川村渇真の「知性の泉」

外注先に対して見下した態度で接するのはダメ


外注先を下請けだと思う人がいる

 大企業ほどいろいろな仕事を持っているが、全部を社内で済ませられるわけではない。細かな部分を別な企業に発注して、社内でできない分を補う。そんな場合、外注先との窓口と管理の担当が誰かに割り当てられる。
 外注先の規模が自分の会社より小さいと、偉そうに振る舞う外注管理者もいる。相手を自分たちの「下請け」だと思って、見下した態度で接する人だ。「仕事を回してやっている」とか、「自分のほうが大きい会社なので偉い」などと思い、それが態度に現れる。相手となる外注先の人は、今後も仕事を受けたいので、何を言われても我慢し続ける。
 もっとも悲惨なのは、発注した部品にトラブルが発生したときだ。外注管理者は、自分の立場を守るために、外注先の原因にしたがる。実際には、外注した部品が悪いことも、発注の仕方が悪いこともある(とくに開発部門の場合)。しかし、ほとんどが外注先が悪いことになりがちだ。発注の仕方が悪い場合でも、たいていの外注先の人は、我慢して従うことが多い。仕事を失いたくないからだ。

ダメ発注者は同じ失敗を何度も繰り返す

 大企業の外注管理者のうち、実力のない人ほど、まともな発注はできない。発注内容を打合せする際に、その特徴が出る。
 内容の打合せには、外注先の側から、その分野の専門家が出てくる。当然、自分よりは格段に実力があり詳しい。発注内容を自分では細かく決められないため、相手にお願いするしかないが、話す内容が難しくなると恥をかくので、詳しい内容には触れたがらない。だから、あまり細かい内容に触れないまま、相手に決めてもらう。表面的には、自分がお願いするのではなく、相手の提案を採用してやったという態度で。
 このような発注方法だと、どうしてもトラブルが発生しやすい。本来なら、外注先の専門家が疑問に思うことを一緒に調べて、細かい仕様を詰めるべきだ。それをしないために、後からトラブルとして表面化する。原因はとなると、仕様を提案した相手が悪いことにしてしまう。
 このようなダメ発注者は、実力を付けることよりも自分のメンツを重要視する。知らないことでも、相手が下請けの人なら尋ねたりはしない。結果として、いつまで経っても実力が低いままであり、同じ失敗を何度も繰り返す。自分だけで改善できるケースはほとんどない。相手のせいにして済ませられるのだから、反省して直す動機など起こるはずがない。
 ダメ発注者を良くするのも、実は、上司である管理職の仕事といえる。外注先の本音を定期的に引き出し、悪い部下を見付け出す。そして、部下が成長するように指導し、仕事のやり方を直させるのも役割なのだ。
 トラブルの発生により、発注側と受注側の両方が損をする。とくに問題なのは、トラブル発生の原因を相手のせいにすることで、優秀な外注先から逃げられる点。企業にとっては大損である。

素直に教えてもらうのが最良の方法

 相手が小さな会社に属していようが、実力があれば教えてもらったほうがよい。所属する会社の大きさなどは、どうでもよいことなのだ。実力のある相手に巡り会ったのは、1つのチャンスといえる。その機会に勉強することで、自分の実力もアップして大いに得する。相手が嫌がらない範囲内で、どんどんと教えてもらったほうがよい。せこいメンツなど、百害あって一理なしだ。メンツばかりにこだわっていると、せっかくの成長の機会を逃すことになる。
 所属する会社の規模で判断するのは、相手を対等の人間と見ないことに等しい。つまり、人権を軽視することと同じだ。そのような考えは、外注先とのやり取り以外の場面でも、問題を引き起こしやすい。これからの時代には付いて行けない。いろいろな場面で人権を重視することが求められるからだ。
 規模の小さな外注先を見下す意識は、自分の実力ではなく、大企業の名刺で仕事をしているから起こる。一般的に“大企業のダメ社員”に多い。そんな人は、会社を辞めてから愕然としがちだ。会社の名刺が使えなくなり、タダの人として扱われることで、自分の本当の価値を思い知る。もちろん、見下した態度で接した相手には見向きもされない。そうならないためにも、外注先の人を見下すような態度は、ぜったいに止めるべきだ。

余談:大企業のダメ社員を見てきた

 以上のようなことを書くと、下請けの仕事を過去に経験して苦労したのではないかと思われるかも知れない。しかし、下請けとして働いた経験は、残念ながら一度もない。大企業の開発畑がほとんどなので、外注を使う側にしかいたことがない。また、フリーランスとなってからも、名前が出る執筆や、アドバイザーとして契約しての仕事が中心なので、下請けの要素は持っていない。自分の人生のためには、一度ぐらいなら経験しても良かったと思っている(今経験したら、すぐに仕事を断るだろうが。なお、学歴差別を受けた経験は何度かあり、それが本テーマに気付いた原因の1つになっている)。
 ただし、外注先の人と仲良くなったことは何度かある。仲良くなれば、いろいろと本音を聞かせてれるので、状況はよく分かった。その後に、見下した態度の人を観察したら、前述のような特徴を持つ人が多いことに気付いた。つまり、下請けの経験はないものの、発注する側の人を見た経験はかなりあるのだ。昔は何も言えなかったが、今なら、相手が先輩でも指摘するだろう。先輩なら指摘しないことも考えられるが、重役や社長なら絶対に指摘する。それだけ重要な地位にいる人なのだから。

(1997年8月29日)


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