川村渇真の「知性の泉」

思い付いた内容を入力しながら考える


考えた時点でその内容を入力する

 問題を解決するとか、新しい商品のアイデアを練るとか、何かを設計するとか、頭を悩ませて考える仕事はいろいろある。コンピュータを使っているなら(このページを読んでいるなら該当するだろう)、そんな作業も効率的に行いたい。
 何かを考える場合、とにかく黙って考え続ける方法もあるが、それだとなかなか前に進まない。メモ用紙に落書きしたりして、アイデアやヒントを出そうとすることが多い。紙に書く方法も悪くはないが、洗い出した項目を整理することまで考えると、コンピュータを利用したよい。
 思考を手助けするからといって、難しいソフトを使う必要はない。たいていのテーマでは、テキスト・データだけで十分だ。項目の整理や入れ替えが生じるので、ベストなのはアウトライン・プロセッサ。持っていないなら、テキスト・エディタでも問題なく使える。
 ソフトに入力する方法は非常に簡単で、思い付いた内容を箇条書きにするだけ。1行に1項目を入れ、項目の数だけ行を並べる。項目は分類したいので、数が増えたら階層的に整理する。テキスト・エディタの場合は、階層の低い項目で、行の先頭に全角スペースを入れて字下げする。
 この方法で大切なのは、入力しながら考える点だ。思い付いたらすぐに入力し、テキスト上でどんどんと項目を増やす。また、ときどき並び替えて整理する。このように作業すると、入力したテキストが、考えを整理したり、不足する箇所を浮かび上がらせる効果を発揮する。そのため、入力しながら考えることが一番大切なのだ。

考える内容を何段階かの工程に分ける

 入力しながら思考する方法は、アイデアが出てくるときだけに用いると考えがちだ。しかし、どうして良いか分からないような煮詰まっている状況でも、同じように役立つ。
 壁にぶつかった状態であっても、次に進むために考えることができる。具体的なアイデアは出てこなくても、どうしたら出きそうかを考えればよいからだ。何かを調べるとか、誰かに尋ねるとか、いくつかの方法が思い浮かぶだろう。そんな内容を、そのまま入力すればよい。思い付いた全部の項目を入力して、次のステップへと続ける。今度は、より細かな項目を挙げてみる。「何かを調べる」という項目なら、何を調べればよいのかを洗い出す。何も思い付かない場合は、「何を調べればよいか」を求める方法を考えてよう。このような形で思考を進めていけば、何もできなくて黙っている状態には陥らない。調べるとか尋ねるとか、できることは何かあるはずだ。
 入力しながらの思考では、内容の上手な整理にも注意を払う。もっとも有効なのは、考える内容を何段階かに分割し、複数の工程として順番に進める方法だ。新しい商品のアイデアを求めるなら、具体的な機能を洗い出す前に、「現状の商品への不満」とか、「新商品が満たすべき要件」といった工程を入れる。考えるべき内容を数工程に分割すれば、内容を思い付きやすい。
 分割した工程に何が含まれるかは、考えるテーマによって異なる。どんな工程であっても、考え始める最初の時点で決めたほうがよい。それを最初に入力し、考える際のアウトラインとして利用する。これらは大きな区切りとなるので、「●」のような目立つ記号を付けて入力する。たとえば、以下のようにだ。

●1:現状の商品が使われている状況
●2:現状の商品への不満
●3:新商品が満たすべき要件
●4:各要件を実現する方法
●5:要件のベストな組み合わせ

 各項目に番号が付いているのは、他の項目を参照するときに便利だからだ。たとえば、3番の要件を洗い出したとき、それぞれが2番の不満のどれと対応しているのか、番号で参照することになる。こうして関連を明確にすると、考えた内容が適切かどうか検査しやすい。
 大まかな工程が求まったら、前のほうから順番に、より細かな内容を洗い出す。箇条書きで、各工程ごとに行を追加していく。前の例では、次のようになる。

●1:現状の商品が使われている状況
・1-1:橋の修復工事:壊れている箇所を見付けるために
・1-2:夜のオフィス:電気の無駄な利用を見付けるために
・1-3:写真の暗室:暗幕での光の漏れを見付けるために
●2:現状の商品への不満
●3:新商品が満たすべき要件
●4:各要件を実現する方法
●5:要件のベストな組み合わせ

このように、より細かな項目を入力した状態では、「●」印が目立って区切りを明らかにしてくれる。内容を上手に整理するためにも、区切りや階層構造が直感的に見えることは大切だ。
 入力した項目では、できるだけ全部の項目に階層的な番号を付ける。一部の工程では、もっと階層を深くする必要があるかも知れない。より深く考えるためにも、可能な限り細かな項目まで入力し続ける。

進捗状況報告やレビューを容易にする

 以上のようなスタイルで仕事をすると、別なメリットも生まれる。考えながら作成したテキストは、進捗状況の報告やレビューにも利用できるからだ。
 組織に属している人なら、仕事の進み具合を上司に報告しなければならない。定期的な報告だけでなく、上司に突然と尋ねられる場合もある。そんなときは、作成中のテキストを見せればよい。どの程度まで進んでいるのか、特別な書類を用意しなくても伝えられる。
 考える作業の場合は、何も書かないと状況を説明するのが難しい。言葉で説明しても良いが、かなり丁寧に説明しても、納得できる理解にまでは達しない。ところが、複数工程に分けて考えながら入力したテキストを見せれば、その時点までの検討内容を明確に見せられる。
 このようなテキストは、考える流れを上手に整理してあると、そのままレビューにも使える。扱うテーマが重要なら、別な人のレビューが必要なはずだ。レビュー用に別な資料を作るのは無駄なので、入力したテキストをそのまま使いたい。入力の途中でときどき整理するように心掛けると、特別に加工を加えなくてもレビューに利用できる。
 このような使い方は、仕事の質を確実に向上させる。上司や同僚とのコミュニケーションが高まり、誤解によって無駄な作業が生じるといった、レベルの低いトラブルを防止できる。無駄な作業を少しでも減らし、本来の問題に集中できる状況へと近づけよう。

(1998年12月31日)


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