川村渇真の「知性の泉」

「良いものを作ります」と言うだけで
中身を説明しないのはダメ


「良いものを作ります」とだけ繰り返す人

 仕事を受けたいと思ったら、自分の力をアピールすることが求められる。これまでの成果を見せるとか、自分の考え方を説明するなど、いろいろな形でプレゼンテーションをする。その内容が相手に認めれば、仕事のチャンスが生まれる。
 アピールする人の中には、「必ず良いものを作ります」と言う人がいる。「良いもの」というのは結構だが、どのように良いのかを説明しなければ意味がない。他の人と比べて、“どんな点”が“どのように”優れているのか、より具体的に説明する必要がある。それが含まれていなければ、いくら「良いもの」と言っても説得力はない。詳しい内容を示さないと、それで良いのか判断できないので、仕事も頼めない。
 ところが実際には、「良いものを作ります」とだけ繰り返す人がいる。派手な形容詞がやたらと多いものの、その中身はまったくつかめない。とにかく「良いもの」と言うだけなので、説明になっていないのだ。詳しい内容の説明を求めても、あやふやな答えしか返ってこない。

仕事の仕方が低レベルなことが多い

 いろいろな人と仕事をした経験から、「良いもの」とだけ繰り返す人の特徴が見えてきた。一番気になる仕事の成果だが、「良いものを作ります」と連発した割には、一般的なものしか出来上がってこないことがほとんどだった。
 それよりも目立ったのは、仕事の仕方だ。ほとんどの人が、素人的な仕事の進め方をしていた。何かを作る場合、どんな内容なのか説明した概要設計書(設計以外では別な名前になる)を提出する。それがなければ、どんなものが出来上がるのか、最後まで不安を持ちながら待つしかない。また、作ったものを渡す際には、使用説明書や設計仕様書などを含める。どんなものを渡すのか、最初の見積もり段階で提示するのが当たり前だ。「良いもの」とだけ繰り返す人のほとんどは、金額だけの見積書しか出さず、他の書類はまったく用意しない。最初からテキトーなやり方なので、最後は作ったものを説明書なしで渡すことになる。最初に書類がない場合は、のらりくらりと逃げられるか、別料金を請求されることもあり得る。
 最悪の例では、仕事を紹介してくれた人に伝えず、勝手に仕事を始めた。こんなやり方をする人なので、仕事の依頼者からクレームが発生した。後で調べて判明したのだが、その「良いもの」とだけ繰り返す人は、どんなことをしてでも仕事がほしかったようだ。

仕事を始める前に確認することが大切

 「良いものを作ります」と似た言葉に「頑張ります」がある。よく考えれば分かるが、仕事として受ける以上、頑張るのは当然のことだ。積極性をアピールしたいためだろうが、その言葉を繰り返しても意味はない。それどころか、あまり繰り返すようなら要注意。どのように頑張るのか、説明できない人かも知れないからだ。
 「良いものを作ります」や「頑張ります」を連発する人が現れたら、「どのような点がよいのか」や「どんな点を頑張るのか」を詳しく尋ねたほうがよい。もし詳しく説明できないなら、一緒に仕事をする相手としては適さない可能性が高い。仕事を始めてから気付いたのでは遅すぎるので、最初の段階で十分に確認しよう。

(1997年10月12日)


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