川村渇真の「知性の泉」

仕事の依頼は内容を記述して


口頭説明はトラブルの原因になりやすい

 部下にちょっとした作業を依頼するとき、口頭で伝える人がいる。連絡先や資料の所在箇所といった情報を話して説明し、相手にメモを取らせる。相手が几帳面ならば、間違わないようにと、メモした内容が正しいかどうかを確認する。それでも、説明した全部の内容をメモするのは大変だ。相手が几帳面でないのなら、なおさらメモが不十分になる。その結果、ミスや再質問によって作業がスムーズに進まない。
 このような頼み方だと、依頼するほうも思い付くまま説明するので、言い忘れが起こりやすい。また、頭の中を十分に整理しないで頼みがちになる。これもまた、作業ミスや再質問につながる。それに、口頭で伝えてメモする行為自体も、効率的ではない。情報を持っている側が資料を用意したほうが、簡単で済む。
 口頭説明の最大の問題は、無駄なトラブルが発生しやすいことだ。さらに悪いことに、トラブル発生の原因が明確にならない。依頼内容の証拠が残らないので、言った言わないの議論に発展し、どちらが悪いことになっても、納得できない感情が残る。上司と部下の場合は、上司が有利な立場にいるため、部下のミスになることが多い。優秀な部下ほど、ヤル気をなくしてしまいやすい。このような仕事のやり方は、ハッキリ言って良くない。

小さな依頼でも書面で伝える

 以上の問題を解消するためには、どんな小さな依頼でも、書面で伝えるようにしたい。やってほしいことをある程度まで整理してから、依頼用の書類としてまとめる。このとき、最小限の項目を含む資料として作成することが重要だ。依頼内容を細かく書いていたのでは、自分で作業したほうがよく、別な人に依頼する意味はない。要点だけを箇条書きで記述し、あとは口頭で説明するのがベストといえる。
 依頼資料に含める内容には、次のような項目が考えられる。

作業を依頼する際に記述すべき代表的な項目

作業の目的   :おもな目的を簡単な言葉で
作業の範囲   :何をやってほしくて、何をやらなくてよいか
途中報告の必要性:報告すべき内容と時期
作業の最終期日 :作成物を受け取る期日
作業で作成する物:最終的に作ってほしい物の形式や条件
作業に必要な情報:作業に必要な情報の所在や調査方法
作業での注意点 :作業上の要点や注意事項
成功の確認方法 :作業が成功したかどうか確認する方法

これらの項目を、すべて含めるわけではない。必要に応じて取捨選択し、最小限の依頼資料を作成する。どの項目も箇条書きで短く記述し、要点だけは伝わるようにする。これ以外の項目でも、必要だと思ったら加える。もし教育目的で作業させるのなら、相手に考えさせるようにと、注意点や必要な情報を意識的に外す。ただし、その依頼方法が当たり前だと思われないように、マトモな依頼資料の作り方も最後には教えるべきだ。
 書面で依頼するといっても、紙に印刷したものを渡すとは限らない。最近では、パソコンやネットワークが発達し、電子メールのほうが受け取った側で便利だ。依頼内容の中には、参照すべき資料の存在場所を示したインターネット上のアドレス、関連する人の電子メールアドレスなど、コピーして使いたい情報が含まれる。印刷した書類では、受け取った側で打ち直す必要があり、作業に無駄が生じる。できるだけテキストとして取り出せるように、ファイルで渡したい。
 書面で依頼するようになると、依頼する側の意識も変わる。依頼書を作成する段階で、いろいろと考えるようになるからだ。依頼書を作ることは、考えを整理することにもつながる。矛盾することや意味のないことを見付けられる。また、依頼書として証拠が残るので、よく考えてから依頼するように変わる。きちんとした依頼方法は、全体のコミュニケーションの効率を上げるだけでなく、依頼される側の教育にもつながる。

書式を決めて依頼資料を効率よく作成

 依頼作業に手間取らないようためには、いろいろなツールを上手に使いたい。もっとも有効なのは、パソコンを利用することだ。依頼資料の形式を決めれば、前に作成した資料をコピーするだけで、手早く作成できる。また、資料に含めるたい情報も、コピー&ペーストで入力を済ませられる。依頼内容ごとに何種類かのひな形を用意し、呼び出しやすいように環境を整えるとよいだろう。似たような依頼資料を呼び出し、少しだけ直して作成終了とするのがベストだ。短時間でパッと作れるように、日頃から準備しておきたい。
 書式を決めると、素早く作成できる以外にもメリットがある。もっとも大きな利点は、必要な項目が並べてあるために、記述漏れを防止できることだ。また、適切な項目が最初から用意されているので、それを埋める行為が、依頼内容をよく考えることになる。これらの内容作成作業は、慣れれば思ったほど時間がかからない。似たような依頼資料をコピーして作るため、その中には以前に考えて出した結果が含まれていて、新たに悩むケースは限られるからだ。
 依頼資料に限らず、書類を素早く作ること自体が苦手な人もいる。しかし、これからは電子メールや企画書やプレゼンテーションが常識化する。その変化に対応するためには、書類を作る能力が必須だ。書くことを難しく感じる人も、それほど心配することはない。慣れの要素が大きいからだ。ある程度の量をこなすことで、書類作成が苦痛でなくなる。最初からあきらめずに、試すことが大切だろう。

(1996年4月6日)


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