必要なことだが、別な作業を通じて具体的な成果を生むことのほうが多い。無駄な打合せに時間を取られないように、効率的な打合せの基本ルールを理解しておこう。
 まず、見知らぬ相手と仕事をするのは心地よくないので、最低限の顔合わせは必要だ。最初にどちらかが訪問し、実際に話してお互いを知る必要がある。その際に、無駄な打合せをしなくて済むようなルールを決めるとよい。
 後は基本的に、大きな問題を対処する場合にだけ顔合わせをして、それ以外は電話や電子メールで済ませる。特に重要なのが電子メールで、お互いに記録が残る点が最大のメリットだ。同様に、電話よりもファックスのほうがよい。できるだけ相手の邪魔をせず、記録が残る方法を利用する。電話するのは、緊急の場合や、細かい内容を検討したい場合に限定すべきだろう。ただし、初回の取引だけは例外で、相手の実力や信頼度が不明なため、顔合わせや電話の回数を増やしたほうが安全である。
 電子メールを用いたやり取りでは、最終的に合意した内容を整理してまとめ、お互いに承認する手続きを決めたほうがよい。この内容で確かに決まったと、お互いが判断できるルールをだ。そうしないと、要望と決定を混同して、余計なトラブルが生じやすい。決定した内容にはバージョン番号を付け、最新版を区別できるようにしておく。
 もう1つ、仕事の進行状況が把握できるように、全体のスケジュールを決め、それに沿って作業することも大切だ。何日までに何を作ったり提出するのか、お互いが分かる計画を用意する。作成すべき内容ごとに担当者と期日を明確にして、それと照らし合わせながら作業を進める。遅れを発見しやすいため、もし遅れた場合にでも早目に対処できる点がメリットだ。
 このように仕事をすれば、電子メール中心でも大きな問題が起こりにくい。顔が見えないし、一緒にスケジュール表を見たりしないので、欠点を補うための工夫が必要となる。

 以上のような仕事のやり方だと、決めるべき内容を上手に整理して書く能力が求められる。作文技術だけでなく、物事をきちんと決めたり、要望や仕様を体系的にまとめる能力だ。これからの時代は必要度がさらに増すので、意識して習得しておこう。

(1999年9月1日)


下の飾り