川村渇真の「知性の泉」

行動するかしないかで大きな差がつく


実力派には積極的な人が多い

 これまで仕事や普段の生活で、いろいろな人を見てきた。その結果、人間の分類方法の1つに行動力があるとの結論に達した。行動力のある積極派の人は、一部の例外事項を除いて、素早く行動を開始する。逆に行動力のない人は、どんなことでも始めるのが遅く、結局はやらないことも多い。
 面白いのは、実力派と言われる人が積極的な側に属している点だ。大きなリスクでもない限り、まずある程度まで行動して内容を把握し、続けるかどうかを判断する。世の中には、やってみなければ分からないことが多いので、素早く始めることの意味は大きい。また、人には向き不向きがあり、実際に試すことで適正を判断できる。自分に向いてないとか価値がないと思ったら、その場で止めればよいだけだ。そのため始める段階では、すぐに止めることも考慮して、最低限の費用や工数で済むように工夫する。もし価値があると判断したら、資源を投入すればよい。このバランスと判断が重要だ。
 最近の例では、インターネットを始めるかどうかの判断がある。パソコンとモデムを持っていれば、プロバイダへ加入するだけで始められる。プロバイダの費用もかなり安くなり、ソフトの設定なども雑誌や単行本で簡単に入手できる。すぐに止められるし、失敗したときのリスクはほとんどない。周りの人を見ていると、行動力のある人ほど早目に始めていた。またウェブページ作りも同様で、行動力のある人ほど最初に作り始めていた。

行動しない人は、できない理由を挙げたがる

 なかなか行動しない人には、別の共通する特徴がある。できない理由をいくつも挙げる点だ。もっとも多い理由の1つが、「忙しい」というものである。しかし、何もできないほど忙しいとは、とても思えない。忙しいというのは表面上の理由であって、本当のところは、なんとなく始めなかったというだけのようだ。つまり、行動力がないため、なかなか始めないだけに過ぎない。
 インターネットを始めたいというので相談にのった人のうち、半年以上を経過しても始めない人がごく一部いる。その人たちは、もう何年もパソコンを使っているし、モデムも持っている。アクセスに必要なソフトも、CD-ROM付きの雑誌で入手済みだ。あとはプロバイダに加入するだけなのに、なぜか始めない。費用も十分に安くなったので、待っていて得をする要素はほとんど残っていない。話をするたびに「早く始めたい」と言うので、興味がないわけではなさそうだ。行動しない人の特徴であるできない理由も、毎回異なる内容を述べる。この人たちこそ、行動力が低い分類に属するのだろう。
 積極的な人にとって、忙しさは関係ない。無理してでも時間を作り、何でも始めてしまう。時間というのは、何とか作れるものなのだ。忙しいというのは、特別な場合を除いて、理由にはならない。

素早く行動できない人は自己改革を

 すぐに始める人とそうでない人の違いは、意外に大きい。やりたいと思ったらすぐに始める人は、インターネットに限らず、どんなことでも始めるのが早い。いろいろなことを早目に体験し、それだけ有利な状況に身を置ける。逆に、なかなか始めない人は、話に付いていけないことになり、不利な状況に追い込まれる。
 このことが理解できれば、行動する側へと自分を意識的に移行する努力が可能だ。何かを始めるとき「自分はなかなか始めない性格なので、今回は積極的にやってみよう」と決心することで、以前よりは早目に始められるように変わる。ただし、すべての活動で積極的に始めるのは、かなりの苦痛が伴う。やりたいことを一覧表にまとめ、どれが一番重要かを判断し、労力を一点に集中したほうがよい。それをある程度までやり終えてから、次に重要な活動を選ぶ。このように1つ1つ順番に行動することで、無理をせずに積極的な方向へと変われる。
 一番悪いのは、試さない段階で難しいとか大変だとか判断することだ。なかなか行動できない人の多くは、勝手な思いこみで難しいと判断していることが多い。もちろん、本人はそんな風に意識しておらず、なんとなく始められないと思っているに過ぎない。その辺の感情を少し客観視してみることも、自分を変えるためのトリガーになる。

行動する前にリスクと重要度を考慮する

 積極派の人もそうでない人も、何かを始める前には、リスクと重要度を考えるようにしたい。この場合のリスクは、失敗したり無駄に終わったときの影響度だ。最悪のケースでどれだけの費用がかかるとか、時間をどれだけ費やすとか、自分に関係することが多い。まれにだが、活動の内容によっては、事件の発生や補償金の支払いなどが発生しないかも考慮する。リスクが判明したら、活動の重要度を考える。今後の仕事や趣味に必要だとか、視点や知識を広げるのに役立つとか、自分の価値観に照らし合わせて判断する。リスクと費用が低く重要なことなら、すぐにでも始めたほうがよい。
 このような考え方は、積極派の人にとっても重要だ。なんでも無条件に行動していたのでは、時間が足りなくなるしリスクも大きくなる。余計なトラブルを回避する意味からも、やって損はないことだ。自分の行動を客観視しながら、効率的に自分の能力や時間を活用する点で、現代にマッチした方法といえる。
 このように考えることは、大げさだと思うかも知れない。ところが、実は重要なのだ。世の中の多くの人は、積極的と消極的の中間に位置する。素早く行動することもないが、絶対にやらないわけでもない。ある程度の時間を経過してから、始める場合が多い。リスクと重要度を分析することで、大切なことを早めに始めるようになる。また、きちんと評価する癖が付くことは、他の全部の活動に大いに役立つ。
 これからの社会では、試してみたいことの種類が大幅に増える。自分の適正や嗜好を十分に考慮しながら、効率よく活動することが、ますます求められる。その結果、積極派の人が経験する数が増え、消極派の人との差が開く可能性が高い。気持ちの持ち方で変われることも多いで、消極派の人は試してみる価値があるだろう。

(1996年5月13日)


下の飾り