川村渇真の「知性の泉」

メモから最終作成物までを通常機能でサポートする


コンピュータを日常生活のなかで頻繁に使うようになると、ちょっとしたメモなどは、スティッキーズやエディタなどを使って、思いつくままに入力することもよくあるだろう。コンピュータ上で多くの作業を行う場合、最初のメモ段階から最終作成物の完成まで、全工程をサポートする必要がある。情報中心システムでは、通常の機能だけで対応でき、レベルの高い使い勝手を提供してくれる。


メモは多くの作業の初期段階
これを最後まで利用しない手はない

 大抵の仕事の場合、まず企画や構想の段階が最初にある。始めにメモをとり、それを利用して実際の作成作業段階へとつながってゆくのが通常のパターンだろう。メモは、多くの作業の初期段階といえる。コンピュータを幅広く役立てるためには、一番最初のメモ作業からサポートする必要がある。そうしないと、全体の仕事の効率が上がらない。それを実現してこそ、進んだシステムといえる。
 表1を見てほしいのだが、メモ機能に関しては、いくつかの条件を満たさなくてはならない。まず、メモ段階で入力した内容が、最後にできあがる作成物に、できるだけ利用できるようになっていることが必要だ。途中で入れ直したり、別なソフトにコピーする操作などは、無駄で面倒だ。また、関連するデータを、一括して管理できる仕組みも必須である。より良い成果を得るためには、どんなデータがあるのか素早く見渡し、全データを把握しながら作業を進めることが基本なのだ。

表1、メモ作業の実現内容を、OSごとに比較した結果。情報中心システムになるまでは、いろいろな制約があるため、使い勝手が悪い

               OSの進歩 =================>

表1

 さらに、ほかの作業のデータを容易に利用できることも重要である。コンピュータを幅広く利用しているユーザーは、いろいろな資料を多岐にわたる形式で持つだろうし、企画や分析に役立てることが多いからだ。こうした条件が満たされれば、一連の作業がスムーズに進められる。一部の作業だけでなく、全体での効率アップが、これからのシステムでは重要視される。
 残念ながら、既存OSやオブジェクト指向OSでは、アプリケーションやファイルという仕組みのため、こうした条件を満たすことは不可能だ。今の段階では、なにかメモするときは、ワープロやエディタ、PIMソフトを使う人が多いだろうが、それらが扱えるタイプのデータは限られる。OpenDocのようなオブジェクト技術が加わると、扱えるデータの種類は増える。しかし、テキストやグラフィックといった単位で処理するため、オブジェクトを張り付けるレベルでしかない。どんな項目のデータがあるのか、把握するのは困難だ。また、異なるオブジェクトに含まれるデータを集計する処理などは、ユーザーが面倒な操作を強いられる。それに、データの数が多くなると、目的のデータを見つけだすことも難しい。全体としての使い勝手は、まだかなり低いレベルだ。

「『始めにメモありき』は、誰でも経験しているだろう   
   この最初のアイデアを、最後まで有効活用するには?」

メモ段階でも通常データと同じく
入力作業の量も最小限に抑えられる

 情報中心システムでは、メモのために特別な機能を用意したりはしない。通常の機能を利用するだけで、メモのような用途であっても高いレベルの機能を実現できるからだ。
 メモとして入力するデータも、通常と同じように項目名や構造体名を指定する。たとえば「人物データ」、「商品データ」、データの意味に合わせて入力する。何かを説明する内容も、個々の説明部品を組み合わせた構造体データとして作成する。
 一般的に、人物や商品のように知識ベースに定義してあるデータは、内容に合わせた形で入力する。それ以外のデータは、説明内容として構造体データの形にする(図1)。自由なデータ構造でつくれるため、好きなように構成できる。個条書きの形でメモするデータも、説明内容構造体の一部として中に入れる。この構造体は、雑多なデータの入れ物として用いるため、データの種類の数だけ用意する(図2)。逆に、説明内容構造体を1つだけつくり、最初の階層を分類として用い、全部のメモデータを1つにまとめる方法もある。どちらにするかは、ユーザーの好みで決める。データ入力の際には、知識ベース内の項目定義に含まれるチェック機能が働く。メモとして入力するデータであっても、まちがったデータを検出し、より正しいデータとして保存できる。既存OSではできない芸当だ。
 こうした作業は、既存OSにおいてはデータベースを利用してメモすれば可能ではあるが、使い勝手は悪いし、そんなことをする人はいない。

図1、メモ内容や資料を一緒にして、1つの作業ステージに入れる。個々の資料にリンクしながら、メモ内容をつくる。一番上には作業項目があり、それにリンクされる

図1

図2、1つのテーマでもメモ内容を分類して、それぞれに説明内容の構造体データをつくる。このほうがメモ内容を整理しやすい

図2

 情報中心システムの特徴は、表示内容を自動生成する点である。そのため、情報本来の形に合わせてデータを入力し、表やグラフといった表現部分は含まない。グラフなどの表現方法は、必要なときに自動生成して表示させる。グラフにするか表にするかは、表示時点でユーザーが選べるし、両方を同時に表示させてもよい。このような仕組みのため、メモとして入力するデータは、最小限ですませられる。

作業ステージを用意してメモを開始
把握機能を利用すればより容易に

メモのデータであっても、目的ごとに整理する必要がある。情報中心システムでは、目的ごとに別々の作業ステージを作成して、その中にデータを入れるのが基本だ。メモ段階のデータも同様で、新しい仕事や企画を始めるときは、テーマごとに作業ステージを用意する。
 作業ステージでは、扱うデータの内容に合わせて、「対象となる分野」、「デフォルトの言語」、「単位」などを設定する。たとえば、「医療」や「財務」などの分野を設定しておいて、目的の項目名や構造体名や処理名を探しやすくする。同じ略語が異なる分野に複数ある場合、分野を特定できれば、一発で目的の項目を見つけだすことができる。複数の分野に関係する内容なら、作業ステージにも複数の分野を指定しておく。その際、優先度の高い順に分野を並べることで、項目の見つけだしやすさを調整できる。
 作業ステージ内にどんなデータが入っているかは、把握機能を利用して容易に確認できる(図3)。構造体名ごとの件数を表示するとか、説明内容の構造体データをアウトライン方式で表示するとか、いろいろな表示方法で内容を把握する。

図3、メモに用いた作業ステージ内の全データは、把握機能で確認する。外部へのリンクも一緒に表示できる

図3

 把握機能は、個々のデータを呼び出す機能も兼ねている。好みの表現方法でデータを表示し、使用頻度の高い表示条件は、把握機能に登録する。表示内容を自動生成するため、1つのデータを何種類もの表現方法で見ることができ、それらをすべて登録することも可能だ。
 データを変更したり追加するような場合でも、データ把握機能が役立つ。入力ずみのデータを呼び出し、入力モードに切り替えて、値を変更する。新しいデータを追加する場合は、関連するデータを表示させ、そこに追加する形で入力モードに切り替える。データの入力も含めて、データ把握機能を利用する。

メモ段階でさまざまな試行錯誤が可能
分析やシミュレーションもとても容易

 こうしたシステムではメモ用としての特別な機能は用意していないが、システムが持つ全部の機能は、メモするときでも使える。また、数値の合計や平均を求める計算、画像データの加工、シミュレーション機能を利用した分析など、どんな処理でも呼び出せる。また、数号前の誌面でも説明したが処理の把握機能を用いれば、流れを理解しながら作業のフローを作成できる(図4)。さらには、処理や項目のヘルプを呼び出せば、意味や役割も調べられる。
 新しいビジネスの企画を立てるような用途では、メモ段階であっても、シミュレーション機能を活用すればよい。本当に儲かるかを調べたり、どんな条件を満たしたときに企画が成功するのか、いろいろな機能を使って分析する。メモ段階だからといって、単純な機能だけを使うとは限らない。そんな制約を設けると、逆に使いやすさが低下する原因となる。より自由な環境が、これからのシステムでは必須だ。

図4、メモの段階でも、処理の流れ図をつくって、自由にデータを処理できる。視覚的に処理の流れを見られるので、処理内容を把握しやすい

図4

 加工などの機能を用いても、入力したデータはひとまとめに管理することができる。作業ステージ内に入れたまま、すべての機能が使えるからだ。また、加工処理で得られた結果も、自動的に同じ作業ステージ内に入れることができるので、保存場所を気にする必要はない。
 データの加工や分析では、ほかの作業ステージのデータを一緒に用いることが多いだろう。こんなとき便利なのは、目的のデータをリンクさせておくだけで、簡単に使うことができるようになっていることだ。加工に用いるだけでなく、一覧表にまとめて比較するなど、幅広くデータを活用できる。もちろん、どのデータでも、コピーしたり入力し直す必要はない。
 メモ段階での試行錯誤には、いろいろな表示内容を自動生成する機能を使うと便利だ。1つのデータを異なる表現方法で表示させることができるので、多面的に分析できるからだ。加工方法と表示方法のそれぞれで何種類かを組み合わせると、より深い分析も可能である。いくつも試せるのは、加工処理の操作が簡単で、表示内容を自動生成することが、大きく貢献している。使いやすくなければ、多くの組み合わせを試すことはできない。

「たんなるメモと馬鹿にするなかれ             
  シミュレーション機能などを利用し、早くから分析を行う」

操作を統一すれば、混乱も少ない
徹底的な自動化で、操作を軽減

 情報中心システムのように、メモ機能を特別に用意しなければ、おのずと操作の統一も実現できる。通常と同じ操作なので、ユーザーの混乱は非常に少ない。このメリットは、メモ以外の使用方法でも同じで、全体として操作方法を覚える量が減る。記憶力が低下しがちな高齢者にとって、扱いやすいシステムとなりうる。
 既存OSでは、ユーザーインタフェースのガイドラインをつくるなど、ある程度の統一を試みてはいる。しかし、実際には似たような機能でも、アプリケーションごとに操作方法が異なってしまう。特にマルチプラットフォームのアプリケーションでは、OSごとのルールに合わせてインタフェースを設計せず、基盤と決めたOSに合わせるため、アプリケーション間の差が拡大する。このような状況では、ユーザーが混乱するのも当たり前だ。特にだれもが使う時代に突入すると、アプリケーションの機能をきちんと使えない人の数も多くなる原因になる。同じ機能なのに、アプリケーションがちがうと操作方法も異なる現状は、将来情報中心のシステムになったときには理解しがたいこととなるだろう。
 操作方法の統一は、システムの基本構造に大きく関係する。既存OSのように、同じような機能をアプリケーションごとに持つ仕組みでは、同じ機能であるにもかかわらず異なる操作をしなくてはならない、ということになりやすい。ところが情報中心システムでは、徹底的な自動化により、操作する部分が少ない。さらには、ほとんどの機能を部品ソフトとして組み込み、同じ機能を別々につくる状況をなくすのである。

余計な労力をかけないためには
シームレスな作業環境が前提

 以上のように、情報中心システムでは、作業の初期段階から最終段階までを総合的にサポートする。メモ段階で入力したデータが最後まで活用でき、使用するソフトを切り替えるような切れ目がないため、ここまでがメモだと意識することは少ない。その分だけスムーズに作業でき、本来の内容に集中できる環境だ。
 既存OSでは、もともとの作業量が多いことに加え、アプリケーションやファイルを意識するため、余分なことに労力をとられる。また、メモするために専用のソフトを用意し、機能が限定されるような仕組みなので、これ以上使いやすくはならない。メモ以外の部分でも、いろいろな制限があり、注意しながら使う必要がある。
 今後のシステムでは、情報を扱う作業全体を十分に検討し、総合的な使いやすさを提供することが求められる。その際に満たすべきことは、無駄な入力を防止するといった低レベルの条件だけではない。どんな段階でも自由にデータを加工でき、なんでも試せる環境だ。また、ある程度まで適当にデータを入力しても、全データを容易に把握できるような融通性も必要だ。
 情報中心システムでは、情報が持つ特性を重視するとともに、情報を扱う作業を総合的に考慮しながら、システムの仕組みを構築してある。そのことが、情報作業全体での使い勝手を向上させるわけだ。データの把握も助けてくれるし、余計な制約は少ない。既存OSやオブジェクト指向OSとは、設計思想が根本的に異なる。
 今回は、作業の初期段階に行うメモを中心に、一連の作業を終えるまでの全体的な使い勝手を考えてみた。これにより情報中心システムが、情報を扱う作業について、総合的に考慮していることが明らかになったと思う。個々の機能の優秀さだけでなく、ユーザーが行う作業全体を高いレベルでサポートしてこそ、優れたシステムといえる。それを実現するためには、情報中心システムが持つ機能をクリアすることが、最低限必要なのである。

「煩雑な作業を強いる現行のOSのシステム          
  本来なら、すべての段階で自由度の高い作業を保証すべき」


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