川村渇真の「知性の泉」

研究を始めたきっかけ


間違った方向に進んでいるのではと感じた

 現在の世の中では、最先端の技術に関する情報でも、比較的容易に入手できる。とくにコンピュータの分野では、国内外の論文だけでなく雑誌や単行本にも、新しい技術の情報がかなり多い。また、ネットワークの発達によって、最新情報がより容易に入手できる環境が整っている。
 これらの方法で得た情報を総合的に検討した結果、次世代コンピュータの設計に関しては、基本的な認識が大きく間違っていると感じ始めた。もっとも大切な点が理解されないまま、将来のコンピュータが開発されている。このままでは、非常に使いやすいコンピュータが登場しそうもないと感じた。それが、そもそもの始まりだった。

根本的な部分では、ほとんど進歩していない

 最近のコンピュータは、パソコンを中心に、かなり高機能になったと言われる。たしかに、ワープロソフトやDTPソフトは機能を増し、凝ったレイアウトでも編集可能になった。また、動画やサウンドのデータも、かなり簡単に編集できる。マウスを中心とした操作方法が一般化して、コマンド中心のコンピュータよりは操作が簡単になった。ハードディスクやメモリの容量も増えたし、CPUも低価格で高速化を実現している。
 しかし、本当に使いやすくなったのだろうか。相変わらず、ファイルフォーマットを意識しなければ、データを広く活用できない。また、機能が増えるにしたがって、使いやすさはどんどんと低下する。ちょっとした書類を作成する場合でも、多くの操作が必要になる。専門家は疑問に思わないようだが、コンピュータに関連した多くの知識がないと使えない。などなど、挙げていけばキリがないほど、問題点は多い。
 こんな現状にもかかわらず、より容易に使えることを、多くの研究者は真剣に考えていないようだ。プログラミングを中心とした技術ばかり重視し、「コンピュータは情報を扱うための環境だ」ということに、ほとんど気が付いていない。このような視点の欠如こそ、間違った方向へ進んでいる大きな原因である。

エージェント指向技術では解決できないと確信

 どんどんと肥大化して複雑さが増すコンピュータは、使いこなすのが難しくなりつつある。この問題を解決する切り札として考えられているのが、エージェント指向技術だ。ただし、エージェント指向技術自体は、これから10年程度で研究が進むとも言われており、まだ骨格が固まっていない技術でもある。切り札として絶対的な信頼を置かれているのではなく、可能性があると期待されているだけなのだ。
 よくよく分析すると、使い勝手を大きく改善できるだけの論理的な根拠はほとんどない。唯一の拠り所は、いろいろな状況を判断して自動的に実行するという、エージェント指向が目指している方向にある。この「自動的に実行」という部分だけで、大きな期待を持たれている。解決方法になりうる技術が、それ以外に見あたらないことも、期待されるもう1つの理由だ。このように、消極的な背景によってエージェント指向技術が注目されているのだ。
 ところが、現実は、そう甘くはない。エージェント指向技術で解決できる問題は、非常に限られている。現在のコンピュータが使いにくいのは、ファイル+アプリケーションという仕組みが根本的な原因だ。それをエージェント指向技術で解決しようとするのは、根本原因を直さずに、小手先の改善で解決することに等しい。

もっと使いやすいシステムが作れるのに

 世間がエージェント指向技術に注目している間に、まったく違う視点から、コンピュータの仕組みを見直してみた。コンピュータ技術を中心に考えるのではなく、情報に関する作業を快適に行うための環境として、コンピュータを分析した。
 その結果、まったく新しい仕組みを思いついた。エージェント指向技術による解決ではなく、システムの基本部分の仕組みを根本的に作り直すことで、多くの問題を解決できる。つまり、小手先の改善ではなく、根本原因を直そうというわけだ。当然、オブジェクト指向OSにエージェント指向技術を加えた仕組みよりも、はるかに使いやすいコンピュータが作れる。まったく異なる仕組みのため、今までには考えられないレベルの高度な機能を実現できる。
 その内容こそ、ここで紹介する新しいシステムだ。エージェント指向技術の次だけでなく、さらに先のコンピュータも、ある程度はすでに考えてある。それに関しても、時期を見て発表する予定だ。

(1995年7月4日)


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