川村渇真の「知性の泉」

コンピュータ中心から情報中心へと進歩


情報中心システムへと発展

 既存のコンピュータシステムの次には、オブジェクト指向OSにエージェント指向技術を加えた仕組みが登場すると言われている。それが実現しても、ファイルやアプリケーションといったコンピュータ側の仕組みを、ユーザーが意識しないと使えない。システム全体をコンピュータ技術中心で設計してあるからだ。その意味から、オブジェクト指向OSも含めて、コンピュータ中心システムと呼ぶ。
 しかし、次の段階のシステムでは、コンピュータ技術が中心ではなく、人間が情報を扱う全作業を中心に考える。情報が持つ特性を理解し、人間が作業しやすいような方向で仕組みを作る。コンピュータ技術は、可能な限り水面下に隠し、神経を情報に集中できるような環境に仕上げる。その意味から、情報中心システムという名前を付けた。

情報中心システム

 コンピュータ中心システムと情報中心システムの差は、非常に大きい。とくに使いやすさでは、比べものにならないほどの違いがある。情報中心システムへの移行は、システムとしての大きな進歩となる。

情報作業環境モデルを考えるべき

 情報中心システムを設計するためには、システムを構成する要素にも、新しい視点が必要だ。今までのようにハードとソフトで二分するのではなく、その上に「情報作業環境モデル」を置く。これは、情報を扱うための機能や作業環境を定義する論理モデルで、何を作るか(Whatに相当)を決める部分だ。残りのハードとソフトは、定義した論理モデルの実現方法(Howに相当)を決める部分である。これまでの設計方法では、情報作業環境モデルをきちんと考えておらず、ソフトと混合して扱っていた。

情報作業環境モデル

 情報作業環境モデルで扱う内容は、ユーザーインターフェースだけではない。情報の上手な表現や、創造的な情報作業の支援も含んでいる。

情報作業環境モデルは3レベルで構成

 情報作業環境モデルは、下から順番に、操作レベル、表現レベル、創造レベルの3層に分けられる。上の層ほど、より重要な機能である。

情報作業環境モデルの3層

 操作レベルでは、ユーザーが操作する部分に関して、根本的な改良を実現する。今までのように、いろいろなソフトを操作して書類を作るのではなく、情報そのものを扱うような環境に変える。最終的にほしい情報を最初に指定して、それを求めるために必要な情報を選びながら、作業を進める。ユーザーが操作する部分は非常に少なく、コンピュータを使う本来の目的に、神経を集中させられる。
 表現レベルでは、情報を分かりやすく整えて表示する機能が目玉だ。分かりやすい表現方法は、表現ルールとしてシステムに登録してある。そのルールを用いて、一覧表や組織図や流れ図などを、元データから自動生成する。既存のシステムのように、ユーザーがソフトを操作して、図や一覧表を描く必要はない。表現ルールを適用して自動生成するため、分かりやすい内容が簡単に得られる。その他にも、情報を評価して表示するといった、付加価値を加える機能も含まれる。
 創造レベルでは、創造活動支援と創造力向上支援の2つに分けられる。創造活動支援は、アイデアを求めることや、問題の解決案を考えることなどを支援する。創造力向上支援では、ユーザーの創造力を向上させるために、いろいろな機能を提供する。

だんだんと上位層の機能が加わって進歩する

 情報中心システムでは、下の層である操作レベルからだんだんと機能が加わって進歩する。同じ層内でも、より高度な機能を追加することによって、前よりも使いやすくなる。つまり、各層での機能向上とともに、上の層の機能が加わることの2つの方向で、システムは進歩する。最上位にあたる創造レベルの機能が加わった段階で、ようやく「思考支援コンピュータ」と呼べる状態になる。思考支援コンピュータは、情報中心システムの最終段階だ。

コンピュータの進歩

 情報中心システムの次には、人間中心システムが控えている。その内容ついては、ある程度までまとまったら(おそらくは21世紀の初期に)発表する予定だ。

(1995年7月12日)


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