川村渇真の「知性の泉」

無駄に悩む時間を極力減らす


やり方が分からないとき無駄な時間が生じやすい

 思ったように仕事が進まない状況を細かく観察すると、何も成果を上げていない時間というのが、意外に多く存在する。その中でも最悪なのが、当てもなく悩んでいるだけの時間だ。たとえば、上司や取引先から「今言った内容を仕様としてまとめてほしい」と言われたとき、仕様としてまとめる方法をまったく知らないと、ただ呆然として時間を過ごしてしまう。
 難しくて大きな課題の場合だけではない。何か書類を作るとき、小さなことでも詰まってしまうと、悩んでいるうちに何時間か過ぎてしまう。一般的には、大きな問題ほど長く悩むが、小さな問題でも悩む時間は生じる。共通なのは、「困ったなぁ、どうしよう」などと思っている間に、どんどんと時間が過ぎてしまう点だ。
 当てもなく悩むだけの時間が生じるのは、どうしてよいのか分からない場合である。しかし、何もせずに悩んでいるだけでは、まったく進展しない。何も成果を上げないまま時間ばかりが経過するので、仕事の納期が近づくなど、状況はだんだんと悪くなる一方だ。この点にこそ、真っ先に気付く必要がある。
 ただし、最初から何もできないと判断するわけではない。できるかどうかを少しは検討するだろう。その結果として、何もできないと分かる。時間を浪費しないためには、最初の検討時間を限定する方法が有効だ。決めた時間だけ検討しても、どうすればよいのか何も思い付かなかったとき、悩むのを止める。こうすれば、無駄に悩む時間を相当減らせる。

役立つ情報がないか調べてみる

 当てもなく悩んでいても進展しないので、打開する方法を見付けることが大切。もっとも可能性の高いのは、解決方法やそのヒントをどこかで探す方法だ。
 世の中のほとんどの課題は、すでに誰かが経験している。そのため、解決方法が得られないにしても、ヒントぐらいは探せば見付かる場合が多い。自分だけで悩んでいないで、それを探すようにしたい。
 探す方法は、いくつかある。もし少しでも知っている人が近くにいるなら、その人に尋ねるのが一番だ。状況を詳しく説明すれば、それに適した助言が得られる。相手の迷惑にならない範囲内でだが、分からない部分を何度も質問できるので、納得できるまで話が聞ける。
 尋ねる人がいなければ、本や資料を利用しよう。大きな書店に行けば、かなり多くの専門書を手にとって見れる。たいていの分野で、ヒントになりそうな本が1冊ぐらいは見付かるだろう。最近では、インターネットの検索サイトを利用する方法もある。膨大な数のサイトが出てくるが、役立ちそうなサイトを選んでアクセスしてみると、ヒントぐらいは見付かることが多い。
 これらの方法でも、見付からないと時間はどんどん過ぎる。時間を長くかけるほど無駄になる可能性が高まるので、一定時間だけに限定するのが賢明だ。最初に最大時間を決めておき、それが過ぎたら探すのを止める。書店で本を探すのなら、通常の問題なら2時間、難しい問題なら3または4時間、簡単な問題なら1時間ぐらいで終える。
 別な手として、メーリングリストなどの電子会議室で質問する方法がある。参加者が少ないと期待した回答が得られないので、参加人数の多い会議室を見付けるのポイントだ。規模が分からない場合は、複数の会議室で質問する。
 電子会議室での質問では、知りたい内容をできるだけ詳しく説明しないと、適切な回答が得られない。不明瞭な点を何度か尋ねられるので、きちんと説明すれば、良い助言が得られる可能性が高まる。また、助言の良し悪しに関係なく、丁寧にお礼をするのが礼儀だ。
 いろいろと調べてもダメだった場合には、専門家の助言を受ける方法もある。どの程度の助言が可能かは相手によって大きく異なるため、得意分野、能力レベル、助言方法などを調べ、最適な人材を選ばなければならない。相手がプロのコンサルタントなら、当然助言は有料なので、料金や支払形態を最初に聞いておく。

得た情報やヒントを参考に、整理しながら再び考える

 何種類かの方法で探すと、役立つ情報や解決のヒントが見付かるだろう。絶対的な解が得られた場合以外は、得られた情報を使って自分で考えなければならない。
 このような場面での検討で大切なのは、頭の中を整理することと、解決案を得るためのトリガーを作り出す点だ。この両者を満たすように、得られた情報やヒントを参考にしながら、いろいろと試行錯誤してみる。
 まず最初は、整理の方だけを考える。得られた情報やヒントから、検討対象の項目(要素)を洗い出し、どんどんと並べてみる。たとえば、仕様としてまとめることが課題なら、仕様に含めるべき項目を挙げる。使用する道具は、アウトライン・プロセッサでも紙でも構わない。グループ分けや並び順を変えたりして、不足する項目はないかとか、どのようにまとめたらスッキリ整うかをいくつも試す。
 次は、全体像を求める段階だ。主要な項目を選んで、関連を図で描いてみる。この作業は、今のところ紙が一番適している。項目のグループ分け、関連の明記などを簡単に描く。作業順に並べるというように、特定の軸を決めて項目を並べる方法も、役立つ場合がある。できるだけ多くの種類を描いた方が、より多くの視点で見られる。時間を無駄にしないためにも、可能な限りラフに描き、短時間で済ませよう。自分だけが分かればよいのだ。
 何種類もの視点で全体像を描くと、一番良さそうな図が見えてくる。その図で採用した分け方、軸、関連性のどれかが、最適である可能性が高い。それを出発点にして、細かな点を再び考えてみるとよいだろう。
 検討する対象の特徴によっては、以上の方法が適さない場合もあるだろう。そんなときでも、紙に何かを描きながら試行錯誤すると、打開する可能性は高い。紙に図を描きながら考える方法は、何も描かず考えるよりも、良い結果を得る点で遙かに優れている。良い解がまったく得られそうもない状況では、絶対にお勧めの方法だ。

作りながら考えるとか、ただ悩むよりは良い方法を実施

 どうしたらよいのかまったく分からない状況以外でも、当てもなく悩むことはある。たとえば、2つまたは3つの選択枝があって、どれを選んだら最適なのか判断できないような場合だ。こうした状況でも、ただ悩んでいるだけでは、時間を無駄に消費してしまう。
 このケースでも、選択に役立つ情報やヒントを集めてみる。しかし、選択枝を得られたことから考えて、最低限の情報は集め終わっている状況が多いだろう。
 そんなときは、どれかを選んで試しに作ってみる方法が有効だ。もし悪い選択枝を選んだとしても、それが悪かったと判明したので、少しの収穫は得られたことになる。その意味で、何もしないで悩み続けるよりは、それなりに有効な方法であろう。
 実際に作るのが難しい対象でも、紙に描きながら仮想的に作ってみる方法が使える。重要な部分を細かく描いたり、実際の数値を入れて計算したりすると、頭の中だけで考えているのに比べて、特徴や問題点が具体的に見えてきやすい。紙の上で仮想的に作るのは、あくまで1つの方法であり、別な方法を試しても構わない。
 とにかく、ただ悩んでいる行為よりは、少しでも良い方法を試すことが大切なのだ。当てもなく悩むのは、まったく前進しない最悪の行為である。それよりもマシな行為は数多くあるだろう。そう考えたら、やれることを何個か思い付くはずだ。その中から一番良さそうなものを選んで、実際にやってみればよい。
 どれを選ぶかで重要なのは、良し悪しのどちらの面でも良いから何らかの結果またはヒントが得られそうかどうかだ。また、短時間で終わったり、容易に実現できる方法を優先するのも、良い選択方法である。
 少しでも前進しようという意識があれば、できることが何か見付かるだろう。何をしたらよいのか分からない状況では、そういった思考が前進するのに有効となる。

当たり前の行為だが、意識しないと改善できにくい

 以上のような行為は、言われてみれば当たり前のことである。しかし、そうやってない人が意外に多い。その最大の理由は、改めて指摘されないと気付きにくいためかもしれない。
 もっと別な視点での原因も挙げられる。自分がやっている行為が、その時点でベストなのか、常に考えていない点だ。もし考えるように変われば、ただ悩み続けるという行為は、他のどんな行為よりも劣るのに気付くだろう。
 悩んでいるときこそ、何をしたら少しでも良くなるのか、冷静に考えることが重要である。こういった癖を付けると、当てもなく悩み続けることはなくなるし、少しでも良い方向に進む。結果として、無駄な時間は減るし、より良い成果が得られる。
 この内容を読んだので、今後は意識するように変わるだろう。もしかしたら、強く意識するようになるかも知れない。そういった意識の変化が、実は一番大切なのだ。

(2000年7月23日)


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