川村渇真の「知性の泉」

代表的な新機能の概略


ここで説明する内容は、情報中心システムの初期段階で実現する機能だ。それでも、これまでのシステムよりは格段に進んでいる。初期段階の機能であることを理解しながら読んでほしい。


最終的に得たい情報を、最初に指定する

 情報中心システムの使い方は、オブジェクト指向OSまでのシステムと、根本的に異なる。既存システムでは、まず最初に使用するアプリケーションを選び、それを起動してからデータを入力する。
 ところが情報中心システムでは、アプリケーションやファイルという概念はない。最初に指定するのは、最終的に何がほしいかだ。たとえば、貸借対照表が見たいとか、組織構造が見たいとか、目的となる情報の種類を指定する。ある人の住所を調べたいなら、住所が見たいとか、人物の情報が見たいというように、何種類かの呼び出し方法が利用できる。

情報中心システムの作業の流れ

 次の段階では、最初に指定した項目に該当するデータを一覧表示するので、その中から見たいデータを選ぶ。もし選ばなければ、該当する全データを対象とすると解釈される。人物データを指定した場合、ディスク内の全部の人物データが表示対象となる。個別に選ぶほかに、抽出条件を加える方法もある。年齢や性別などの条件を与えると、該当する人物データだけが表示対象として選ばれる。条件はいくつでも指定でき、何件のデータが抽出できたかを表示する。
 表示するデータを抽出する際に、なんらかの加工処理が必要なこともある。たとえば、見たい情報として肥満率を指定した場合で、肥満率を計算する処理が知識ベースから呼び出される。同時に肥満率の処理定義も見て、身長と体重のデータが必要だと判断し、身長と体重を含んだ人物データだけを選択候補とする。貸借対照表も同様で、その中を埋めるための全処理を呼び出し、必要なデータを集めてくる。その結果、貸借対照表が作れる企業や個人のデータを表示候補として一覧表に並べる。
 このような機能を実現するための基礎となるのが知識ベースだ。人物データや貸借対照表などの全項目の定義に加え、肥満率などの処理内容も定義として入れる。ユーザーが独自の処理を実行したい場合は、項目や処理内容を先に定義してから処理を始める。ここで用いる知識ベースは、人工知能のような難しい機能は含んでおらず、項目の属性やグループ化、単純な処理内容を入れるだけだ。
 この工程の最後には、表示内容を作るための構造体データを作成する。このデータから表示内容を作るのであって、データをそのまま表示することはない。

分かりやすい表示内容を自動生成する

 表示内容の作り方も、情報中心システムでは大きく変わる。表示用に作成した構造体データをもとに、最適な表現方法(一覧表、構造図、グラフなど)を選んで、表示内容を自動生成する。組織構造を見たいなら組織図を描き、住所を見たいなら一覧表形式で人物データを並べる。どのような表現方法を用いるかは、データの種類で決まる。知識ベースを参照しながら、最適な表現方法で、目的のデータを表示する。
 表示内容の自動生成における最も重要な点は、情報を分かりやすく表示するための表現ルールを用いることだ。項目数が多い場合は小さな文字サイズや略語を用いて表示するとか、強調する部分を色分けするとか、考えられる多くの要素で表現ルールを適用する。その結果、手動で注意深く作成したよりも、分かりやすい表示内容が得られる。それも、自動生成でだ。
 自動生成した表示内容をもし気に入らなければ、手動で変更することもできる。ユーザーが変更するケースの多くは、別な表示方法に切り替えることだ。ただし、どのような表示方法が好きかを学習する機能も用意するので、何度か切り替えていると、同じ種類のデータでは、好みの表示方法が一発で出るようになる。
 ときどきデータを入力するものの、一度入力したデータは全部の機能で利用できるため、再び入力することはない。既存システムのように、同じデータをアプリケーションごとに入力することはありえない。また、入力するといっても、本当のデータ部分だけなので、入力の手間はかなり少ない。既存システムの場合は、ソフトを操作する部分の多くは、データの入力ではなく編集作業だ。総合的に見ると、情報中心システムでは、ユーザーの操作する部分が極端に減る。

知識ベースのヘルプ機能で勉強しながら操作

 ほとんどの機能が自動なので、表示内容の生成まで待つことが多い。コンピュータの処理能力が向上すれば、待ち時間が大きく短縮されて、待つこともなくなるだろう。だとしても、もう少し役立つ情報を与えたい。その1つが、知識ベースに入れる項目や処理の説明だ。貸借対照表の説明なら、各項目の意味や役割りを入れて、どんな目的に利用できるかを調べられるようにする。
 他のシステムでのヘルプは、ほとんどがソフトの操作方法であって、扱うデータの意味などは説明の対象としていない。情報中心システムでは、ヘルプする内容すら変えてしまう。そのおかげで、勉強しながらコンピュータを使うことも可能となる。自分が知らない分野の処理は、知識ベースの説明を見ながら処理を進められるので、学習環境すら大きく変えてしまう。

知識や表現ルールの追加で機能強化

 ここまで説明したように、このシステムのキーとなるのは、知識ベースと表現ルールだ。これらの内容を追加することによって、システム全体での能力を向上させられる。新しい分野のデータを処理したければ、項目や処理の定義を加えればよい。自動生成する表示内容の質を向上させたいなら、新しい表現ルールを追加すればよい。
 この項の最後に、情報中心システムの特徴を整理してみよう。

1、最終的に得たいデータを指定して、あとは処理方法とデータを選ぶだけ。
2、最適な表示方法をシステム側で選び、表示内容を自動生成する。
3、表現ルールを用いて、分かりやすい表示内容を最初から提示する。
4、ユーザーが操作する部分が、極端に少ない。
5、使用する項目や処理の意味を調べながら、処理が進められる。

以上のように、これまでのシステムでは考えられないほどの進んだ機能を実現する。

(1995年7月19日)


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